きいろのきつねとみどりのたぬき・3





お二人はとても仲睦まじいと思います。
別にそれはぼくがそう思わなくても、お二人を知っているひとならば、誰もがそう答えるくらいには、お二人は仲が良いと、そう思います。





今日は朝からとても良い天気だったので、ぼくは任されている掃除や簡単な仕事をいつもよりももっと早く終わらせようと頑張っていました。
ついこの前までは曇りの日が多かったので、久しぶりの晴天にお洗濯ものが良く乾くと嬉しそうなきぃさまをお手伝いしながら、全部終わったらきぃさまとふたりでひなたぼっこをしようとお庭を掃きながら決めたのです。
汗をいっぱいかいて、頭をぼさぼさにしたぼくがきぃさまに仕事が終わったことを伝えに行くと、きぃさまはちょっとだけ驚いた様な顔をした後、すぐにぼくの頭を撫でて褒めて下さいました。着替えをしておいで、と背中を押されて、ぼくはすぐに部屋に戻って着替えを終えると(この前きぃさまが縫って下さった薄水色の浴衣は最近のぼくの一番のお気に入りです)、きぃさまは小さく笑いながらぼくを手招いてくれました。
「今日はいっぱい頑張ったんスね、黒子っち」
「はい、がんばりました」
きぃさまが用意して下さったお菓子を頬張ると、甘くてやさしい味がします。カステラ、というのだと教えてもらいました。
「おいしいです」
「でしょう?」
「きぃさまが作ってくださったんですか?」
「んーん、違うっスよ」
誰かからのお土産なんだろうか、ともくもくと口を動かしていると、ついてるっスよ、と頬をきぃさまの指が拭ってくれました。
「良い天気っスね」
「はい、お日さまぽかぽかです」
縁側のいっとう日差しが心地良い特等席に、ぼくときぃさまは座っています。しばらくして、うとうとと船を漕ぎそうになっていたぼくの頭をやさしい手が引き寄せてくださり、ぼくはその手に逆らわずに素直に頭を倒しました。
「ちょっとお昼寝しようか」
「……ふわ、は、い」
くっつきそうになる瞼を何とか押し上げると、きぃさまがぼくの好きな笑顔で笑っていたので、ぼくも笑顔を作って、それからすぐに意識は眠りの底に沈んでいったのです。



どれくらい眠っていたのか分かりませんが、数時間か、あるいは数十分か、そのどちらであったとしても関係ないと思ってしまうくらいには心地良い眠り中で、きぃさまの小さい笑い声が聞こえた気がしてぼくは目を瞑りながら無意識に耳をそばだてていると、ぼくの耳はしっかりときぃさまの声を拾うことができました。

「ふふ、緑間っち、くすぐったいっスよ」
くすくすと笑うきぃさまのやさしい声のあとに、低くて落ち着いた声が響いてきました。その声はきぃさまの声と並んで僕の耳にしっかりと届きます。
「お前がくすぐったがりなだけだろう」
「ええ?そうっスか?」
「さあ、他と比べたことがないから分からん」
「……緑間っちのそういうところ、ずるいって思うんスよね」
「何がだ」
「なーんでもないっスよ。緑間っちが俺のこと好き過ぎるだけって話しで、」
「何を当然なことを言っているのだよ」
「……ほら!もう!」
「待て、待て黄瀬。何故叩かれるのだ、俺は」
「自分の胸に聞いてみれば?」
「…………黄瀬」
「早々に放り投げないでよ、もう」

トゲも何もない、やわらかくてあまい声。

「緑間っち」

きぃさまが主さまだけに呼ぶ声。
静かな衣擦れの音がして、うっすらを目を開けようとしたぼくの目の上に、主さまの大きな手がきぃさまに見つからないようにかぶせられてしまってその後のお二人が何をしていたのかはぼくには見えませんでした。

「……ん、もう、誰かに見られたら、どうするんスか?」
「別に困らん」
「カズ君に見られたら冷やかされちゃうっスよ?」
「見せつけてやればいい」

その言葉がどうもぼくにも向いているような気がして、何だかなあ、と溜息を吐きたくなりました。
別に、そう別に。きぃさまを主さまから盗ろうだなんて大それたこと、ぼくが考えることなんてないのに。
案外心配性な主さまは、きぃさまをそれはもう大事に大事になさっているので、過保護過ぎるんスよね、と苦笑しつつもうれしそうなきぃさまを見上げては、ぼくはお二人の仲が良いのはとても良いことだと思っているのですけれど。
でも、ぼくはきぃさまも、きぃさまのお膝もとてもとても大好きなので、きぃさまが気付かれるまではもう少しこのままでいようと思ってしまうくらい、きぃさまを譲れないなんて考えてしまうのです。
だけどそんなことは当然、ヤキモチ焼きな主さまには当分ないしょのヒミツです。







20141019
随分本当に長い間拍手に居座っていたですよすみません。この三人の家族が好きなんです。






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