Faith




全くもって、予想外であったと。
今になってそう思わずにはいられない。当時については自分自身を客観的に見ることなんてできなかったし、それができたとしても導き出される答えはおよそ、受け入れ難かったことは否めない。
なにしろ、本当に。
何がどうして、こうなっているんだか。





「はっきり言えよ、黄瀬」
――いやいや。待ってよ。なんで俺は追い詰められているんですかね。
「あのさ、青峰っち」
「おう。答える気になったか」
「いや、答えるっていうか、そもそもどうして俺たちこうなったんだっけ」
「お前、忘れたのかよ」
「忘れてねえよこんなこと!?」
だって、現在進行形でお互いまっ裸ですからね!?
「あんた居乳好きじゃねーか」
「おう、好きだ」
「俺、おっぱいないじゃないっスか」
「ねえな」
いや、言いつつ何手を伸ばしてきてんだあんたセクハラか!!
「ずっと揉んでりゃ大きくなるんじゃねーの?」
「ならねえよ!!!?」
もうやだ、このガングロ!
「あのさ、俺たちさ、放課後までワンオンワンしてたっスよね」
「ああ」
「んでさ、帰るってなって外出て暫くしたら雨が降ってきたんスよね」
「おう」
「それで、近いってんで青峰っちのお家にお邪魔したんスよね」
「そうだな」
「で、今日は青峰っちのご両親はいないってんで、シャワー借りたあとの流れでお泊りすることになったんスよね」
「そうだ」
「夕飯は青峰っちのお家のカレー貰って、足りない分は適当に作って食べて、美味しかったっスね」
「まあ、さつきに比べたらな」
「青峰っち、桃っちに失礼っスよ。――で、それでテレビ見て、そろそろ寝るかってなって、布団をどこに敷くかって俺は聞いたんスよね」
「聞かれたな」
「そしたらいいだろ、そんなもんって言われて、俺はあんたのベッドの上に引き倒されたんスよね。……それで、どうして、今、これもの凄く言いたくないんですけど、……俺のケツの穴が痛いんスかね」
「俺の息子がそこに入ったからな」

簡潔で決定的な答えをありがとうございます。

「なんて言わねえよおおおおおっ!!!だああああああっ!!!!!なんでだよ!!?マイちゃんはどうしたっ!!?」
「アホ。マイちゃんとお前を比べんな!」
「そうっスよね!それがあんたっスよね!よっしこれでオッケイっス!それじゃシャワー貸してください!俺は寝たい!安らかに!」
「え、まだ要らねえだろ」
「は?」
「一回やっただけで終わっちまったし、俺はまだ足りねえから。あともう一回やんぞ、黄瀬。いいだろ?」
「それバスケで聞きたかったセリフっス青峰っち!俺にとっては一度だろうが二度だろうがもういいっス、ノーセンキューっス、ご馳走様っス、お腹いっぱいっス!!」
「……黄瀬」
あ、青峰っちが神妙な顔してる!良かった正気に戻って、

「腹いっぱいって、エロいな」
「うん、分かった。まずは会話をしよう!青峰っち!俺と!いいっスかね!俺はもうしないっス!はい、しないって言った!」
「したくねえの?」
「したい訳ねえっしょ!?」
そう叫べば、青峰っちが、なんか難しい顔して、
「じゃあ、質問変えるわ」
あ、なんか嫌な予感がする、って思ったら。
「嫌だったか?」

――こうやって突かれたくないとこ突いてくるのが、本当に何なんだろう。分かってやってるのか。
いや、青峰っちのこれは本能だ。

「ノーコメントっス」
「ってことは嫌じゃねえんだな」
すげー嫌な顔でにやにや笑ってる青峰っちを俺は思いっきり殴りつけたくなったのでその通りにしました。
捻りをつけた右ストレート。
やられる前にやれ。は赤司っちからの教訓だ。(やれ、の文字が殺って文字に聞こえたのは気の所為だと思いたい。心から。あ、でも隣にいた緑間っちの顔が若干青褪めてたから多分間違いない。やべえ、気付かなきゃよかった)
「……っ痛ってえな!」
「痛くしたんスもん!」
ザマーミロ!と舌を出してあかんべーをしたら、青峰っちがぽかんてした顔をして、それからくはっていつもの顔で笑った。

「可愛いな、黄瀬」

……おいおいおいおいおいおいおいおいおい誰だよあんた!!!??
俺の知ってる青峰っちは俺に可愛いなんて言ったりしないっスよ!絶対に言わないっスよ!?どうしたんスか青峰っち!何か変なものでも食べたんでしょう絶対そうだ!夕飯に作った賞味期限が切れちゃってたチーズを使ったオムレツが不味かったんスかね!あれ俺も食べちゃったんだけど、俺もそのうち青峰っちが可愛いとか言う様になっちゃうの!?ヤダ怖い!ホラーっスわ!どうしよう!
「いや、俺が可愛いとかねーわ」
「ですよね!」
あ、心の声、全部出てたみたい。
「安心しろよ、俺だけだから。お前が可愛いとか」
「余計に安心できない感じなんスけども!?」
ベッドから降りようとしたら気配を察知した青峰っちに止められた。やだもうこの野生児!
「はーなーしーてーっ!!!」
「やーだよ」
「俺をどうするつもりっスか!」
「決まってんじゃねーか」
肩越しに振り返ったら、俺の唇、青峰っちに食べられちゃったんですけど、え、ちょっと。
「第二ラウンドといこうじゃねーの?」
脇に手を入れられて俺のまっ平らな胸に手を這わせて、おいこら待てやるなんて言ってない許してない何だって言うんだ俺が何したって、
「最初にちゃんと言っただろ? 好きだ、黄瀬」

馬鹿じゃねーの、の言葉は結局青峰っちに飲み込まれたままで出て来なかったので。
そのあとのことは、もう、ご想像にお任せします……。


***


なんてこともあったなあ、と振りかえったのは高校一年冬。はい、正に今です。あれから色々あってキセキの皆とは高校もバラバラ。青峰っちとはあれからも何回も身体を繋げる羽目になったけど、バスケが好きな癖に強くなり過ぎてつまらねえとか何か色々と上手い具合に拗らせちゃた青峰っちは(赤司っちに感化されたのかなあ?)、それでも俺が誘えばワンオンワンはしてくれてて。
そうなってからも身体の関係は何だかんだと切れずに続いていたけれど、これも一過性のもので高校が分かれてしまえば青峰っちも俺とのことは若さゆえの過ち、なんて気付いて、以前の様に、いや以前以上におっぱい星人に戻って可愛い女の子を彼女にするだろうって思っていたから。惰性ってわけじゃないけど(ああ見えて青峰っちは懐に入れた人間には無条件で優しいので)、伸ばされる手は拒むことなく受け入れることに慣れてしまっていた俺は、まさかそれが高校になっても続くことになるだなんてこれっぽっちも考えておりませんでした。
それが、結果としてこんなことになるのであれば俺はもっとちゃんと最初のときに言質を取っておくんだったって今更後悔しても遅いんだけど、さあ。



「だから、言ってんだろ。黄瀬は俺と付き合ってるんだっつーの」
「黄瀬はそんなこと言ってねえじゃねーか!お前の思いこみだろ!?」
「分からね―の?あいつの顔見ろよ、俺を見るときのアイツの顔。マジ天使かってなくらいの可愛さじゃねーか。俺に恋してる顔じゃねーか。ほらお前に入り込む隙間なんてねーだろ。はい。終わり。」
「アイツの顔が天使みてーに可愛いのは元からだろうが!アイツはお前のバスケには惚れてるんだろうけど、お前自身に惚れてるなんて聞いた事ねえぞ!」
「そりゃお前、あいつは恥ずかしがり屋だからな」
「そのドヤ顔やめろ、ウザい」
「っは、負け惜しみかよ。残念だったな。黄瀬は俺のだから諦めな」
「だから、黄瀬はそうだって言ってねえだろうが!聞いてみろよ本人に!!」
そこでこっちを見ないでくれませんかね。俺はここにいません。黄瀬なんてここにいませんから。
「黄瀬君、呼ばれてますよ」
「……うん、あの、ごめん、黒子っち。俺、帰っていいかな」
「あの二人を僕に押し付けたまま君だけ先に帰ったら、今後一切電話もメールも出ませんよ」
「さすが黒子っち。俺が一番それやられたらキツイことを平気で言ってのけるんだからそこに痺れる憧れるっス」
「それはどうも。まあどうでもいいですから、早くあの二人、っていうかあのケモノ二匹どうにかしてきてくださいよ」
いや、俺もどうにかできるならどうにかしてますけど、どうにもできないっていうか、やだもう目が。目が怖いんですあの二人。
「黄瀬君、男は度胸です」
「そうっスね。度胸っスよね。でも度胸でどうにかなる様な気がしないのは俺だけっスかね」
「骨は拾ってあげますから」
「……あれ、これ俺に死亡フラグ立っちゃってますか?」
「頑張ってください」
まったく頑張れって顔と声じゃないっス、黒子っち。いや、うん、巻き込んで悪いって思ってるっスけど、これだって俺の……あれ、俺の所為なの?

「黄瀬、来い」
ああ、うん、青峰っち。俺まだ覚悟が出来てないんですけど……って、ちょっとおい、コラ顔近いって、あ、

「〜〜いっ、いきなり何するんスかーっ!!!?」
「何って、キスだろ。ほれ、もう一回」
「キスだろ、じゃねー!やらせねーよ!?公衆の面前で何してくれちゃってんの!!?」
「ほら見ろ、嫌がってんじゃねーか!」
「お前の目は節穴か?見ろよ、顔真っ赤で、照れてるだけじゃん。なあ?」
「泣いてるだろ!」
「気持ち良かったんだよなー、黄瀬?」
言いながら腰撫でるな!あんたの所為で弱くなったんだよそこ!
へ、変な声出ちゃうから、やめろって!
「あ、おみねっちのばかあああっ」
うわあああああんこんなの俺の声じゃねえええ!!なにこの甘ったるいの!やだ!俺この前撮影した雑誌の特集の女の子が彼氏にしたいランキングで一位取ったんスよ!?この前カメラマンさんにだって、黄瀬君最近色気出てきてすごくいいよって言われて、って

「……やべえ、破壊力……」
まって、火神っち。あんた何で股間抑えて前屈みになってんの。
で、青峰っちはなんでそんなにデレデレした顔してんのって、おい、ちょ、ばか、どこ触ってっ
「ここ、触られると駄目なんだよなーお前。すげーそそる顔するから直ぐ分かる」
あ、やばい。青峰っちのスイッチ入っちゃってる。この顔してる青峰っちは、俺が駄目って言ってももう無理だからって言っても関係なしに朝までコースの絶倫野郎になってしまうんだ。
直ぐに逃げよう、そうしようって思ったんですけど実行する前に手が、ちょっと、あんた離して!腰に回した手をどこに突っ込もうとしてんの!ここは外です!!!
「ふぁっ!」
ぎゃあああああ変な声出たあああああ!!!もうやだあああああ!!!俺やだっていうのに、言ってるのにこのガングロは!

「きーせ、おら、素直になんならもっと気持ち良くさせてやんぜ?」

そんなこと言ってもう騙されないんスからね!そう青峰っちが俺に言って何度死にそうな思いをしたか、あんたは分かってない!青峰っちの気持ちいいは、俺にとって良過ぎてもう何が何だか分からなくなってそんで青峰っちだけで頭の中がいっぱいいっぱいになっちゃって他に何も考えられなくなっちゃって青峰っちの息遣いとか汗のにおいとかマメだらけの手のひらの感触とか俺の中にいる青峰っちの息子さんの熱とか掠れた声で俺の名前を呼んだときに俺が答えると馬鹿みたいに幸せそうな顔するとかそんなんばっかりで、そのうち青峰っちが女の子と付き合うようになったらこれも無くなっちゃうんだなあって思ったときのもやもやとか、あれ、ちょっと、何その顔、なんでそんな嬉しそうな、……あ?やば、今の声に出てたっ?……って、

「つーわけで、今日のストバスはここまでな。じゃーなテツ。バ火神よろしく」
「はい、リア充はさっさと爆ぜてください。いや爆ぜろ」
「声がマジだぞ、テツ」
「いいから行け。この失恋男を僕に押し付けていくんですから後でバニラシェイク奢りなさい必ずだ」
「わーったよ」
絶対零度の声で黒子っちが青峰っちになんか言ってるんだけど俺はなんかそれどころじゃなくて、いやだって、俺、あれ?俺、青峰っちのこと、
「黄瀬」
青峰っちが俺を呼ぶ。俺は顔を上げて、そんで青峰っちが視界にいっぱいになって、そうしたら、もう、

「やっとだな」
おせーよ、自覚すんの。

そんな、仕方ないって顔で笑われて、俺、どうしよう、顔熱い気がする。っていうか絶対真っ赤だ。未だかつてない情けない顔してる気がするんだけど、このひとが俺のそういうとこ隠すのを許してくれるわけもない。だけど、ねえ、これだけは聞いておかないと。
「青峰っち」
「あん?なんだよ。帰れとか無しだぞ。今日はこのままお前のとこ行くからな。そんで朝まで離さねえから覚悟しろ」
「ううん、そうじゃなくて、その、」
あの、と口を開いたままでいたら、青峰っちの手が伸ばされて俺の目の上に手のひらを当てて周りから俺の視界を塞いできた。そのままで大人しくいたらさ、優しくて甘ったるい声で、

「最初からだ」

俺の欲しい答えをくれた。
ああ、なんだ。本当に。
最初からなんて、どうしてあんたは気付いたの、なんて聞いてみたら、見てりゃ分かるだろって返ってくるんだろうなあって思って。
「青峰っち」
「なんだよ」
「俺、青峰っちってもっと気が短いほうだと思ってたっス」
「おー、そうだな」
「どうして?」
「それ、俺に言わせるのかよ」
手を退かしてみたら、今までみたことない青峰っちの顔があった。
――あ、これ、かわいいかもしれない。青峰っち、かわいいよ。そんなこと言ったら、怒られるかもしれないけど。

「お前だからだよ」

ああもう、本当にこのひとって。俺のこと好きなんだなあ。
そう思ったらいっそう青峰っちのことが可愛く見えてきてしまって。俺はそのあと初めて自分から青峰っちにキスを贈ってみたのでした。








20140115
無自覚な黄瀬君と全部知ってて待ってた男前青峰君。
幸せな青黄が好きです。






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