Turn our backs away and choose to just ignore








去年はマジでいい誕生日だったよ。本当に。思い返しても顔がニヤケるくらいには……ってやべえ、今の顔誰にも見られてねえよな?
右を見て、左を見る。と、いたわ、俺の相棒が。うわー凄い目。汚物を見るってああいうのを言うんだろうね!うん、間違っても恋人に向ける視線じゃねえな遠慮なしね真ちゃん!
そんな俺の心の声が聞こえた訳でもないだろうに、真ちゃんてばもの凄く重い溜息を吐いて俺に背中を向けてしまった。
いや、だってさ。誰だって恋人といちゃいちゃしてるとこ思い出したらこうなるっしょ?!
なんていいわけも真ちゃんには届かない。残念とかそういう感情もあるにはあるけど、それ以上に今の俺たちが直面している事態はなんっていうか……



「黄瀬君、これなんてどうですか?」
「わあ、かっこいいっスよ黒子っち!似合ってるっス!」
「黄瀬、テツだけじゃねえだろ、俺も褒めろ」
「青峰っちもかっこいいっスよー、でもどうせならこっちの色も着てみないっスか?」
「あのよ、黄瀬。この色だと下は何が合う?」
「火神っち、それならこれとかどうっスか?カーキって定番だけど、これなら何でも合うっス」

……今の俺たちの言葉を端的に言おう。
何故ここにお前等がいる!?
その一言に尽きる。


今日は俺の誕生日で、部活も幸運なことに休みになって、それじゃあなんかショッピングがてらにデートしようかってなって。
三人で街中を歩きつつ涼ちゃんオススメのお店とか教えて貰ったりしてついでに自分の服も見たりしてそりゃまあ楽しく過ごしていたわけですよ。途中までは。本当に、途中までは最高な誕生日でしたよ。最近部活忙しくて毎日一緒にはいるけどこういう恋人っぽいこととか全然できてなかったからさ、真ちゃんも顔には出てなかったけど周りの空気がなんていうかピンクだったし。俺もそれは同じで涼ちゃんもめっちゃ可愛くって。やだもう最高じゃね!?ってうきうきしながら歩いていたらさあ、なんかいたんだよね、目の前に。見た顔が。それも三つ。なんかまあすげー嫌な顔で笑ってるわあって思って二人よりも先に気付いた俺がその場で方向転換して見なかったことにしようとしたらさー、声かけてくるんだよねえ、空気読まずにさー。

「よう、黄瀬」

それも俺たち無視して涼ちゃんだけに。
マジこいつらどっか行けという俺と真ちゃんの視線を物ともせずに近寄ってくるんだよ、あの三人は!
「青峰っち、黒子っち、火神っち!三人とも買い物っスか?」
仲良しっスね、と涼ちゃんが嬉しそうに笑いながら三人に声を掛けると、三人の顔が分かりやすくデレた。なんだよその顔鏡で見てこいやコラ、と内心で悪態を吐きつつ涼ちゃんが触られない様に三人の前に身体を滑り込ませる。真ちゃんも同じ考えだった様で俺と同じタイミングで涼ちゃんの身体を背後に回した。やだ真ちゃん彼氏っぽい!あっ俺もね!

「……おい、俺は黄瀬と話してんだけど?」
「しただろう。今。そして終わったな。今。ならば問題はないだろう。俺たちは急いでいる。そのデカい図体をさっさと退かして道を空けるのだよ」

淡々と冷ややかな声で言い切った真ちゃんに俺が心の中で拍手喝采をしていると、涼ちゃんが驚いた様な顔を真ちゃんに向けていた。その涼ちゃんが何か言おうとして口を開いたと同時に、今度は黒子が動く。

「久しぶりに会ったというのに、随分ですね、緑間君」
身長差の所為で真ちゃんを見上げた黒子が、直ぐに視線を反らして普段から読みにくい瞳をこのときばかりは分かりやすくして一心に見つめているのは涼ちゃんだけだ。
「いいじゃないですか、少しくらい」
「断る」
「心の狭い男は嫌われますよ」
「こんな俺でも好いてくれる人間が二人もいるのだから、それで充分だ」

デレた!真ちゃんが超デレたよ!なにこの破壊力!とてつもないね!
涼ちゃんを見ると顔を真っ赤にしてる。うわ、可愛いーってかこれ俺も赤面してるな、顔超あちい。
だよね、照れちゃうよね、と俺が涼ちゃんの手を掴むと、涼ちゃんもふにゃと笑いながら俺の手を握ってくれた。
「それで、三人は何か用事があったんスか?」
にらみ合いが続いている真ちゃんと黒子の間から涼ちゃんがこてりと首を傾げながら今度は火神に視線を向けた。
まって、涼ちゃんその仕草はあざとい。俺たち以外の前でそういうことしちゃだめだから!ほら見て!呼ばれた火神がすごい面白い顔になってるから!なんとか冷静になろうとしてんだろうけど、隠せてねーよ!

「あっ、ああ、俺たちも丁度時間ができたんで、冬服でも見にいこうかってなったんだ。去年の服がちょっとキツくなっちまってな」
「そう言えば、火神っちも青峰っちも去年よりもっと身体つき良くなってるっスもんね」
いつの間にか涼ちゃんが俺の手をすり抜けて火神と青峰の前に立っている。そしてそのきれいな手で二人の胸板辺りをぽんぽんと叩いているからもう、俺の心中の絶叫が分かってもらえます?
「なんだ、黄瀬。誘ってんのか?」
「へ?」
言うが早いか、青峰の手が涼ちゃんの腰に回された。そしてそのまま引き寄せようとするからもう見ているこっちはタマッタもんじゃない。
「そこまでだ!」
俺は叫んで涼ちゃんの腕を必死で掴んだ。青峰の舌打ちの音が聞こえて睨み上げると、青峰は心底面白くなさそうな顔をして俺を見ている。
「黄瀬!」
「黄瀬君!」
背後で聞こえた真ちゃんたちの声に涼ちゃんが振り返ろうとしたんだけど、俺と青峰に引っ張られた不安定な体勢だったもんだから、涼ちゃんがうっかり足を滑らせて転びそうになってしまって。咄嗟に受け止めようと腕を広げたら、その前に俺よりも太い腕が涼ちゃんの身体をしっかりと抱きとめてしまった。
「っぶね、気をつけろよ、黄瀬」
「うわ、ごめんね、火神っち。ありがと」
気をつけるっス、とやや頬を染めて眉を下げている涼ちゃんに普段は絶対しないだろう柔らかい笑顔を向けている火神に、俺と真ちゃん、そして青峰と黒子までもが文句を叫んだ。
「さっさと黄瀬から離れるのだよ!」
「涼ちゃん、こっちおいで!」
「ええかっこしいが」
「ずるいですよ、火神君」
「うるせーな、お前ら」
憮然とした顔をした火神を、至近距離で涼ちゃんが見上げている。その涼ちゃんがくすくすと楽しそうに笑っていた。
なんていうか、その涼ちゃんの顔を見てるとさ、無償に心配になるんだよね……。何より、あの三人の中では火神が一番怖いと思うんだよな、俺。
なんてったって、火神はあの黒子と青峰ができなかったことをやってのけた男だ。
それは、後になって涼ちゃんから聞かされたけどあんまり思い返したくないっていうか。
まあ、今はこんなこと話してる場合じゃないし、何よりおいこら火神!お前近いってーの!さっさと手を離せ!

そんなこんなでぎゃいぎゃいと言い合いをしながら何となくあいつ等とここで出会った理由が分かってきた。どうやらこいつらも部活が休みだったらしい。それでどうしてもっと自分らのテリトリーの中ではなくて、俺たちの方に行き先を決めたのかなんて、聞かなくても分かる。分かるけどな?



「……邪魔くせえ」
「それについては同意するがな」
「え、と、真ちゃん」
「何だ」
「……聞こえた?」
「聞こえたら不味いのか」
「いや、不味いっていうか。一応心の中の声ってやつでして」
「口に出していて何を今更」

いや、それはそうなんですけどねー?
隠しておきたいって訳でもないけども。なんかこう、ちょっとかっこわるいっていうか。

「それこそ今更だろうが」
「……いや、真ちゃん。心の声を読まないでよ!?」
「カズ君?」

そのとき、不意に涼ちゃんの声が近くに聞こえて俺はすぐに振り返った。そこには、

「ごめんね、お待たせしましたっス!」

笑顔の涼ちゃんが一人で立っていた。
「いや、そんな待ってないから!っていうか、あれあいつ等は??」
涼ちゃんの背後にはあの特徴的な三人の姿がどこにも見られなかった。まさか隠れて?と思ったけど、俺の鷹の目をもってしてもそこまで広くもない店内の中であいつらは見つけられなかった。
「別の店に行くっていって行っちゃったっス」
なんだそりゃ、と俺の眉間に皺が寄る。散々ひっかき回しておいて、と文句を言いたくなったけどそれよりも涼ちゃんがいつの間にか俺の傍に寄って俺の耳元で囁いてくれた言葉の方が大変だった。

「……だってね、今日はカズ君の誕生日なんスもん。三人きりでいたいから、ごめんねって、追い出しちゃったの、俺」

ぺろ、と舌を出して笑う涼ちゃんに、ここが外じゃなかったら間違いなくその舌をすくい上げて飲み込んで、たっぷりとキスをしてしまっていたと思う。
「大人しく引き下がったと思ったら、相変わらずお前のことは逆らわないなあいつらは」
「まあその代わり、今度遊ぼうねってことになったんスけど」
ちょっと待て。
抜け目ないと頭が痛くなる。いい加減ひとの恋人にちょっかい出すのやめてくんないかなあマジで!
「はい、カズ君」
「へ?」
涼ちゃんから手渡されたものを無意識にしっかりと受け取ってしまった俺は、手のひらに納まるおしゃれにラッピングされたそれに視線を落とした。
「涼ちゃん、これ」
「さっきね、火神っちと見てたとき、カズ君に似合いそうだって思って」
買っちゃった、と唇を柔らかく動かす涼ちゃんが隣に立っている真ちゃんに笑いかけていた。
「開けていいかな、ここで」
もう買ってしまっているし、大丈夫だとは思うけど、と苦笑する涼ちゃんの言葉を待たずに俺はテープを慎重にはがしていった。幾重にも包まれた群青の薄い紙を開いていくと、現れたのは皮のブレスだった。
橙、緑、黄の三色が細かく編み込まれて一本にまとまっている。さすが、現役モデルが選んだだけあってセンスがいい。だけど、何よりこの色を選んでくれた涼ちゃんの気持ちを思って俺はにやける顔を戻すのが大変だった。
「涼ちゃん」
「うん?」
「ありがと、すっげ嬉しい」
めちゃくちゃ大事にするから、と涼ちゃんを見て、その後に真ちゃんにも視線を向ける。
当然だな、と鼻を鳴らす真ちゃんはいつも通りで、今日一番の笑顔で笑ってくれた涼ちゃんは相変わらずの可愛さで。
ああ、やっぱり今年も俺の誕生日は最高でした、とちょっと前のふてくされた俺に向かって内心でピースを向けた俺でした。








20131121
高尾君、おたおめでしたー






人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -