※attention!

お話の内容は黒黄ですが、黒子君が黒子さんになっています。
つまり女体化です。
だけど黒黄です。
意味が分からないと思いますが、書いている私も意味が分かりません。

それでもよろしければ続きをどうぞ。
神々の書かれる女体化とものすごくかけ離れたものであることは自覚しております。
ちょっと息抜きに気の抜けたものを書こうとしただけなんです。
……それがどうしてこうなった。











それは願望であり、
それは希望であり、
紛れもない唯一の、




求めよ原理足掻けよ定理絶対真理を打ち砕け






「赤司君、ちょっといいですか」

その凛とした声が、普段の彼女のものとは少し、いや、大きく異なる声音をしていたことにもう少し早くその場で気付いているべきだった。
――そう思うのは、いつだって後になってからなのだが。

「なんだい、黒子」

いつもと変わらない放課後の部活の時間。コートと手元のファイルを交互に眺めながら思案していた赤司の横にいつの間にかマネージャーの黒子が立っていた。驚くでもなく坦々と返事を返す赤司に、黒子は小さく息を吐いた。それが何となく面白くなさそうに見えたことに赤司はこっそりと笑む。彼女は表情に乏しいところがあるので、こういった些細なところで彼女の感情の起伏を感じることができるのは自分の他に幾人もいないだろう。
「反応がつまらないですよ、赤司君」
「お前に面白がってもらう必要性は余りないからな」
「それじゃツッコミ役ができませんよ」
「……その必要もないな。ところでどうしたんだい、何か僕に話でも?」
「ああ、そうです。ちょっと赤司君に相談があって」
「相談?僕に?」
珍しいこともあるものだ、と赤司が目を開いて黒子を見下ろす。
赤司の肩よりも少し下から見上げてくる水色の瞳は、普段となんら変わらないいつもの通りの静けさだ。
ゆっくりとその瞳が瞬いて、じっとこちらを見詰めてくるのを赤司が黙って受け止めていると、黒子の唇がふわりと動いた。その女の子らしい柔らかな唇が小さく動く様を、赤司が微笑ましく見ていられたのはそこまでだった。



「どうしたら立派なちんこを生やすことができますか?」



ぐしゃ、と手元のファイルが拉げた音が体育館の隅で響く。
赤司は今目の前でこの大人しい(見た目だけは)女子が発した言葉の内容に頭が全く動かなくなった。正しく思考が停止した状態で赤司の口は一切その動きを止めてしまう。
「赤司君、ちょっと。聞いているんですか、赤司君」
なのに目の前の黒子は呆れた顔を隠そうともせず、何も可笑しなことは無いとばかりに普段通りに赤司を呼んでいる。それに応えようと思いながらも、何をどう答えたらいいのか全くもって処理できなかった。
それだけの衝撃だったのだ。今目の前の彼女の口から飛び出た言葉が。
「……く、黒子」
「なんですか」
「一つ確認したいんだが」
「はい」
「お前は、女子だよな?」
「非常に腹立たしいことに生物学上女子に分類されますが何か」
あれ、なんでそこで怒っているんだ?
赤司が疑問に思いながらなんとか口を開く。
「その、僕の耳がおかしくなったわけじゃないんだよな」
「衰えるにはまだ早いと思いますよ」
こういう切り返しに全く容赦がないのが黒子の美点でもある、と赤司はこのときまでは思っていた。
「……そうだな」
「で、」

「どうしたら生えてきます?」

あ、まだ続いていたんだ。
赤司がちょっとどころかかなり忘れたかったセリフがまたあっさりと蒸し返された。
「生えるって、」
「だから、ちん「分かったそれ以上言わないでくれお願いだから!それ以上誰が許してもお父さんが許しませんよ!」
「君、いつから私のお父さんになったんですか」
「僕だって君に対してこんな気持ちになりたく無かったよ」
果てしなく脱力しながら赤司は額に手を押し当てつつ黒子を視界から遠ざけた。
ちょっと、今は新鮮で正常な空気が欲しい。
「そんなことはどうでもいいんです。なんで出し惜しみするんですか。いいからさっさと教えてください」
「ちょっと待ってくれないか。……黒子、そもそもなんで僕にそんなこと聞こうと思ったんだい?」
「桃井さんに」
「桃井?」
「桃井さんに同じことを相談したら、赤司君ならきっとどうにかしてくれると」
ちょ、桃井!なんてことを!
内心で今はここにいない万能マネージャー(料理以外)の名を叫びつつ、赤司はその場に蹲りたくなった。桃井は今日二軍の練習試合に同伴でこの場にはいない。緑間と紫原も同様だ。あの二人がいなくて良かったと赤司は内心で胸を撫で下ろしていた。ああ見えて初な緑間が黒子の今の発言を耳にしてしまったら卒倒してしまったかもしれない。紫原は論外だ。子どもの教育上に良くない言葉から遠ざけることに越したことは無い(赤司のこの思考回路は既に親のそれである)。
体育館にはバッシュが床に擦れる音が響いている。部員の掛け声がいくつも聞こえてくる中、赤司は今すぐあの中に戻りたいと切に考えていた。
「赤司君、現実逃避してないでそろそろ戻ってきてくれませんか」
「したっていいだろう!」
思わず叫んでしまったが、それだって自分の所為ではないと言いたい。
「ケチケチしないで教えてください。どうやったらちん「言わせないよ!?」
ぜえはあ、と肩で息をしながら赤司は目の前で平然とした顔を一切崩さない黒子の顔に視線をなんとか向けた。傍から見たら普通の少女だ。どこにでもいる普通の。
そんな彼女の口からなんでこんな地雷原が飛び出してくるのだろうか。今日は運勢最悪か?そう言えば朝緑間から今日の僕の運勢がおは朝でどうのと話を聞いたような……そんなことを赤司は考えつつなんとか逃げる算段を練ろうとしたのだが、どうも無理のようで。半分くらいは諦めて(後の半分は惰性で)黒子に正面から向かい合った。
「……とりあえず、なんでまたそんなことを言い出すことになったんだ?」
「私の目的の為に、どうしても必要なことなので」
「目的?」

赤司が首を傾げるのと、ガン!と固い音が体育館に響いたのは同時だった。
二人が顔を上げると、奥のコートで黄瀬がゴールリングにしがみ付いて振り返っているのが見えた。
「青峰っち!どうっスかーっ!?」
黄瀬はリングから手を離す前から青峰を呼んでいる。
「おー、まあ、いいんじゃね?」
「へへっ」
ダンクを決めた黄瀬が、それを青峰に褒めてもらおうと大声で叫んでいる。キラキラと眩しい笑顔を辺り一面に振りまいている黄瀬は今日も調子が良いようだ。
青峰の元に駆け寄りうっすらと頬を染めた黄瀬が青峰のTシャツの裾を指先で引っ張ると、青峰はニヤリと笑って黄色の頭に手を伸ばした。ぐしゃりと思い切り頭を撫でられて嬉しそうに笑っている黄瀬の姿を眺めていると、隣の黒子が手に持っているハンドタオルが軽く引き千切られた音がした。
「……く、黒子?」
「赤司君」
ボロボロに千切れたタオルを極力視界から外すようにして、赤司は黒子を見た。すると、黒子は視線を黄瀬に向けたまま赤司に一切視線を寄越さずにきっぱりと言い切った。
「さっきの話の続きですが」
「あ、うん、え?」
「私、」



「黄瀬君を、孕ませたいんです」



「だからどうしたらちんこが生えますか、出来れば立派なものがいいんですが、黄瀬君があんあんらめらめ鳴いてくれるように。あ、でも黄瀬君の身体を考慮すると無駄に大きいサイズだと黄瀬君が泣いちゃいますよね、そうなると赤司君サイズとかが良いんでしょうか。って見た事ないですし見たくもないですけど。桃井さんに聞いたらレギュラーメンバー全員のサイズは把握してくれてそうですね……。どう思いますか赤司君」
淡々と聞いてくる黒子に、赤司は目の前の景色が遠ざかって行く様に見えた。
黄瀬は、男で、お前が女で、黄瀬は、だから子どもは産めないし、産むとしたらお前の役だから、それはいくらなんでも無理だ。
例えちんこが生えたとしても、黄瀬が男である以上、それは無理だ。

赤司はそう、言いたかった。
けれど、言えなかった。
何故って、隣の圧力が超怖い。

「きーせ、おら、相手してやるからこっちこい」
「マジっスかーっ!?青峰っち、大好きっスーっ!」
「おーおー、お前の大好きな青峰っちだぞー」
「きゃー!」

見なくても分かる黄瀬の喜びように、空気を読め!と赤司はその場で叫びたくなった。
ちら、と視線をやると、黒子の手にあるタオルはもはや原型を留めていない。
ああは、なりたくない。
赤司は唾をゴクリと飲み込んで、噴き出た汗を無理矢理シャツで拭った。

「それで、赤司君」

どうしたら、生えますか。
その手のボロボロのタオルには目もくれず、ひたすらに黄瀬に視線を当てつつ、黄瀬の隣の青峰には恨みの籠った視線を送るという器用なことをしてのけながらこちらを見上げる黒子の姿に、赤司は黒子と黄瀬の二人が付き合う切っ掛けになった日のことを思い出していた。


***


帝光中学バスケットボール部に所属しているマネージャーである黒子と、一軍レギュラーである黄瀬は所謂そういうお付き合いをしている。
それはバスケ部のレギュラーメンバーならば全員が知っている話だ。何しろ二人の告白シーンを目の前で目撃することになったのだから。
その告白を先にしたのは意外というか(人によっては当然だと言うが)、黒子からだった。

『好きです』

それはある日の部活の終わり、いつもの片付けが終わって体育館を引き上げようとしていたときのことだった。
凛とした声が体育館に落ちて、最後まで残っていたレギュラーの面々が聞こえてきた科白に思わずその場で振り返ると、体育館の真ん中辺りで黒子が黄瀬の手を捕まえて告白をしている場面が目に飛び込んできたのだ。
『く、黒子っち、』
『私は黄瀬君のことが好きです。友だちとしてではなく、恋人になりたい。そういう意味で好きなんです』
ですから私と付き合ってくれませんか、と黒子が言うのに、黄瀬は戸惑い揺れる瞳のまま黒子に視線を向けた。
『黒子っち、俺も、黒子っちのこと、すき、だけど、でも』
『でも、なんですか』
『でも、』
辛そうに瞳を伏せる黄瀬に、黒子が下から黄瀬の顔を一心に見詰めている。
『言ってください、黄瀬君』
『黒子っち』
『でも、駄目なんですか?』
好きなのに?と黒子は言う。
『だって、だって、俺。……俺きっと黒子っちのことちゃんと守れない、から』
『守る?』
『友だちのままなら、まだなんとか大丈夫だけど、恋人になったらきっと、黒子っち大変な目に合うと思う。……オンナノコって、すごく、すごく怖いから』
『それで?』
『だから、そんなことに黒子っちを巻き込みたくないんス。すきだけど、すきだから、黒子っちを泣かせるようなことになったら、俺、自分を絶対に許せないと思うから、だから』
『それだけですか?』
『へ?』
『黄瀬君が私と付き合えない理由はそれだけですか?』
『そ、それだけって、』
『他にもまだあります?』
『え?え?』
『身長が足りないとか、胸が無いとか、顔が可愛くないとか、無愛想だとか、その他にも思い当たる節は色々あると思うんですが』
『く、黒子っちは可愛いっスよ!?無愛想だなんて、俺そんなこと思ったことなんて、全然っ』
『じゃあ、問題ないですね』
『えっ』
黒子は黄瀬の手を掴んだままだ。その手をぐい、と自分の方に引き寄せると、黄瀬の身体はあっさりと黒子の方へ傾いた。倒れ込みそうになる黄瀬の身体をしっかりと受け止めてみせた黒子は、床に膝を着いて今度は逆に自分を見上げてくる黄瀬の頬に優しく手を添える。
『黄瀬君、黄瀬君が不安になる理由は分かります。けれど、だからと言ってそれだけで私が黄瀬君を諦める理由にはなりません』
『だ、だって、黒子っち!』
『私を信用してくれないんですか?』
悲しそうに瞳を細める黒子に、黄瀬は慌てて首を振った。
『してるっ!してる、けど』
『けど?』
『黒子っちを、……すきな子を、泣かせたくなんてないんス』
そう言って俯こうとする黄瀬を許さず、黒子は黄瀬の顔に添えた手に力を込めた。
『黄瀬君、黄瀬君は私が好きですか?』
『……』
『答えてください』
『……』
『黄瀬君』
『……』
『答えてくれないなら、ここでキスしますけど』
『……へ?』
『私はファーストキスになりますので技巧は無いとは思いますが、黄瀬君の為に精一杯頑張らせて頂きます』
『ふええええええっ!?』
『冗談じゃないですよ?』
『ちょ、ちょっと待って黒子っちーっ!』
『待てません』
『せめてあと一分っ!』
『舌入れてもいいですか』
『……っす、すきっ!すきです!俺も黒子っちのことが大好きですうううっ!!』
何となく誘導尋問的に告白させられている気がしないでもないが、当人はきっと気付かないだろう。多分。
『ほら、なら問題ないじゃないですか』
『く、黒子っち』
『大丈夫ですよ、黄瀬君』
ふわり、と優しい顔で笑った黒子は、黄瀬の瞳を見詰めながらしっかりと、はっきりと宣言した。

『黄瀬君を泣かせる人間は私が許しませんから』

あれ、なんか逆じゃね?
そう、その場にいた誰もが思った言葉は結局誰の口からも出ることは無く。
堂々と告白をして、あまつさえ偶然その場に居合わせることになってしまった(それも彼女の計画の内だったのかもしれない)レギュラーメンバーを強制的に証人に仕立てた黒子はこの世の春、と言わんばかりの顔で黄瀬を思い切り抱き締めていた。
そして色々と振り切れてしまった黄瀬が花の顔を真っ赤に染めながら琥珀の瞳を潤ませて黒子に大人しく抱き締められている姿は、桃井がしっかりちゃっかり写真に収めていた。
その際聞こえた『きーちゃんマジ天使!テッちゃんグッジョブ!』の声は誰もが聞かなかったことにした。


***


そんなこともあったなあ、なんて感慨深げに赤司が逃避していたところを、黒子はその脇腹に手刀を繰り出すことで現実に引き戻した。
「トリップするのは止めてくれませんか」
「っ、黒子、ちょ、脇はやめろ」
「避けてくださいよ、これくらい」
「お前の影の薄さと技の早さはチートなんだよ……」
赤司が脇腹を押さえつつ呻いているのをちらとも見ずに、黒子は青峰を1on1をしている黄瀬を見詰めている。
「ああもう、黄瀬君てばあんな無防備な顔であのガングロを見詰めたりなんかして、何かあってからじゃ遅いんですよ!孕まされたらどうするんですか!?」
「いや、黄瀬は男……」
「うわあ、今シャツの隙間からお腹見えましたね。やばい、黄瀬君やばいです何あの白さに滑らかさ。いえまだ触ったこと無いですけどねっていうか待てやコラあのガングロ黄瀬君の肩抱き寄せてなにしてんだお前そこになおれあああ黄瀬君てば可愛い顔で笑っちゃ駄目です危険だから!隣の男は狼だから!男は皆狼だから!!!」
「黄瀬も男だからその心配は……」
それに青峰はおっぱいが大好きだからという声は取り敢えず飲み込んでおいた。
「無いとは言い切れないでしょう」
あ、僕の話も聞いてくれてたんだ。
ちょっとうっかり感動しそうになって、いやいや何を考えて、と赤司が苦悶していることなんてさらりと無かったことにした黒子は、ひたすらに青峰に向けて呪詛の言葉を吐いている。
青峰と桃井、そして黒子は小学時代からの友人である。その為青峰に対したときの黒子は一切の容赦が無い。見ていて憐れに思う様なこともあるのだが、大抵は青峰の所為であるために自業自得でもあるのだから、まあしょうがないと言えばしょうがないのだが。
「そんなに嫌なら黄瀬を呼べば良いだろう」
「黄瀬君は今バスケをしているんですよ。こんな嫉妬の為に黄瀬君の貴重な練習時間を潰すなんでこと私はできません」
そう言った分別は弁えている黒子である。なのに、どうしてあんなぶっ飛んだ考えを持ってしまったのだろうか。あ、目頭熱い。
「それでですけど、赤司君」
「その前に聞いていいかな黒子」
「何ですか」
「どうして、その……男性器を、欲しいと思ったんだい?黄瀬を孕ませたいっていうのが理由なんだろうけど」
そうだ、先ずはそこを把握しなくてはならない。なんとか諦めさせる為の突破口が欲しかったとも言える。
何しろ赤司にも女性に男性器を付けるなんてことは流石にできるはずも無いのだから。っていうか黄瀬を孕ますには黄瀬にも女性器が無いと無理だよな、とか逃避し始めた頭が混乱しているが止める手立てが浮かばない。
「決まっているじゃないですか」
淡々と、さも当然という様に黒子は言った。
「黄瀬君は、天使だからです」
「……ん?」
「聞こえなかったんですか、赤司君」
「いや、いや聞こえたよ?聞こえたけど、」
――黄瀬が天使って。
「そ、それで?」
疑問には思うがそこで話の腰を折るときっともっと長くなりそうであったので赤司は取り敢えず話を進めることにした。
「ですから。黄瀬君はですね、もの凄くフェミニストなんですよ。まあお姉さまが二人もいてそのお二人もとても素晴らしい女性ですからね、黄瀬君の紳士っぷりが板に付くのは当然ですが。黄瀬君は女性に対していつも真面目に応対します。無碍になんてしません。それは勿論私に対してもですが、それが度を越しているというかなんというか」
「どういうことだい?」
赤司の疑問に黒子は眉間に皺を寄せて重苦しく声を出した。
「……手を出して来ないんですよ」
「……は」
「中学生ですよ。頭の中はそういうことで埋め尽くされていても可笑しくないくらいの多感な時期ですよ。青峰君が良い例でしょうあのおっぱい星人死ねばいいのに」
最後は完璧に八つ当たりだな、と思いながら赤司は口を噤む。
「黄瀬君だってそういうところがあってもいいのに、寧ろあって欲しいのに、彼はそんな素振りを見せてくれません。どこまでも私に優しくしてくれるんですけどそれだけじゃ足りないんですよ正直。抱き締めてキスしてくれますけど、それだって唇には数えるくらいで他は全部ほっぺとがおでことか。ちゃんと言葉もくれますしそういう心配はしてないんですけど。……だけどその甘い空気のときの黄瀬君がマジ可愛くてガチで可愛くて死ぬほど可愛くて正に天使!天使なんですよ本当に!私からキスするとあのキレイな顔をふにゃふにゃにして頬染めて笑って『黒子っちダイスキ』なんて、そんなことを間近で言われてご覧なさいよ、心のちんこが勃起するわ!」
「ヤメテ黒子!女の子がそんなはしたない言葉を使うんじゃありません!」
「五月蠅い!」
「すみません」
あれ、なんで謝ってるんだろう、僕。
「そんな生殺し状態を付き合い始めてからずっと続けていて、あるとき私は閃いたんです」
「……それは」
聞きたくない。けど聞かないと終わらない。赤司の相槌の声は重かった。
「私が黄瀬君を押し倒してしまえばいいのだと」
「……」
極論だった。
聞かなくても、ちょっと答え分かってた。
赤司は遠い目をした。
「ていうか黄瀬君を私の手でとろとろのメロメロにしたい。縋りついて恥じらい耐える顔が見たい。孕んじゃうっスぅってあの口で言わせたい。その為には私にちんこが必要な訳です」
分かって頂けましたか。
黒子のいっそ清々しい程の顔に、赤司は何も言えなかった。ていうか、何を言えばいいのか分からなかった。
怖い。この子怖い。女の子って怖い。これが流行りの肉食系女子なの?ちょっとヤンデレ入ってないかな?
「……く、黒子」
「方法を教えてくださいますね、赤司君」
「……うん、いや非常に言い難いんだけど」
僕にはそんな力は無いんだ、とはっきりと伝えようとしたそのときだった。

「ひゃうんっ!」

なんとも色気のある叫び声が聞こえた。その声の主には一人しか心当たりが無い。急いで振り返った先で見た光景に赤司は意識を飛ばしたくなった。

「ちょ、ちょっと待って!青峰っちってば!」
「あー?なんだよ」
「だからっ!ちょっと、あ、駄目だってそんなとこ汚いからっ!」
「汚くねーって」
「ひ、にゃ、」

……分かりやすく言おう。
青峰が黄瀬を襲っている。
いつの間にあんな体勢に持ち込んだのか分からないが、青峰は黄瀬の身体を床の上に押し倒し、なんとか引き離そうとする黄瀬の両腕を難なく掴んで抵抗出来なくした上で、黄瀬の首筋に顔を埋めているのだ。頻りに匂いを嗅いでいる様はまるで獣の様でもある。くすぐったいのか目をぎゅっと閉じて顔を真っ赤に染めたままぷるぷると小刻みに震えている黄瀬の姿はなんというか、年頃の男子中学生には刺激が強過ぎるエロさだった。時折漏れ出る悲鳴もいけない。それは相手を挑発するだけであるということを黄瀬は気付かないだろう。既にこの体育館にいる何人かは黄瀬の姿に当てられて前屈みになっている者がいる。
これはヤバイ、と赤司が止めに入ろうとしたその瞬間に横から影が飛び出していった。そしてその影は黄瀬に圧し掛かる青峰に向かって正確で冷酷な一撃を放った。
つまり、股間を蹴り上げた。
うっかりその瞬間を目撃してしまった何人かはそのまま蹲って動くことができないでいる。……かく言う赤司も股間を押さえて思わず呻いていた。
あれは、痛い。
内心で合掌した赤司である。

「〜〜って、テツ、て、めっ」
それでも声が出るだけすごい。黒子の一撃を食らっても立ち上がることは出来ないようだが、まだ睨みつける余裕がある青峰を赤司はちょっとだけすごいと思った。
「……この粗チンが……一生使いものにならなくしてやりましょうか……さっさと黄瀬君から離れなさいていうか離れろ」
「く、黒子っち?」
青峰の下から顔を上げた黄瀬が仁王立ちしている黒子を見上げつつ名前を呼ぶ。それに対して黒子はさっきまでの般若の顔をさらりと隠して慈愛の籠った眼差しで黄瀬を見詰めた。
「黄瀬君大丈夫ですか?青峰君に何かされていませんよね?」
「え?え、えっと、うん、大丈夫っスよ?」
頭の上に?マークを飛ばしまくっている黄瀬には、先程の黒子の凶行は見えていないようだ。
――それもきっと計算しているんだろうな、と赤司はもっと視線を逸らした。
「黄瀬君、手を。床に腰を下ろしていたら冷えてしまいます」
「う、うん。大丈夫っスよ、黒子っち。一人で立てるっス」
そう言って青峰から離れようとした黄瀬だが、思ったよりも回復が早かった青峰が黄瀬の腰を掴んでそれ以上動けないようにしてしまった。
「青峰っち?」
「黄瀬ぇ……」
「何スか?」
「こんな凶悪女やめておけ「黄瀬君早く立ちましょうね?赤司君が呼んでますから」
え、僕呼んでないよ?
顔には出さずに思ったが、黒子が怖いのでそのまま黄瀬に視線を合わせて軽く頷いて見せる。
「ええっ分かったっス!ごめんね青峰っち!教えてくれてありがとう、黒子っち!」
よいしょ、と青峰の身体を退かすと、黄瀬はパタパタと赤司の元に駆けてきた。少しだけ跳ねてしまった前髪を手櫛で整えながら黄瀬が赤司の前で立ち止まる。赤司を正面にしているからこそ、背後の二人の様子は分からないだろう。今正に青峰に止めを刺さんとする黒子と、それを必死で避けている青峰の図は黄瀬には見えていない。
「黄瀬」
「はいっス」
「ちょっとだけ、耳栓をしておこうか」
「え?」
「耳栓だ、分かるだろう?」
「? こうっスか」
「そうだ、そのままにしておこうな?」
そう言って屈ませて赤司の目線の近くになった黄瀬は、言われた通り素直に耳を両手で塞いでいる。その手の上から念のために自分の手も押し当てて、赤司は黄瀬の肩越しに二人を確認した。

「こんのエロ峰えええ!!!黄瀬君に何かましてんですか!死ね!取り敢えず死んでください!」
「何かますって、ただ黄瀬のヤツがいい匂いしてっから、なんか香水でも付けてんのかって確認しようとしただけだろーがっ!」
「それだけで何で押し倒してんですか!阿呆!」
「しょーがねーだろ、黄瀬の反応可愛いんだし!」
「黄瀬君が可愛いのは認めますけど君がそれを実感する必要性は全くありませんからね!!」
「いいじゃねーか。減るもんじゃねーし!」
「減ります。確実に。ゴリゴリと減ります。君これから黄瀬君の半径10メートル以内に入らないでください」
「おい!それじゃバスケできねーだろーが!?」
「できますよ。気合で」
「どんな気合入れればできるのソレ!?」
「五月蠅い、黄瀬君を押し倒しやがって羨ましいんですよこっちはっ!!」
「八つ当たりじゃねーか!」
「知りませんね、そんなことは。君が黄瀬君に破廉恥なことをやらかしてくれたおかげで計画が進まない……っは!――青峰君」
唐突に会話を止めた黒子は、輝かんばかりの笑顔を青峰に向けた。
――嫌な予感しかしない。
「……何だよ」
そして青峰のその勘に間違いは無かった。

「君のちんこ、私にください」

一拍間を開けてから青峰は叫んだ。
「嫌だけど!?つか無理言うな!くれって言われてはいそうですかって渡せるかっ!」
「簡単ですよ、もぎ取りますから」
「させねーよっ!?」
「君のちんこを私が有効活用してやろうって言うんですから感謝してください」
「何の感謝!?」
股間をカバーして黒子と距離を置こうとする青峰と、それを防いで青峰に近付こうとする黒子。ジリジリと一進一退の攻防が繰り広げられているのを呆然と確認していた赤司は、黄瀬が赤司の視線に気付いて背後を向いてしまったことに気付かなかった。
振り返った黄瀬の視界に意味は違うが大好きな二人が向かい合って睨みあっている。
付き合いが長い所為で、姉弟の様なものだという黒子と青峰の二人が一触即発の空気でいることに黄瀬は二人のケンカを止めなくては、とそれだけを思ってうっかり耳から手を外してしまった。と、その瞬間、

「いいからさっさとちんこを寄こしなさい!」
「アホかーっ!!」
「黒子っちーっ!!!!?」

黒子の発言に衝撃を受けた黄瀬は思わず叫んだ。黄瀬の声にハッとしてこちらを振り返った黒子は、顔を真っ赤にさせた黄瀬がこちらに慌てて駆けてきていることに顔を青褪めさせる。
しまった、聞かれてしまった……!
黒子があの、とかその、とか言ってなんとか弁解しようとしているのを青峰は眺めている。
(まー、こいつも黄瀬を前にすればフツーの女になれるんだよなー)
そんなことを感慨深く青峰が考えていることなんて気付かないだろう黒子は、ついに正面で立ち止まった黄瀬に対して言葉を紡げない様だ。そんな青い顔をしている黒子に対して、黄瀬はそっと腕を伸ばした。黒子の華奢な身体をすっぽりと包み込んだ黄瀬は、瞬きを繰り返している黒子に向かって赤い顔で囁いた。

「く、黒子っち、その……」
僅かに言い淀んだ黄瀬が、次の瞬間にはしっかりと黒子の視線に瞳を合わせ、彼女の身体を抱き締めたままゆっくりと唇を動かした。

「お、女の子が、お、おち、……おちんちんなんて、言葉叫んじゃダメっスよ?な、なんかきっと黒子っちのことだからちゃんとした理由があったんだと思うんスけど、でも、やっぱりそういうことをこんなところで言うのは、だ、ダメっス……周りで聞いてる皆がヘンなこと考えちゃったら、どうするんスか?お、男は皆オオカミさんなんスよっ!」

瞳は潤んで、声は僅かに擦れて、そんな風に必死に言い募る黄瀬の姿に黒子の中の何かがキレた。

「黄瀬君」
「何スか?」

そして爆弾を投下する。

「私の子ども産んでください」

「……はい?」



その後に響いた黄瀬の悲鳴は放課後の体育館にいつまでも木霊していたのだった。





20130519
すみませんでした。






「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -