*宮黄表現がありますので、駄目な方はブラウザバックお願いします。









I know that we can't do this no more









「何だ、お前一人か?」
自分一人だけの教室に突如として響いた声に、黄瀬は顔を上げて目を開いた。
「宮地先輩?どうしたんスか?」
首を傾げながら席を立とうとすると、宮地は手を軽く振ってそれを止め、代わりに教室のドアを乗り越えて黄瀬の元に歩いてきた。
「偶々、お前らの教室の前を通りかかったら、お前が一人でいるのが見えたから来ただけだ」
黄瀬の前の席の椅子を勝手に拝借して座る宮地に、黄瀬は小さく笑う。
「何だ?」
「いーえ、何でもないっスよ」
椅子の背もたれの上に手を組んで顎を載せている姿は、普段部活中に見せられる厳しい先輩の姿とはまた違った面だ。
それをこうして間近で見ることができて、黄瀬は珍しい、と思うと同時に少し嬉しくも感じていた。
「先輩も、高校生なんだなあ、と思って」
「何だそれ」
呆れたような顔で肩眉を上げてみせる宮地に、黄瀬はくすくすと小さな笑い声を立ててしまった。
「ふ、ふふ、ごめんなさいっス」
「謝ってる顔じゃねえなあ?」
「すみませんってば」
なんとか笑いを治めて黄瀬は改めて宮地に視線を向けた。
「なんか、先輩が俺たちの教室にいるのって変な感じがして」
「そうか?俺だってここ使ってたんだぜ?」
「そうなんでしょうけど、でも、『三年生の宮地先輩』の印象が強いんスよ」
「そういうもんか?」
「そういうもんス」
そこまで言って、黄瀬はふう、と息を吐く。
「そろそろ部活に行かないとっスね」
「まだ時間あるぞ」
「そうっスか?」
「だから早くそれ、終わらせろよ」
それ、と言って宮地が示したのは、黄瀬の目の前に広がっている課題のプリントだ。提出期限が明日のこの課題を部活が始まる前の時間にやってしまおうと思って広げていたのだが、途中まで進めたところで宮地が来たのだ。
はあい、と返事を返して黄瀬は右手に持っていたシャープペンをくるりと回す。
それから視線を落としてプリントに向かってペンを進めた。
カリカリと黄瀬のペン先がプリントを掠る音が二人だけの教室に響いていく。
「……黄瀬、そこ間違えてる」
「え、……あっと、どこっスか?」
「そこ、途中の計算式」
「うあ、本当だ」
慌てて消しゴムを掴む。プリントがよれない様に手で押さえて消しゴムを使っていると、机の上に置いていた蛍光マーカーが肘に当たって机の下に落ちてしまった。
「あ、」
落ちたそれを拾おうと手を伸ばした黄瀬の前で、別の手がマーカーを拾い上げる。
「ほら、落とすなよ」
「あ、ありがとう、ございます」
拾われたペンを差し出されたので、黄瀬は素直に礼を言った。それから宮地からペンを渡されるのを手を出して待っていたのだが、ペンはいつまでも返って来ない。
「……先輩?」
手のひらのマーカーを見詰めている宮地は、何となく、本当に何気なく口を開いた。
「黄瀬」
「はい?」
「お前さ、」

「あの二人と付き合ってんだろ?」

宮地の指すあの二人がどの二人のことを言っているのか、黄瀬はちゃんと理解した。
理解したからこそ、さて何と返したものか、と目を瞬かせる。
「どうして、そんなことを?」
「聞いてるの、俺が先だぞ」
うん、これは参った、と黄瀬は苦笑する。
素直に返さないことには後が怖い。頭の片隅に二人の姿を思い浮かべつつ、黄瀬は唇をゆっくりと動かした。

「そうっスよ」

付き合っています、と暗に言って、黄瀬は背筋を伸ばした。
「そうか」
対する宮地の返答はそんなあっさりとしたもので、黄瀬は思わず面食らった。
「え、えーと、先輩」
「何だよ」
「こういうときは、もっと違うリアクションをするものじゃないんでしょうか」
「リアクションてなんだよ」
「いや、その、」
気持ち悪い、とか、ふざけるな、とか、男同士で、とか?頭の中に浮かぶ罵詈雑言の羅列を口に出すのは憚られた。黄瀬が口に手を当てて悩んでいると、宮地の手が黄瀬に向かって伸ばされた。
「俺がお前らを卑下するようなこと、言うと思ったのか?」
「せんぱ、」
伸ばされた手は黄瀬の手を掴むと、強引に引き寄せた。身体が前につんのめって、黄瀬の腹部に机が当たって音を立てる。普段の喧騒の中ではそんなに気にならない音が、二人だけの教室ではいやに響いた。
「……宮地、せんぱい」
「何だ」
「あの、離して、ください」
机を挟んで宮地に抱き込まれてしまった黄瀬は、宮地に掴まれた手を振りほどけないまま呆然としていた。

「なあ、黄瀬」

直ぐ耳元で宮地が囁く。
その声に背筋にぞくり、とした何かが走っていった。
「お前、寂しくないのか」
「……え?」
寂しい?何が?
黄瀬が顔を上げると、至近距離で宮地の視線をぶつかった。
「緑間と、高尾。あいつらコンビだからな。バスケでも、それ以外でもある意味あの二人はそれだけで完結してるところがあるだろ。だから、」

お前、寂しくないのか。

ああ、と黄瀬は思った。そして分かった。
この人は心配してくれているのだ、と。

「先輩、優しいっスね」
見かけによらず、とは言わないでおく。
「……別に」
否定しつつも黄瀬の背中に回った宮地の腕の力はちっとも弱められなかった。
あったかいなあ、と呑気に考えながら黄瀬は宮地に視線を向ける。
「寂しいって、思わないときが無いってわけじゃないんスよ」
「……おう」
「最初は、俺と緑間っちが付き合っていて、そこにカズ君が入って、三人で一緒になって。そこから色々見えたこともあって。……俺も二人が一緒になって俺は離れた方がいいだろうって考えて、それを二人に言ったこともあったんス。あったんスけどね」
宮地の目の前で、黄瀬はひどく幸せそうな顔で笑ってみせた。
「二人して、俺が離れるって言うんなら、俺たちも離れるって言って、もう訳わかんなくて。俺が泣いて嫌がっても、絶対に離してやらないって二人から揃って言われて。……そのときの二人の顔見たら、俺、馬鹿なこと言ったなあって思って」
宮地に掴まれたままの手を見る。この手を二人は欲しいと言った。
「緑間っちも、カズ君も、二人でいるのが当たり前みたい周りには見られてる。それに俺が確かに疎外感を感じないこともないけれど、それ以上に二人が俺に向けてくれる想いは本当のものだから。……そう信じることができるから」

俺はどんなことがあっても、二人の傍にいようって、決めてるんスよ。

そこまで言って黄瀬は宮地の胸に手をついて離れようとしたのだが、その動きは宮地に止められてしまった。
「先輩?」
「なあ、黄瀬」
乱暴に机を退かした宮地が、黄瀬の身体をしっかりと抱き込んだ。遮るものが無くなった所為でいっそう近くなった距離に黄瀬は息を飲む。
先輩、ともう一度呼ぼうとした黄瀬の声は宮地の声に消されてしまった。

「寂しかったら、俺がいつでも相手してやるよ」

「……へ?」
「そういう訳だから、お前らも覚悟しておけよ」
お前らって誰のこと?と黄瀬が続く宮地の発言に目を白黒させていると、突然教室のドアがガラリと開いて二人の人物が入ってきた。
「み、緑間っち!カズ君!」
驚いて声を上げる黄瀬に一瞬だけ視線を向けた二人は、直ぐに宮地に鋭く視線を投げた。
「黄瀬を、離して貰えますか」
緑間の声に普段よりも抑揚が無い。
これは、本気で怒っている、と黄瀬が顔を青くしていると、宮地は挑発するように黄瀬の腰に手を回した。
「嫌だって、言ったら?」
ギョッとして黄瀬が宮地に視線を向けると同時に、宮地の顔がさっきよりも至近距離に見えた。
あ、と思ったときにはもう遅く、黄瀬は宮地から口付けを受けてしまった。
「せ、せんぱっ!」
一瞬触れただけで離れたが、黄瀬は急いで宮地から離れようとした。だが、宮地は楽しそうに口元に笑みを浮かべて、逃げようとする黄瀬をあっさりと引き寄せる。
「お前の唇、柔らかくて気持ちいーのな」
癖になりそう、と宮地が言ってもう一度触れようとする。目を瞑ってそれを避けようとした黄瀬は、小さな舌打ちの音を聞いたと同時に、宮地とは別の力に身体を引き寄せられたことに気付いた。

「……先輩、それ以上涼ちゃんに何かしたら、俺ら本気でキレますよ?」

その声に黄瀬は目を開く。
「カズ君っ」
黄瀬を引き寄せたのは緑間で、宮地と黄瀬の間に立って威嚇しているのは高尾だった。
「黄瀬に手を出さないでください」
淡々と離す緑間の声が恐ろしく低い。
「俺じゃねーだろ。お前らが黄瀬を一人にしたのが悪い」
だが、そんな威嚇もどこ吹く風、と宮地は飄々とそんなことを言ってにやりと笑ってみせた。宮地の科白に殺気立つ高尾と緑間を黄瀬が止めようとする前に宮地はその場で三人に背を向けてしまった。
そしてそのまま宮地は教室を横切って出口に向かって歩いていく。
「宮地さん!逃げんのかよ!?」
高尾の声に振りかえった宮地は、目線を細めて笑った。
「逃げる?」
ひやりとする声に黄瀬は驚く。
今までにこんな声を宮地から聞いたことがなかった。
「時間見ろよ、もう部活始まるぞ」
ギョッとして壁の時計に視線を向けると、宮地の言う通り部活が始まるまでもう10分も無かった。
「や、やばっ!」
焦る黄瀬が動こうとするのを緑間は簡単に止めてしまう。
「緑間っち!?」
名を呼んでも緑間からの返事は来ない。
「カズ君!」
ならば、と高尾を呼んでもこちらも返事は返って来ず、依然二人の視線は宮地に固定したままだ。
「お前ら、遅れたら分かってるな。さっさと来いよ」
宮地の声に取り敢えず首を縦に振る黄瀬は、早く二人を連れて部活に行かないと、とそれだけ考えていて、さっき宮地にされたキスのことは頭から抜けかけていた。だが、教室を出て行こうとした宮地がそういえば、と振り返った。
「黄瀬」
「はいっス!」
つい普段の通りに返事を返してしまった黄瀬は、肩越しに振りかえった宮地にさっきとはまた違った声を掛けられた。

「またしような」

低く、信じられないくらい艶めいた声で、ただ一言そう言った宮地は唇をぺろりと舐めたのだ。
「っ!」
瞬間さっき自分が何をされたのか思い出した黄瀬の顔は真っ赤に染まる。
「し、しません!」
「遠慮すんな」
「してません!」
「可愛いな?黄瀬」
真っ赤だぞ、と指摘されて、黄瀬はそれ以上言葉にできずに呻いた。
「〜〜っ!」

「まあ、今日はここまでにしておいてやるよ」

お前ら、本当に遅れたらただじゃ済まさねーからな、と宮地は言って、今度こそ教室から出て行った。
軽い足音が廊下から聞こえなくなってから、黄瀬は大きく息を吐き出す。
全く、何でこんなことに、と頭を抱えそうになって、自分の手が自由になっていないことに気付いた。
「……え、えと、緑間っち」
呼んでみるが返事が無い。
「カズ君?」
こちらもやはり返事が無い。
二人からはっきりと湧き上がっているのは怒りの感情に他ならず。

……これ、部活に遅れた理由は宮地先輩ってことにしたら駄目っスかね?

音もなく振り返った高尾と、さっきから痛い程に黄瀬の手を掴んだまま離さない緑間の顔を見上げて、黄瀬は溜息を飲み込んだのだった。






20130408
宮地先輩の設定はそのうち書きにきます。






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