桜雨





火神と、黒子と、そして黄瀬の三人でストリートバスケを楽しんだその日、親に連絡をしなければならないと火神が先に帰り、二人だけ残された黒子と黄瀬はお互いの顔を見合わせた後に足先を揃って同じ方向へ向けた。
普段の賑やかさは何処に行ったのか、と疑ってしまうくらい、黒子と二人きりのときの黄瀬は余り喋らない。
意外だ、と素直に口に出したとき、
『だって、黒子っちといるときは声に出さなくてもいいんスもん』
そう、答えの様な、その逆の様な返答を貰って思わず目を開いたのだ。
あれは中学時代、自分たちが三年に上がる頃の話だった。

「黒子っち」

そんなことを歩きながら考えていると、黄瀬から呼ばれたことに僅かに反応が遅れてしまった。

「……何ですか、黄瀬君」

俯いていた顔を上げる。
真横にいた黄瀬を見上げようとして、視界の中にはらり、と何かが舞った。
ほら、と黄瀬は笑う。

「桜の雨だよ、黒子っち」

はら、はら、と静かに。
音は聞こえない。けれど二人の頭上、天上から降ってくるものがある。
手を差し出すと、風に舞った一枚が黒子の手のひらにほとりと乗った。
桜色の、花びら。
優しい色のそれを黒子は見詰める。

「きれいだねえ」

心の言葉を代弁した黄瀬がついと顔を上げる。そのまま視線は真っ直ぐに、一心に見詰める先にあるものが何なのか、黒子は知らない。

「黄瀬君」

「なーに?」

黒子の呼びかけに黄瀬は振り向かない。
顔は桜に向けたままで、黄瀬は唇を動かす。
だから、知らない。
今の黒子がどんな顔をしているのか。
握り締めた手のひらの花弁がどこに行ってしまったのか、黄瀬は知らない。

「黄瀬君」

もう一度、黒子は呼ぶ。
この声に、黄瀬が振り向いて、
そして黒子の顔を見て、
そのあとで黄瀬がどんな顔をしたとしても、
黒子は伝えるだろう。


「なあに?黒子っち」


けぶる睫毛の僅かの距離を掠めていく花びらを。
白い指先が辿る軌跡を。
彼の琥珀の瞳に映る景色を。


「君は、綺麗です」


自分は何時だって共有したいと思っているのだ、と。








20130330
だけど『好き』とは言わない黒子っち






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