叫び出したいくらいには いつもいつも思っている いつもいつも考えている 君のことが大好きだ Have A Nice Day カーテンの隙間から朝日が射し込む一室で、ふっくらと膨らんでいるベッドの上の布団がもぞもぞと動いていた。そのうち一本の手が布団から這い出ると、周りをぽんぽんと叩きながら何かを確かめるように動き回る。目当ての物がない、と気付いたのか、布団ががばりと持ち上がって清々しい朝とは正反対の眉間に皺を寄せた不機嫌な顔が現れた。 「……」 ベッドから起き上がると、この前短めに切ったのにもう伸びてきた頭をガシガシと掻きながら火神は大きく伸びをした。 するとそこで部屋のドアがゆっくりと開けられる。 「……あ、起きたっスか?」 ドアの隙間からこちらをのぞき込んできた人物は起きたばかりの火神を見て小さく笑う。 黄瀬の姿を目に映すと、火神は直ぐにベッドから降りた。一歩距離を詰めることでその腕を掴み自分の傍に引き寄せた火神は、目を丸く開いている目の前の人物ーー黄瀬の身体をしっかりと抱き締めた。 「火神っち?」 「黄瀬」 「うん?」 「久しぶりなんだぞ」 「う、うん?」 火神の唐突な言葉に黄瀬は何度も瞬きをする。 「お前と一緒の朝、久しぶりなんだぞ」 「そうっスねー」 「なのに何でお前、俺が起きたときにもういないんだよ」 「……火神っち」 ここ最近は二人共にお互い多忙で中々ゆっくりと会う機会が持てなかった。やっとの思いで都合をつけて二日間の休みをもぎ取り、それまでの寂しさを埋めるように黄瀬を呼び寄せたのだ。黄瀬も忙しかったのは分かっている。だから昨夜は肌を触れ合わせることなく、お互いを抱き締めるだけでベッドに入ったのだが、その余韻にまだ浸っていたかった火神からして言えば、起きたときにいなかった黄瀬に少しくらい我が儘を言いたくもなってしまう。 「こら、くすぐったい」 ぎゅうぎゅうと腕の力を込めて黄瀬を抱き締める火神は、黄瀬の首筋に顔を埋めてその匂いをかぎながら綺麗に浮き出ている鎖骨に軽く噛みついた。やわやわと噛みながら舌で辿り、首を過ぎて顎に軽く吸いつく。 「こっちには?」 くすくすと笑いながらそれらを受け止めている黄瀬は、火神の頬に手を添えて視線をしっかりと合わせるとしっとりとした弾力を持つ唇を少しだけ突き出して火神に尋ねた。 「そこは、今から」 ニヤ、と笑った火神は、黄瀬の後頭を引き寄せて唇に噛みついた。触れるだけのそれからゆっくりとお互いの舌を引きずり出し、少しずつ触れ合わせながら絡ませあう。濡れた音が二人だけの部屋に静かに響いて、火神の耳がそれを拾う。 「……っふ、はぁ」 名残惜しむようにゆっくりと離された互いの口の間を糸が繋がっていたが、それは火神が黄瀬の唇を舐めることでぷつりと切った。 「朝から随分と情熱的っスね?」 からかうような声とは裏腹に火神に伸ばされた黄瀬の手はどこまでも優しく火神を受け止めた。 「こんなん、まだ序の口だ」 黄瀬の細い腰を熱の籠もった手で引き寄せようとしたのだが、その前に黄瀬はするりと火神の腕の中から抜け出してしまう。 「おい、黄瀬」 「だーめ。今日の予定忘れちゃったんスか?」 ふわりと笑った黄瀬に、火神は少しだけむくれた。 「……忘れてねえよ」 「ふふ、じゃ、ご飯食べよ」 早くしないと冷めちゃうっスよ?と悪戯に笑った黄瀬に、火神は小さく溜息を落としてからその後に続いた。 「こんにちは、黄瀬君」 「こんにちはっスー、黒子っち!」 「おい、黄瀬。俺もいんだけど?」 「わわわっ!青峰っち!横暴!」 頭の上で乱暴にかき混ぜられる手を必死に受け止めながら黄瀬は笑う。その様を同じように笑って見ている黒子と青峰に火神は近付いた。 「お前が時間に遅れてこないなんて、珍しいな、青峰」 「うっせーよ。俺だってそう毎回遅れてくるわけじゃねえんだ」 「それは、遅刻しないようにわざわざ迎えに行った僕に対しての暴言と受け取っていいんですね」 「なんだ、やっぱり黒子っちのおかげじゃないっスか」 「テツ、お前黙っておけよそこは」 「嫌です」 「即答か」 やっと離して貰えた黄瀬は、手櫛で頭を整えながら火神を振り返った。 「火神っち!コート、空いてたっスか?」 「おー、今は誰も使ってなかった」 「それじゃ、早速やろうっス!黒子っち!」 「はい、黄瀬君」 「おいこら黄瀬!俺もいるって言ってんだろ!」 「青峰っちは火神っちと組んでねー」 「ちょっと待て!俺は青峰とかよ!?」 「どういう意味だぁ?火神」 「そのまんまの意味だよ、青峰」 「んだとオラ」 「やんのかコラ」 コートに入ってフェンスの傍のベンチの上に荷物を置いてからさっさと上着を脱ぎだした黄瀬と黒子は、コートの入り口で互いを睨みながらガンを飛ばしあっている二人を眺めて揃って溜息を吐いた。 「どーしてあの二人はああなんスかねー」 「まあ、今更にこやかに仲良くされても気味が悪いだけですけどね」 「それは、確かに……」 うっかりその図を想像してしまった黄瀬は顔色を青くしつつ頭を振った。 「ところで黄瀬君、その荷物は?随分と大きいですけど」 「あ、お弁当っス!」 「お弁当?」 「はいっス!火神っちと二人で作ってきたんスよー。せっかく外にいるんだし、天気もいいし、マジバもいいけど偶にはこういうのもいいかなーと思って」 「それはそれは、楽しみですね」 「へへ、期待しててね?」 「はい。……ところで、まだやっているんですか、あの二人は」 振り返った黒子の視線の先には、さっき見た時と寸分も違わずに額をつき合わせていがみ合っている青峰と火神の姿がある。 「いい加減、そろそろ止めてくれませんかね」 「本当っス」 やれやれ、と肩を竦めていると、背後から騒がしい声が聞こえてきた。 「おー、空いてんじゃねーか」 「そーだな。ちょーどいいわ」 「さっそくやろーぜー」 黒子と黄瀬が振り返ると、火神たちがいるのとは反対側のコートの入り口から、明らかに柄の悪そうな三人組がコートに入り込んできていた。そのうちの一人がこちらに気付いてからかう様な視線を投げてくる。 「おい、お前等!俺らが今からここ使うんだから、さっさと退けよな!」 年齢的に大学生くらいだろうか。手に持ったバスケットボールをくるくると回しながら近寄ってくる。ガタイは良いが身長はそこまで高くない一人が、黄瀬の前に立ち塞がった。 「……へえ、随分とキレーな顔してんなあ、お前」 不躾な視線を黄瀬に向けてニヤニヤと笑う男に、黄瀬も、そして黒子も眉をしかめた。 「あの、俺たちがここ最初に使おうと思ってたんスけど」 さり気なく黒子を背後に庇いながら黄瀬が言えば、いつの間にか男の背後に近付いていた残りの二人が黄瀬を囲むように立っていた。黄瀬と同等くらいの身長の二人は、黄瀬の顔を見ながら嫌らしく笑う。 「なーんだ、俺たちの相手してくれんの?」 「それじゃあ、喜んでお相手しないとなあ?」 「は?ちょ、」 こちらが何か言う前に黄瀬に、向かって伸ばされた手は目的にたどり着く前にあっさりとはたき落とされた。 「く、黒子っち!」 「いってえな、何だてめえ!どこから現れた!」 伸びてきた手を素早く叩いた黒子は真っ直ぐな視線を目の前の男たちに向ける。 「そんな汚い手で黄瀬君に触らないでください」 「んだと、この!」 「黒子っち!」 黒子に向かって勢いよく振り下ろされる手から庇おうと黄瀬が黒子を引き寄せようとしたそのとき、真横から飛んできたバスケットボールが二つ、男二人の顔面に見事に直撃した。 「〜〜っ誰だコラア!」 いかにも痛そうな音を立ててボールはコートに落ちる。顔を赤くして叫んだ男たちがボールが飛んできた方向へ視線を向けると、そこには二人の獰猛な獣がいた。 「なあ、そこのオニーサン方。誰の許可を得てそいつらに勝手に触ろうって言うんだぁ?あぁ?」 「それ以上何かしようって言うんなら、俺たちが相手になってやるよ」 青峰が挑発し、火神がそれを更に煽る。視線だけで人を殺せそうな勢いで相対する二人に対して気圧された男たちだったが、目配せをしてすぐさま火神と青峰に向かって声を張り上げた。 「粋がってんじゃねえよ!」 「あぁ?んだとコラ」 「大人しくこいつだけ置いて行けば許してやらなくもねえぜ?」 黄瀬に視線を向けてニヤニヤと笑う三人に、黄瀬は顔をしかめ、黒子は絶対零度の視線を向け、青峰が不敵な笑みを唇に乗せれば、火神の握り締めた拳がごきりと嫌な音を立てた。 「……そこまで言うんならしょーがねーよなー?火神」 「ああ、そうだな」 「何言ってんだ?お前ら」 「さっさと帰れよ」 「ガキが俺たちに適うとでも、」 「御託はいいから、さっさと白黒つけようぜ?あんたらは三人でいいから。俺とこいつで相手してやるよ」 にやり、とあくどい笑みを作った青峰はボールを掴んだままコートの中央に進んだ。 「おら、さっさとやろうぜ?」 青峰の挑発にあっさりと乗った三人に、黄瀬は同情の視線を向ける。 「……あーあ」 「自業自得ですよ」 黄瀬の溜息に黒子が鼻を鳴らす。そのまま火神に視線を向けると、漲る闘志が揺らめいて辺りに立ち上っている様に見えた。 「……これはこれは」 先に手を出そうとしたのはあちらからだ。これはもうしっかりとその分の報いを受けて貰わないといけない。 「何分でケリが付くと思います?」 隣にいる黄瀬にさりげなく尋ねると、黄瀬は苦笑しつつコートに視線を向けた。 「そーっスねえ」 五分も、かからないんじゃないかな? ぽそ、と呟いた言葉を拾って、今まさに始まったゲーム(と言えるか分からないそれ)に黒子もポーズだけは視線を向けることにした。 「本当、口ほどにも無かったな」 当然本気を出すまでもなかった青峰と火神の二人は黄瀬が言った五分きっかりくらいで三人のプライドをしっかりきっちりと圧し折ってやった。あっさりと負けた三人は、すごすごとコートを出て行き、その後悠々とバスケに興じることができた四人は思い思いに楽しんだ。 暫くしてから火神の腹の虫が盛大になったことで一休みして昼にしようと、火神と黄瀬が持ってきた弁当をコートの近くの芝生の上にシートをひいて広げることにした。目の前に並べられた色とりどりの弁当に青峰と黒子は舌鼓を打っている。 「黒子っち、卵焼きとハンバーグ食べるっスか?」 「いただきます」 「はいっス。たくさん作ったからいっぱい食べてね」 「ありがとうございます」 甲斐甲斐しく黒子におかずを載せた皿を手渡し勧めている黄瀬の姿に、火神は若干視線を険しくし、青峰はさして気にせずに大きめのおにぎりにかぶりついていた。 「お前、気にしすぎだろ」 「……うるせー」 「黄瀬が黒子好きなのは今更じゃねーか」 「分かってるけど!」 しょうがねえじゃねえか。とぼそぼそ言いつつ唐揚げを口に放り込んだ火神に、青峰は肩を竦める。 「おい、黄瀬」 「何スか?青峰っち」 「お前の彼氏がいじけてんぞ」 「え?」 「ちょ、おま、青峰!」 「何だよ、本当のことだろー?」 ニヤニヤと笑う青峰は、横にいる黄瀬の腰を引き寄せて黄瀬の肩に顎を載せた。 「黄瀬、俺にも卵焼き」 「もー、青峰っち」 青峰を肩に載せたまま、黄瀬は箸で卵焼きを一つ取ると、青峰の口に運んでやる。 「……ん、んまい」 「ふふ、そりゃどーもっス」 「もう一個」 「自分でとろうよ、青峰っち」 「黒子にはやるくせに」 「だって黒子っちだもん」 「うぜー」 「青峰君、黄瀬君をかまいたいのは分かりますが、そろそろ止めてあげてくれませんか」 「どーしたよ、テツ」 「火神君がそろそろキレそうです」 みかねた黒子がそう言うのと青峰が火神に視線を向けるのは丁度同じだった。 「あ〜お〜み〜ね〜」 恨めしそうな声を上げて火神が手元の割り箸をぼきりと折る。 「なんだよ、火神。こんくらいで。お前はもうちょっと余裕をだな」 「青峰君はちょっと黙りましょうか」 「なんで、ごふっ……っおいこらテツ!」 黒子の手刀を食らって呻いている青峰から火神は黄瀬をさっさと取り上げる。 「火神っち?」 「お前はここ」 火神の隣に座らされた黄瀬は、はあい、と返事を返して自分のおかずを口に運んだ。 「火神っち、このミートボール美味しいっス」 「ん、また作るな」 「作り方、教えてね」 「おう」 黄瀬の頭を優しく撫でる火神の顔は、さっき青峰に向けたものとは雲泥の差だ。 「……格差社会か」 「意味が違うと思いますよ」 青峰の呟きに黒子が突っ込む。和やかな昼の時間はゆっくりと過ぎていった。 「それじゃ、黒子っち、青峰っち!またね!」 「今日はご馳走様でした」 「気に入ったんなら、また作るぜ」 「おう、火神。俺はもっと肉が食いたい」 「お前に聞いてねえよ!?」 「んだよ、お前が作るって言ったんじゃねえか」 「青峰君、あんまり火神君いじめないでください」 「いじめてねえよ?!」 「青峰。お前、黒子の信用あんまりねえな」 「僕と青峰君で気が合うのはバスケくらいですから」 「黒子っち、それフォローになってないっス……」 笑いながら手を振って、夕方前に四人は別れた。夕飯も一緒にどうか、と聞いたのだが、これ以上は馬に蹴られてしまう、と黒子が分かったような顔で笑いながら言うので、黄瀬は頬を染め、火神と青峰はいまいち分かっていない顔で首を傾げた。 ではまた、と離れていく黒子と青峰の背中を眺めながら、黄瀬は隣にいる火神に視線を向けた。すると、火神もこちらを見ていて、思わず視線が合ってしまう。 「火神っち」 「黄瀬」 「帰ろっか」 「そーだな」 ふわふわとあたたかい笑顔でお互いに笑い合い、帰ろうと足先を向けようとしたとき、火神が黄瀬の手を取った。黄瀬が僅かに目を開いて火神を見ると、火神は真っ直ぐに黄瀬を見て、そして照れくさそうに頭を掻く。 「……火神」 「表通りに出るまで、な」 きゅ、と握りあった手の温度は同じ。それがどうしようもなく幸せだと、黄瀬は握る手に力を込めた。 共に作った夕食をしっかりと腹に収め、満足ゆくまで堪能した二人は、食べ終わったあとの片付けをしようとまた台所に並んだ。火神は隣で自分が洗った皿を拭いてしまっている黄瀬に、ちらり、と視線を向ける。ざあざあと手元で流れていく水の流れを視線に入れつつもそれは意識の外にあった。 「火神っち?」 動かなくなった自分に気付いたのだろう、黄瀬がそっと心配げな声で呼んでくれた名前に、火神は一瞬反応が遅れてしまった。 「あ、いや、悪い」 「どうしたんスか?疲れちゃった?」 蛇口を締めて、水を止める。 「……火神?」 「黄瀬」 振り返った火神を見た黄瀬は、そこで小さく息を飲んだ。 欲を孕んだ視線が自分に向けられている。身体中に熱が回って、黄瀬の身体を熱くした。 「……明日はさ、」 「え?」 「明日は、一日ここにいねえか?」 火神の言葉に、黄瀬はくすくすと小さな笑い声を上げる。 「……笑うなよ」 「んーん、ごめん」 未だ納まらぬ笑いに、黄瀬は滲んだ目元を指先で拭いながら火神に近付いた。 「直球な誘い文句だなあ、って思って」 少しだけ伸び上がって黄瀬は火神の口に自分の口を押し当てる。ちゅ、と軽く音を立てて離れると、火神が直ぐにそれを追いかけて黄瀬の腰を引き寄せた。 「帰って直ぐに風呂入って良かったっスね」 「本当にな」 「まさか、ここでしないよね?」 「して欲しいか?」 「やっスよ。ちゃんとベッドでして」 久しぶりなんだから、と頬を染めながら黄瀬が火神の首に腕を回して引き寄せる。そうしていっそう近くなった距離に、火神は堪らずに黄瀬を横抱きに抱き上げた。 「ちょ、なに、いきなり」 「悪い、黄瀬」 どかどかと足音を立てて火神は寝室のドアに向かっていく。開けたままだったドアから部屋に入ると、後ろ脚で火神はドアをバタンと閉めた。 「行儀悪いっスよ」 「今だけだ」 黄瀬がからかう様に咎めるのを、火神は話半分でしか聞いていない。 平均身長を優に超した男二人が乗ってもビクともしない頑丈なベッドに、これを選んで良かった、と心底から過去の自分に称賛を贈る。白いシーツの上に月明かりに照らされて輝く金の髪を散らばせた黄瀬は、上から覗き込んでくる火神に向かって手を伸ばした。 「たいが」 甘い、甘い呼び声に、火神の芯が熱くなる。堪らず顔を寄せて深く口付けた。舌を絡ませてお互いの唾液を啜りながら二人は着ているものを脱がしていく。シャツを引き抜いて遮るものが何も無くなると、触れあったところから互いの鼓動が伝わった。 「りょうた」 僅かに離した口の隙間で相手の名前を熱の籠った声で呼べば、応えるように黄瀬の手が火神をいっそう引き寄せる。 ギシ、と軋む音を耳が拾うが、それが何か認識する前に火神は黄瀬の熱を求めて黄瀬の背中に回した腕に力を込めた。身体のひとつひとつのパーツを確かめるように唇で、手のひらで、身体全部で黄瀬を辿っていく。時折漏れる黄瀬の声が滴る様な甘さを持って火神を煽り、慎重にことを進めようとする火神の理性を揺らした。 「……んっ、あ、」 「っは、りょう、た」 それでもなんとか時間を掛けてゆっくりと解けていったそこに、じれったくなるくらいにゆっくりと火神は自分を埋めていった。繋がった部分から目も眩む様な快感が伝わってくる。 動きたい、という欲を黄瀬に口付けることでなんとか押し止める。ほろほろと黄瀬の蜂蜜の瞳から零れていく涙を、火神は何度も舌で舐めとった。 「たいが、」 「大丈夫、か?」 「ん、だいじょーぶ、だから、」 うごいて、と黄瀬の唇が動いたのを視線で確認したのが最後に、火神と、そして黄瀬の思考はどろどろに溶けて、雑ざって、昇華した。 ちゅん、と窓の外から雀の鳴き声が聞こえた。頬に当たる陽の光に、もう朝か、と火神は瞼を持ち上げる。と、目の前にはあどけない寝顔を晒して健やかに眠る恋人の姿があった。 「……」 頬に手を添える。滑らかな感触に、火神は口元を緩めた。 細く締まった腰を優しく引き寄せて、自分の肩口に黄瀬の顔を埋めさせる。 「……ん、」 僅かに漏れた声に、起きるかと思ったが、黄瀬は少しだけ身じろいだだけで眠りから覚めない様だ。 「もーちょっと、な」 さらさらの髪を起こさないように気をつけて殊更優しく撫でてやると、黄瀬の顔が締まりなく緩んだ。 自分もきっと似たような顔をしているんだろうな、と考えながら、火神は目を閉じた。 それは、ある幸せな一日の話。 20130206 涼介様、リクエスト有り難うございました! |