for the love of you



とても、とても甘やかされていると、思う。





「ほら、黄瀬こっち来い」
「……ん」
大きくてあったかい手で招かれて、その優しい笑顔についふらふらと近寄ってしまう。
ソファーに座っている火神っちの足元、開かれている膝の間に座り込めば、頭の上にやわらかいタオルがぽふんと載せられた。
わしわしと決して強くない力で、地肌をマッサージするように髪を拭かれる。あまりの気持ちよさにうっかりその場で寝そうになって、慌てて頭を左右に振れば、火神っちが小さく笑う声が聞こえてきた。
「眠いか?」
そんな優しい声で聞かれたら、反論なんてできないじゃないか。
「……」
頷いて肯定すれば、もう少しだからな、とまた優しい言葉が降ってきて、その心地よさに俺の瞼はまた直ぐに閉じそうになる。
「終わったぞ」
水分を含んだタオルが退けられて、額に乾いた前髪がふわりとかかる。そのくすぐったさに小さく笑えば、火神っちが俺の脇に手を入れて背を向けている今の体勢から、火神っちの方へ正面から向き合うように身体の向きを入れかえられた。そのままソファーに座ったままの火神っちの膝の上に座らされた俺は、もしも今眠くなかったら、絶対に恥ずかしかっただろう恰好に少しだけ唇を尖らせていたのだが、火神っちが俺を呼ぶ声に自然と視線を向けた。
「黄瀬」
俯いていた顔を上げた。今の体勢だとさっきよりももっとずっと、火神っちと顔が近い。目の前の火神っちの額に自分の額を擦り付けた俺は、戸惑いながらも口を開く。

「……かがみ」

ああ、なんでこんなふわふわしたこえで。

火神っちは俺の声が届いた瞬間に、とてもとても優しい顔で笑ってくれて、その笑顔のまま俺を抱き締めてくれた。背中に回る腕に力がこもって、俺も負けじと火神っちの首に腕を回す。
ぎゅう、と隙間が無いくらいにお互いを抱き締め合えば、なんだかひとつのイキモノになってしまったように錯覚してしまった。


「きせ」


ここにいるよ
あんたのとなりに、
あんたのすぐそばに、おれはいるよ


あたたかい声。
あたたかい手。
あたたかい瞳。
あたたかい、彼。
火神っちに触れたところから伝わってくる泣きたくなるくらいに優しい熱に誘われて、俺が眠りの世界に落ちる前に火神っちに伝えようとした科白は、そうして言葉にする前に、熱い熱い彼の口の中に全部飲み込まれてしまったのだった。






20121020





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