ゆたんぽごっこ








「寒いですね」

そういってケンジが自分の部屋に入ってきたのは、今日になっていきなり侘助から言われた、
『あ、すまん。今日の実験中止な』
の一言で急に降ってわいた休日をいかにして過ごすかを考えようと取り敢えず部屋にある自分用のソファーの上でのんびり考えようとした時だった。
「ケンジ、寒いのか?」
「ええ、寒いんですよ」
自分が休みになったという事は、つまり彼も休みになったということだ。最近は特に忙しくて二人だけの時間が中々取り辛かった事もあって、久しぶりに二人だけでこうして向き合うのは何だか不思議な感じがする。嬉しいのだが、それだけではない、何だろう、この感覚は?
「ケンジ、何か温かい飲み物でも入れようか?」
「……」
そうケンジに提案してみるものの、当人からの返事が返ってこない。取り敢えずソファーから立ち上がろうと足に力を込めようとした時、ケンジが無言のまま移動した。
「……」
目の前に立っているケンジを座ったまま見上げる。ケンジは俯いているが、ワタシは座っているのでその顔はよく見えた。
「ケンジ?」
「ラブマシーンさん」
「何だ」
「寒いんです」
「ああ、だから何か温かいものを」
「違います」
「違う?」
「ボク、寒いんですけど」
「ああ、それは分かった。ちょっとここにいてくれ、今何か」
「だから、寒いんですよ」
要領を得ない言葉の応酬にどうしたらいいのか本気で分からなくなってきたワタシの目の前で、ケンジは行動に移った。
「……ケンジ」
「何ですか」
「いや、その何というか……」
言い辛いワタシの気持ちをどう説明したらいいだろうか。つまりケンジは、今ワタシの座っている膝の上に馬乗りになった状態でいるのだ。そしてそのまま両手を伸ばしたケンジはワタシの身体に抱きついたかと思うと、そこでひどく満足気に長く息を吐き出すので、ワタシと言えばただその小さな背に両手をそえてやることくらいしか出来なかったのだが。
「ラブマシーンさん」
「ああ」
「暫くこのままでいいですよね」
「……ああ」
拒否権なんてものはそもそも存在すらしていない。
こうした接触が本当に久しぶりで、果たして最後にケンジとこうして触れあったのはいつだっただろうか、とメモリーを呼びだそうとして止めた。
そんな不毛な事をせずとも、今目の前に彼がいるのだ。ワタシの腕の中に。
ならばそれ以外は、今は必要ないものだ。
「ケンジ、今日はどうしようか」
「今は何も考えたくないです」
「そうか」
「……まあ、しいて言えば、」
ワタシの胸板に顔を埋めたままだったケンジがゆっくりと首を動かして、自分を真下から見上げている。
「ボクが寒くなくなるまで、このままこうしていてくれません?」


……ああ、そうか。この感覚は気恥かしい、だ。


おかしな話だが、……そう、久しぶりの彼とのこうした触れあいに、ワタシはどうやら照れているらしい。伸ばした手で彼の前髪をかき上げて現れた額にキスを落とす。
「お前の気の済むまで、付き合おう」
二つ返事で頷いたワタシに、ケンジはワタシの一番好きな柔らかい温かな笑顔を見せてくれた。
さてではこの後を二人でどう過ごそうか。そんな事に思いをはせながら、ケンジの身体をそれほど強くない程に抱き込んで、まずは二人でソファーに寝そべる事をワタシは選んだのだった。








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