ハミングバード



ゆら
ゆら
ゆら
ゆら

ゆらめいて、
不安定で、
でも、嫌いじゃない





彼の隣は心地が良いと、素直に認められるようになったのは、割と最近のことであった。
本人に伝えるつもりはない。そんなことを言おうものなら、調子に乗ってどうしようもなくなるのが目に見えているからだ。
だが、案外自分が考えているようなことにはならないかもしれないと、これもまた最近思うようになってきた。
彼は、存外人との距離に敏感で、そして臆病でもあるからだ。
手を伸ばして、触れる。
見上げてくる視線に見つめ返す。
他愛もない言葉に相槌を打って、そうして自分の言葉で伝えれば、その目を開いて、そしてこれ以上ないくらいにキレイな笑みを見せてくれる。
それが自分だけだとは思っていないのだが、どうやらそうでもないらしいことを別の人間から聞いて知った。

「黄瀬君は、緑間君と一緒にいるときが、一番素直になりますね」
彼の教育係の言葉に、そうなのか?と呟けば、やれやれ、とでも言うように肩を竦められた。
「自覚無しですか」
「生憎、そんな自覚は持っていない」
君らしい、と小さく笑ったそいつは、視線を目の前でプレイしている黄瀬に向けた。その目が普段と違った色をしているのに気付いて、それから自分も黄瀬に視線を固定してみる。

「わあっ!紫原っち!ずるい!それずるいっス!」
「別にずるくないしー、俺よりちっこい黄瀬ちんが悪いんだしー」
「そんなこと言ったら!ほとんどの人は紫原っちよりも小さいっスよ!?」

取られたボールを懸命に取り返そうとしてキャンキャンと騒いでいる黄瀬に、紫原が眠そうな目で、でも面白いおもちゃを見付けたとでもいうように、黄瀬をからかっている姿に僅かに眉間に皺が寄る。
「ほら」
隣の男の声に視線を向ければ、さもいいものを見た、というように目を細められた。
「君も、大概ですね」
その言葉には何も返さずに、緑間はコートに向かっていった。
まだ騒いでいる黄瀬と紫原の二人の傍にそれとなく近寄って、紫原を見上げている黄瀬の頭を軽く叩いた。
「ふわっ?あれ?緑間っち?」
「あれ、みどちん」
「二人とも、五月蠅いのだよ。赤司に怒られてもしらんぞ」
その名を出した瞬間、黄瀬の顔が面白いくらいに青褪めて、それから周囲に急いで視線を向けてから、安心したように肩を落とした。
「よ、よかったっス……赤司っちに見付からなくて……」
「あー、赤ちん、今日は遅れてくるって言ってたからね、まだ来ないと思うよー」
「え、そうなんスか?って緑間っち?」
首を傾げている黄瀬を置いて、いつもの自分の練習の為にゴールに向かいあうと、後ろから黄瀬に呼ばれて振り返った。

「緑間っち」

なんだ、と返そうとして、頬に何かが当たったのに気付いた。

「ふふ、ひーっかかった」

頬に触れたのは黄瀬の人差し指だ。むに、と突き刺さったそれに顔を顰めると、黄瀬は悪戯っ子の様に微笑む。
「さっきの仕返しっスよ」
耳元で囁かれた言葉にふむ、と考える。
じゃ、と離れて行こうとする黄瀬を片手で捕まえた。

「緑間っち?」

振り返った黄瀬の頬に向けて、俺は顔を傾ける。
ちゅ、と小さい音を立てて、離れる。目を開いて顔を赤くしている黄瀬に溜飲を下げて、俺はさっさと自分の練習メニューを始めることにした。



ゆら
ゆら
ゆらと揺れて、
近寄って、
そして離れて、
そんな距離が丁度いいのだ





「ねー、黒ちん」
「何ですか、紫原君」
「あの二人さー、」
「あの二人がどうしました?」
「なんであれで付き合ってないの?」
「さあ、それを僕に聞かれても答えられないですね」
「なんでだろー?」
「何でですかねえ」









20120919





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