Your sight, my delight.



だって、喜んでほしいんだ
もっと、笑ってほしいんだ
ずっと、一緒にいてほしいんだ





(カズマ!カズマってば!)
先程から下のほうから何かが足にパシパシ当たってくるな、と歩きながらぼんやり考えていたカズマは、膝の裏に軽い衝撃を受けてやっと立ち止まり下を見た。すると、
「……何やってんだ?お前は」
そこには怒った時に出るエフェクトの蒸気を頭の上にぽんぽんといくつも浮かばせたラブマシーン(小)がカズマを見上げて肩を怒らせながら立っていた。
(さっきから呼んでる!)
「呼んでるって言われても、……まあ、そうか。悪いな。気付かなかった」
素直に謝ったカズマが膝を屈めてラブマシーンの視線に合わせてくれたのに若干気を良くしたラブマシーンは、これでやっと話が出来ると機嫌を直し、頭に音符を浮かばせながらふきだしを飛ばし始めた。
(聞きたいことがあるんだ)
「僕にか?」
(そうだ)
「それで、何を聞きたいんだ?」
(……あのな、カズマ)
カズマの名前を呼んで、ラブマシーンは一拍間を置くと一際大きいふきだしを浮かべた。
(大事なヒトに喜んでほしいとき、何をすれば一番喜んでくれる?)
目の前に表示されたふきだしの中に現れた言葉にカズマはふん、と軽く鼻を鳴らすとラブマシーンに視線を戻した。
「いっちょ前なことを尋ねるようになったじゃないか」
カズマの大きい手で頭をぐりぐりと撫でられたラブマシーンは、それが褒められたのだと思って嬉しそうに目を細める。
(それで、どうしたらいい?)
「うーん、そうだな」
上を見上げてふむ、と考え込むカズマを期待を持った瞳で見詰めていると、ラブマシーンの身体が急に宙に浮いた。
(うわあ!?)
「……うん、やっぱり軽いな」
(カズマ?)
「もっと体重増やした方がいいんじゃないか?さっきの攻撃は何だ?全然威力が無かったぞ」
(……カズマ)
目の前に浮かんだふきだしに自分の名前が浮かんでいるのを眺めてから、カズマは何だ、と口を開いた。
(これ、すごいな)
今ラブマシーンはカズマに肩車をしてもらっているのだ。視線がいつもよりずっと高くなったことに素直に驚いているとカズマが小さく笑う。
「どうだ」
(すごいぞ!カズマ!)
聞こえてこないはずの声が、浮かんでいるふきだしから耳に直接流れ込んでくるようだ。
「ほらな、簡単だろ」
(え?)
何が簡単なのか、と視線で訴えるとカズマが呆れたように言う。
「お前が先に聞いてきたんだろうが」
(あ、)
つまり、これがヒトを喜ばせるということだと、カズマは言うのだろう。
(で、でも、これはボクが嬉しいことだ)
「そうだな」
(そうじゃなくて、その、)
何て言ったらいいのか分からなくなってしまってラブマシーンが頭を悩ませていると、カズマがひょいとラブマシーンを足元に下ろした。
(カズマ?)
「ヒトによって、喜ばせる為の方法が色々あるってこと、分かったか?」
カズマの声にこくりと頷くと、カズマの手がまた頭の上に載せられた。
「じゃあさ、お前が今喜ばせようとしているヒトにお前は何をしてやりたいと思う?」
カズマの問いにラブマシーンは目を何度も瞬かせて、ぽん、とふきだしを浮かべる。
そこに浮かぶ言葉に、カズマはニヤリと笑った。
「だったら、こんなところで油売ってる場合じゃないだろう?」
(ありがとう!)
カズマ、またな!と浮かんだふきだしに軽く頷いてやるとラブマシーンは手のひらをくるりと上に上げると空に大きく円を描く。円が光った、と思った瞬間ラブマシーンの姿はその場から消えていた。
「アイツ、転送用のゲート開くの早くなったな」
感心するところが違う、とあの小さな栗鼠のアバターが隣にいたら突っ込んでいただろうけれど、残念ながらこの場にはカズマ以外にいなかった為につっこみ役が不在であった。





(ただいま!)
突然目の前に現れたふきだしに少しだけ驚いたケンジは笑いながら後ろを振り返った。
「お帰りなさい、今日は随分早かったですね」
家から出る際に、今日は遅くなるかもしれない、とケンジは聞いていたのでもっと夕方近くになるだろうと思っていたのだが、それよりずっと早い時間にラブマシーンは帰ってきた。それもニコニコととても嬉しそうに。彼が嬉しいと自分も嬉しい。微笑みながらケンジがラブマシーンに今日はどんなことがありました?と聞くとラブマシーンはケンジの手をその小さな手で掴んだ。
「ラブマシーンさん?」
(こっち、こっち来て)
そんなに強くない力で引かれる腕に抵抗しないで素直についていくと、リビングのソファーに辿り着いた。
(座って、座って)
浮かんだふきだしの言葉に従ってソファーに腰を下ろすと、満足そうにラブマシーンが息を吐く。
「ラブマシーンさん、どうしたんです?」
彼が何をしたいのかいまいち分からずにケンジが尋ねると、ラブマシーンはケンジの座るソファーの隣に身体ごと乗り上げてその場で立ち上がった。
彼の今の身体だと、それでも座っているケンジより視線が高くなることはない。ラブマシーンはその場で背伸びをしたと思ったら、ケンジの頭の上に手をぽふ、と載せた。
ラブマシーンの手が自分の頭の上に載っていることは分かる。分かるのだが彼はこれから何をするのだろう、とケンジが大人しく待っていると、その手がゆっくりと動き出した。
ケンジのさらさらした髪の上をラブマシーンの小さい手が何度も何度も往復する。最初こそぎこちなかった動きが段々と滑らかになっていった。
「ラブマシーン、さん、」
ケンジの呼びかけにラブマシーンは一端手を止めてケンジの目を至近距離から覗き込んだ。
(……)
「……」
無言で見詰め合うこと数秒、先に視線を外したのはラブマシーンの方だった。
(やっぱり、上手くいかないな)
がっかり、とまではいかないまでも少しだけ肩を落とした風なラブマシーンにケンジが目を開く。
「ラブマシーンさん?あの、何が、」
ケンジが戸惑う様に尋ねると、ラブマシーンはまたふきだしを浮かばせた。
(喜んでほしかったんだ)
浮かんだ言葉にケンジは目を丸くする。
「喜ぶって、」
(いっぱい、いっぱい考えたんだけど、ボクがいつもしてもらって嬉しいことを同じようにしたら、喜んでくれるかな、と思ったんだ)
小さな手がケンジの頬にぴとり、と触れる。
その手がゆっくりと離れていこうとするのをケンジは止めた。
自分の手でラブマシーンの手を軽く掴むと、ケンジはその手をもう一度自分の頭の上に載せる。
「もう一度、」
(……え?)
「もう一度、お願い出来ますか?」
撫でてくれるか、と尋ねると、ラブマシーンはこれ以上ない笑顔を見せて勢いよく頷いた。
(何度でも)
「そんなにたくさんじゃなくてもいいんですよ?」
(何回でも!)
小さな手の感触が柔らかい。彼が触れている頭から溢れるぐらいの優しさが伝わってくる。
「……ありがとうございます」
(嬉しい?)
「はい」
(ボクも嬉しい!)
彼の声が聞こえないのがとても惜しいと思う。けれど、それでもケンジは幸せだと思った。
ゆっくりと視線を閉じた先にはかけがえのない彼がいる。いつまでも変わらない、優しい彼が。
それだけでケンジは笑う事が出来るのだと、いつか伝える事が出来たらいいと思う。
だから今は自分に出来る感謝の気持ちをたくさん込めて。自分に触れている存在に向けて、ケンジは心からの笑顔を浮かべた。









………………
120624

…私の喜び、それはアナタ。
お誕生日に捧げた小話でした。

 









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