恋を嘲うのかね




「情けないと思いますか?」
「どこからそういう話になったんだ?」
「ええ、まあどこからですかね」
「さあ、ワタシにも分からない」
「ボクにも分からないんですよ」
「それでは話が進まないな」
「本当に、困ったことです」
「困るか?」
「困りませんか?」
「差し迫って、困ると思うような事項が浮かばないんだがな」
「それは、……まあ、アナタはそうかもしれませんが、」
「お前は困るのか?」
「……厳密に定義出来ない事が目の前に浮かんでいるとなると、それは困る、というよりも迷惑、というか」
「処理出来ない事は削除して、速やかに次に、か?」
「それが出来たらこうして悩んでいません」
「悩むのか」
「悩みますよ」
「何故だ?」
「それを説明出来ないから困っているんじゃないですか」
「説明が、必要か」
「でないと納得出来ないでしょうに」
「お前がか?」
「アナタが、ですよ」
「ワタシが?」
「他に誰がいるっていうんです」
「ワタシが納得すればいいのか」
「なんか主旨がずれてきましたね。違いますか。……あれ、違くもないのかな」
「よく分からないな」
「すみません、ボクにも分からなくなってきました」
「最初からそうだったろう」
「ああもう、処理速度が追いつかない」
「混乱しているな」
「しますよ、そりゃ。します」
「まあ、ワタシも似た様なものか」
「何か、おかしいですね」
「ああ、おかしいな」
「なんでこんなに悩むんですかね」
「なんでこんなに困る事があるんだろうな」
「……あなた、分かっているんでしょ」
「なんでそう思うんだ」
「余裕があるように見えますから」
「それは、そう在りたいと願う感情の発露からか」
「感情」
「おかしいか」
「別に、今更それを否定することなんてないですよ」
「そうか」
「それはボク自身も否定することになるんでしょうから」
「お前のことなら、ワタシが全力で肯定する」
「周りが何か言っても?」
「誰が何と言おうとも、それだけは譲れない」
「アナタらしい、というか」
「これ以上ないだろう?」
「何でそこでそんなに自信満々なんですか」
「お前のことだからな」
「はあ、アナタって人は本当に」
「本当に?」
「アナタ以外にいないんだなと、実感していたんですよ」
「そうだな、ワタシはワタシ。唯一無二だ」
「それ以上でもそれ以下でもない、確固たるアナタですよ」
「そういって貰えると嬉しいな」
「嬉しいですか」
「正当な評価だと受け止めるが」
「間違いでは、ないですね」
「なら、いいだろう」
「もう少し懐疑的になってもいいと思いますが」
「相手がお前以外なら考えよう」

ぽふ、と頭の上に大きな手のひらが下りてきた。何度か頭の上を往復したそれはそのまま離れていく。その手の先を無意識に視線で追いかけていたケンジは、手の持ち主であるラブマシーンもまた同じ様に自分を見ている事に気付く。
そのまま視線が合うと、ただもうしょうがないと軽く息を吐き、諦めと、それ以外の甘い何かを匂わせる様な顔で笑った。

「たまにはアナタに勝ってみようと思っていたんですけどね」
「勝ち負けの話だったか?」
「そうですよ、まあいたちごっこみたいなものかもしれませんけど。この勝敗の結果が今後の運命を左右すると言っても過言ではないですね」
「そんなに重要な話だったのか……」
「まあ、そこまで深刻な話ではないですけど」
「そうなのか?」
「どうでしょうね」
「どっちなんだ?」
「どっちでしょう」
「ケンジ」

堪らず呼ばれた自分の名に、ケンジは耐え切れすに笑い出した。

「からかったのか?」
「違いますよ、人聞きの悪い」
「じゃあ、何なんだ?」

聞き分けのない子どもの様な声でラブマシーンが言う。その声になんだかこの前までの幼い彼を思い出して、胸の奥が少しだけ鈍く揺れたけれどそれは顔に出さずにケンジは視線を伏せて含み笑ってみせる。これくらいの余裕は自分にだってあるのだと、彼に見せてやらないと年長者としての威厳が保てないではないか。まあ、そんなものは最初から在ってないようなものかもしれないけれども。

「先手必勝、ですよ」

自分の言った意味が分からず首を傾げる彼に、さて、これは一歩リードになるのかどうかと内心で考えながら、今日のおやつは彼の大好きなホットケーキにしようと決めてケンジは立ち上がる。
まだ悩んでいるような様子の彼に気付かれないように笑って、ケンジはエプロンと手にとってキッチンに歩き出した。








………………
120516

…真っ直ぐで、一途な、そんな恋なんですよ、と嘯いてみたりして。
笑っちゃうくらい真剣なんです。
そんなラブケン。

 









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