口唇の魔術
この世で一番最初にキスを考えた人はとても偉大であると、ボクは手放しで称賛しよう
「…どうした」
「なんでもないよ」
何故ってそれは、想いを伝える事が苦手で口下手な人だって、キスと言う行為をすることで相手に自分がどう思っているのか届ける事が出来ると思うからだ。
だからボクはキスが好きだし嫌いでもある。
(この行為に意味を持たせて、それで?)
「………お前はいつも予測出来ん瞬間にしてくるな」
「それ、貴方に言われたくないよ」
触れる瞬間のこの気持ちはどんな言葉も当て嵌める事は出来ない。先人の偉大な辞書も、こんな時ばかりは役に立たない。
ボクからキスをする時貴方は、普段のふてぶてしさが為りを潜めてとても真面目な顔になる。
何故だか神聖な儀式をしているような気分になるから不思議だ。
仮にも聖職者に向かっての感想じゃないかもしれないけれど。
「なんだ?」
「なんでもないよ」
全部伝わらなくてもいいから、それでも触れたいと思う。
溢れるくらいの感情がボクの中にも息づいていると貴方と出会って初めて知った。
最後にもう一度軽く触れて離れた。
(零れそう、だ)
こんな時ばかり、彼は何も言わずにただボクを見る貴方が。閉じた眼を開けた時に見る貴方の瞳の意味を、ボクはまだはかりかねている。
触れている間に貴方がどんな顔をしているのか知りたくないから、ボクは眼を閉じている。
090325
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…素直じゃない二人。