祈る声はすでに届かないところへ

「アレン君!」

あの後解散を告げた瞬間、間を置かずにこの場から離れていった少年をコムイは追いかけた。廊下に韻と響く自分の声に僅かばかり顔を顰めながら、振り返らずに立ち止まった少年に追いつく。肩で息をしながら随分と久しぶりに走った自分の足先を見下ろしながら顔を上げた。そこで身体の動きの一切が止まってしまった。
こんな時、なんと声をかければよかったのだろう。ただ何も考えずに少年を追いかけてきてしまった事に、少年を前にしてコムイは気付いた。
らしくない、と自嘲しながらも、けれど今、彼を独りにする事は出来なかった。
謝罪を、しにきたのだろうか。
あの時、少年の口から出た言葉は、本来であれば自分が言うべき科白であったのだ。酷い言葉を自身に言わせてしまった事に負い目を感じて自分は来たのだろうか。いや、違う。彼のあまりに真っ直ぐなあの声に、姿勢に、胸の奥で悲鳴を上げているように自分には見えたのだ。

「コムイさん?」

振り返った少年が自分の名前を呼ぶ。
アレン君、と呼ぶ名を喉の奥に押し込めて、コムイは少年を抱きしめた。



言葉はなかった。
ただどうか、と抱きしめる腕に力を込めた。
祈る神は既に遠く、だからコムイは彼に願う。閉じた目の奥に鮮やかに映える紅を纏う男にその帰還を。この優しく哀しい少年を、またその不器用な愛情で包み込んでやれるその瞬間を。
されるがままだった腕の中の少年のその手がゆっくりと動かされて、自分の背中にまわされて縋るように力が込められたのを気付いて、ただ哀しいと、目を閉じた。





090320
……………………
…アレンの言葉がどれだけの思いから吐き出されたのかとか考えたら。師匠早く戻って来いよおお…


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