ある一日。

それは研究室の一角。
忙しい、というより多忙を極めるのが日常の兄の為に、食事や生活環境の心配をするリナリーが用意した非常食やら何やらが、いつものとおりほぼ手付かずの状態で時を経過させていた。
任務から一時帰還した妹が、それらを見て、不在の間の状況を読むのは至極簡単なことだった。
そして、その後にどんな展開が待つかも。


「兄さんっっ!」

予想通り、いつも通り、絶えず兄を気にかける妹は、容赦なく兄を呼び付ける。
身に覚えが有りすぎる兄の、恐々と振り返る様子は、書類をのらりくらりとかわす普段からは正反対の様子を作り出している。
「リ、リナリー?!」
様子を伺いながら、どれのことかと思案を巡らせる兄に、険しい表情で見返した妹は、
「コレ、ここも…、やっぱり、一週間前と同じままだよ?」
と一つ一つを確認しながら威嚇する猫の様に毛を逆立てて怒っている。少しも身体のことなど構わない状態でいた自分を見て、どうして…といつもの言葉が聞こえてくるようだった。
「う、うん、ちょっと立て込んでて、さ。いつも通りなんだけど…ね?」
さりげなく、少しの抵抗を見せるものの、敵うはずもないことは知っている。
「私、また明後日から任務に行くのよ?皆に心配させてそんな状態で、倒れたりしたら…」
さらに、悲しげな表情で俯きながら訴える様子は、自分の事でなければ、すぐにも慰めなくてはと思う程切ない。
「う、うん」
いつもより、辛そうに眉を寄せる様子にたじろぎながら、大人しく続きを聞く。
思い詰めた様子で訴える妹は、さらに目に涙を浮かべた。
「帰ってくる場所はここで、ここには兄さんがいるから私の家なのに、兄さんがいなくなったら、兄さんに何かあったら、私っ…」
こちらを見上げて、涙目で訴える妹に敵うはずもなければ、謝ることだけしかできない。
簡単な謝罪で許されるはずもないが。

せめて。


「ごめんね」
「私は、いつも、いつだって、ずっと兄さんのこと思ってるのにっ」


こんなにも、自分を慕ってくれる妹に悲しい思いなどさせたくない。
けれど、現状、自分のことなどに構っていられる状況でもない。
だから、一時の謝罪しか渡せない。
いつでも君を待っていられるようにしたいから、
なんて
言い訳かもしれないけど












(ひそひそ)
「コムイさん、リナリーに怒られてるのに、顔、笑ってますよ」
「…あんな風に言われたらなあ?すっかり立場も忘れてるさ。コムイの顔見てみ?デレデレしてんのが全然隠せてないさ」





090317
……………………
…兄妹がスキー。


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