ある日の怠惰な利己主義者

「……ファイー……?」
「あれー、モコナ。どうしたのー?」
「…うん、あの、ね……モコナ、お腹がちょっと空いたから、ファイに何かおやつ作ってもらおうかなーって思って降りてきたんだけどね、……あのね、何で…」

「何で、そんな事になってるのー…?」

それは、ある日のお話。
今日はね、皆でゆっくりしてたの。小狼とサクラは夕飯のお買い物をファイに頼まれて二人でお出かけしたの。モコナ達はお留守番。たまには二人だけにしてあげようってファイと決めたの!それで、ファイは夕飯の下準備を、モコナはちょっとお昼寝してて…そうして暫くして、お腹がちょっと切なくなったから、ファイに美味しいおやつを作って貰おうって思ってファイのところに来てみたんだけど…。
何かな、何なのかな、どうしてなのかな、モコナのお目めおかしくなっちゃたのかな。でもどう見ても……
ファイのお膝で黒鋼がお昼寝してるようにしか見えないのー…

「ファイー、どうして黒鋼がファイのお膝でお昼寝してるのー?」
やっぱり、『気になる事はちゃんと聞かないといけない』って侑子言ってたし、ここはモコナが頑張って聞かないといけないよね!侑子の名にかけて、モコナが頑張る!
「うん、あのねー、夕飯の下準備が終わって手が空いたから、モコナや皆が帰ってきたときのおやつを作ろうと思ったんだけどー、丁度マガニャンを読み終わった黒たんが、『手ぇ空いたんならこっち来い』って言うもんだからねー、何だろうーって思って来たらこうなったのー」

黒鋼……?
どうしたの。そんなの黒鋼らしくないー!ファイに構われて嫌がっていたのは誰なのー!?うっとおしいって追払っていたのは誰だったー!?
本当にどうしちゃったのかな、何処か身体が悪くなっちゃったのかな、何かおかしなものでも食べちゃったのかな、侑子に聞いてみたほうがいいのかな…?
なんてモコナが一生懸命考えていたら、ファイがモコナを呼んだの。
「ごめんねぇーモコナー、デザートは豪華にしてあげるから、おやつはちょっと我慢してくれるー?オレ今動けなくってー」
「え?何で動けないの?」
「うん、ほらー」

そういってファイがモコナを手招きしたの。だからモコナ、近くに寄って見てみたら、そしたら…

『 黒鋼……あざといの……』

黒鋼はね、ファイの腰にがっしりと腕を巻き付けて、ファイを逃がさない様にしてたの…
って言うか、ここまでしているのって、絶対に確信犯でしょー?
なんかここ最近黒鋼のファイを見る目が変わったなーなんて思っていたら…

あれ、 どうしようー、それってファイが物凄く危ないかもしれないんじゃ…!!
これはモコナがファイに教えてあげたほうがいいよね!だってファイってばそういう事にすごく鈍いみたいだから!ここまでされたら普通気付くよ!?
よしっ!
「ファイ!あのね、黒鋼は、」
グイッ
「ぅあ?黒様ー?起きた…あれぇ?」
モコナがファイに本当の事を言おうとしたら…黒鋼が……寝ていたソファーに…
ファイを抱き込んで…また眠りにつこうとしてるのー…
「ちょっ…と、黒りんー?あの、オレ眠くないんだけどー…」
「…うるせぇ、付き合え」
って、ちょ、ちょっと待って!
「こらー!黒鋼!起きてるんでしょー!モコナ解ってるんだよ!いーい!?ファイにこれ以上何かしたら、」
むぐっ
くっ…黒鋼…!
それはちょっと流石にモコナも苦しいの…!お口を、お口をふさがないで〜!!

涙目になったモコナに向かって、黒鋼が視線で語りかけてきたの。
曰く、
『余計な事は一切喋るんじゃねぇ』
…うううぅ、なんだか黒鋼怖いのー。視線で人が殺せるってこういう目の事を言うのかなぁ…
でもでも!
やっぱり駄目なの!
だってファイは皆のお母さんなんだから!黒鋼だけのものじゃあないんだから!独り占めしようとしたって、そうはいかないんだから!
「ファイ!モコナも一緒に寝る!」
「モコナも?うん、いいよー、おいでー」

よしっ!ひとまず作戦成功!これからは黒鋼の行動をちゃんとチェックして、ファイに危険が及ばない様に気をつけなくっちゃ!
大丈夫だからね、ファイ!モコナ、頑張ってファイを守るからね!サクラにも相談して、そうだ、侑子に色々聞いて作戦練らなくちゃ!
きっと侑子なら、いいアイデア考えてくれるかも。対価は何がいいかなあ…
取り敢えず今は二人っきりにさせないことが重要だよね。モコナがここに居れば、流石に黒鋼もファイに手出し出来ないだろうし、もう少ししたら小狼とサクラも帰ってくるだろうし、これから忙しくなるかも…!うふふ、なんだか楽しくなってきたー!そう易々とファイは渡さないんだからね、黒鋼!


「…ふふ、モコナもう寝ちゃったー、何かいい夢見てるのかな?すごく楽しそうな顔してるー。暖かいー」
緩くモコナを抱き締めて微笑みながらまどろむファイを、寝たふりしながらしっかり見ていた黒鋼は、負けるかと言わんばかりにその腕にファイをしっかり抱き込んでいた。そうして暫くしてから、眠りに落ちたファイに口付けをひとつ落とし、誰にともなく呟いた。

「…負けねぇからな」

果たして勝利の行方や何処?






120328(初出090419)
……………………
…なんとも懐かしいです。コピー本からサルベージ。


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