カワイイヒト




言葉は流れ、漂い、そして、





「嘘をつくことについて、ケンジはどう思う?」
唐突に聞かれた言葉の意味を頭の中で正しく理解した後、壁にかけてあるカレンダーの日付を念のため確認してから、ケンジはラブマシーンの顔を下から覗き込んだ。
「侘助さんに何か言われました?」
「……別に、そういうわけじゃない」
ああ、これはまたまんまと騙されたんだなあ、と大変分かりやすいラブマシーンの態度にケンジはやれやれと肩を落とした。
「アナタも毎年毎年律儀に引っかかりますね」
「今年こそは、と思っていたんだが、……どうしても侘助には勝てない」
憮然とした声が余計に彼の無念さを物語っている。
仕方ないだろう。ラブマシーンの生みの親であるあの侘助に彼が勝てるという勝率は極めて低い。それこそ行動原理の根底を作り出した張本人だ。ラブマシーンを騙すことなど赤子の手を捻るよりももっと簡単だろう。
それが分かっているはずなのに、彼は毎年挑み、そして負けている。
「今年はなんて言われて騙されたんですか?」
「……ノーコメントだ」
相当悔しいのか彼の周りの空気が穏やかでない。今回の敗因について一から頭の中で考え直しているのかむっすりとしたままその場から動こうとしないのだ。
そんなところに立ったままでいられたら邪魔でしょうがない(とは言わない)。彼の機嫌を向上させる案を頭の中でいくつか弾き出してから、ケンジは肩にかけたエプロンの紐をしゅるりと取った。
「ラブマシーンさん、いいですか?」
「何だ?」
「アナタのさっきの質問ですが」
「さっきの、」
思考の最中だからか返事がいつもよりワンテンポ遅い。内心で苦笑してケンジは彼の最初の言葉を繰り返した。
「嘘をつくことについて」
「ああ」
「人によりけりだと思いますけどね、嘘なんてそれこそ他愛も無いことから真実味をおびすぎていて洒落にならないものもありますし。一年に一度のお祭りだと思えばそこまで目くじらを立てるものでもないとは思いますが」
そこまで言ってから、ケンジはラブマシーンの手を見た。届かない距離ではないが、でも少しだけ遠い。その手の爪の形を思い出しながら口を開いた。
「ボクだって、嘘をつかなかったことが全く無かったわけじゃありませんから、こんなことを今日言うのはどうかとも思いますけど。嘘をつくのが悪い、良い、なんてことは割とどうでもいいことだと思います。様は受け取る側のアンテナがどう立っているかで差が出るものですから」
それに、
「アナタのための嘘と言えども、アナタはボクが嘘をついてもきっと直ぐに分かってしまうでしょうし、そうなるとボクが今後アナタに対して嘘をつくこと自体が無理でしょうから、困ったものですね」
ラブマシーンの目が驚いた様に目が開かれた。その目を見つめながらケンジは言う。

「ねえ、ラブマシーンさん。アナタは真実だけが欲しいんですか?」

「……そういう聞き方は意地が悪いぞ、ケンジ」
「侘助さんのがうつったかもしれません」
さっきまで見ていたラブマシーンの手がやっとケンジに伸ばされた。顎に親指が触れて、そのまま羽が触れるように二、三度撫でられる。
「嘘はキライじゃない」
「知ってますよ」

それでいいじゃないか、とケンジは笑い、まだ顎の辺りを彷徨っていた彼の親指を軽く噛んでみせたのだった。








………………
120401

…正直者が得する話

 









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