ボクはここで君を待つ




およそ、望むものとはかけ離れたところに、
今自分は立っている







「欲しいなら欲しいって、素直に言わないと何にも手に入りませんよ」
それは、そうだろう。
当たり前の事だと、言えたら良かったのだろうか。全ては今更で、何もかもが自分からは遠い場所にいる。

そんな感覚を今、知ったばかりだ。

「言えば、手に入るのか?」
「さあ、それはどうでしょうね」
「矛盾していないか」
「それはアナタの言い分でしょう?」
「それは、そうだが」
「自分の意見だけを押しつけて、それで相手に理解してもらおうなんて、そんな虫のいい話はありませんよ」

叩きつけるように言う目の前の彼に対して、自分はどんな言葉を尽くせばいいのだろうか。

「最初から考えている」
「・・・・・・」
「それをもう何度繰り返したか、知らない」
「・・・・・・今は、答えられるんですか?」
「分からないんだ」

手を、伸ばす。
触れる寸前の距離で、止めた。その輪郭に触れずに、ただ触れる真似をする。
それでも目の前の彼の視線は揺るがない。

「ワタシに選べるものなんて、初めから決まっていたのだから」

だからきっと答えなんて、あってないようなものだった。

「だから、後はお前が選んでくれ」



最後のカードを、提示する。
それ以上のジョーカーなんてありはしない。

「・・・・・・いつもアナタはそう」

なのに、彼は笑わない。

「ねえ、どうして言葉があるんです?」
「・・・・・・どうして、」
「アナタにとっての言葉とは何です?」
「ワタシにとって?」
「それが分からなければ、これ以上は無理ですよ」
「ケンジ、」

つい、と細い人差し指が自分の口元に向けられた。
触れそうで、でも触れない、そんな距離で。
まるで今の自分と、彼の様に。

「考えて」

「思考を放棄しないで」

「そして、選んで」


「選んだ結果が、お前の考える通りでなかったらどうするんだ?」
負け惜しみの様な科白しか出てこない自分に苛立つ。知らず力の入った両手で握りこんだ拳の中に、答えに繋がるものでもあればよかった。
「そんなこと考えませんよ」
彼は、こんな時でも、いやだからこそ自分よりも一枚も二枚も上手なのだ。
言葉は、それはそれだけで相手と自分を結ぶ。
今、ワタシは彼と繋がれている。
彼の口がゆっくりと紡いだ言葉を、その口の動きを見ながらワタシは聞いた。



「万が一にもそんなことはあり得ないですから、ボクが不安になる事も、ましてや心配するなんて事はないんですよ」







だから、早く堕ちてきなさい、ここまで。








………………
120212

…決定的な一言を言えないラブマシーンと、その言葉が欲しくて言わせたいケンジ君。


 









人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -