時計の針が消えた夜



その日、君はいつもの様に目覚め、
そして気付くだろう







ふと、意識の外で何かに呼ばれた様な気がしてケンジは目を開けた。暗闇の中、部屋はしんと静まり返っている。窓の外はまだ暗いようだ。時間を確認しようかと腕を上げて、しかし途中で下げてしまった。
今が何時でも別に構わない。何せしばらくは休みなのだから。
年末年始の慌ただしさも一段落して、やっと休みが取れたのが(もう日付が変わっているので)昨日の夜からだ。OZの年越しカウントダウンの興奮覚めやらぬ後、全アバターを巻き込んだ巨大すごろく大会の突然の開始に皆驚き、騒ぎ、そして大いに楽しんだことだろう。一緒に年明けを祝った友人たちの顔を思い出してケンジは笑った。
(準備は本当に大変だったけど、あんなに喜んでくれたんだから、それだけの価値はあったな)
その準備を手伝い最後まで共に頑張ってくれたのは、今自分の隣で寝ている人だ。ケンジはラブマシーンをそっと伺う。静かに胸が上下しているのを見て、起きていない事を確認すると、小さく息を吐く。それが思いの外悩ましいものであったので、ケンジは喉に軽く手を当てた。
先ほどまでの目も眩むような熱は今はもう冷めている。あれからへとへとになりながらも何とか家に帰ってきて、寝室にたどり着くと同時に二人揃ってベッドに倒れ込んだ。そのまま寝る事も出来たのだが、覚めない興奮に気が高ぶっていたのはお互い様立ったのだろう。気がつけば相手に向かって自然と手が伸びていた。最中の会話は一切なく、聞こえるのは互いの息づかいだけ。相手を確かめるのに精一杯でそれ以上の言葉はその場に必要無かったし、そんな余裕も無かった。
最近は本当に忙しくて、その忙しさにかまけて欠けていたのだと思う。何がって、彼のことが。
でなければあんなこと自分からはしなかっただろう、と先ほどまでのあれやこれやを働かない思考回路でぼんやり考えながらケンジはシーツを引っ張り上げる。
(ーー何か飲もうかな)
そう思いはするも、今はもう起きあがるのも億劫だ。もう一度寝直そうとケンジはラブマシーンの隣に潜り込む。
小さな鼻をラブマシーンの肌に近付けて、においを嗅ぐ。安心するにおいにケンジはもう一度、今度は伸び上がって首筋に鼻先をくっつけて吸い込んだ。
(・・・・・・ああ、ラブマシーンさんだ)
暗闇に慣れてきたとしても、目を凝らさなくても隣にいるのが彼だと分かって安心する。口の中で笑って、ケンジがシーツにくるまろうとしたら、彼の腕が動いた。
起こしてしまったか、と思ったのだが、どうやら寝返りをうっただけの様だ。こちら側にゴロリと寝転がったラブマシーンをケンジは不思議な思いで見つめる。
(なんだかなあ)
今やOZの管理の一部を任されるまでに成長した彼。そんな彼が、こんな風に無防備な姿をさらすのが自分の前だけだという事実。それが驕りでもなく事実であるということを自分は知っている。
ケンジはラブマシーンの顔に自分の顔を近付けた。彼は寝ていて気付かないだろうから。
あと少しで触れる、という距離まで近付いてケンジは肩を竦めた。
「・・・・・・起きてるでしょ」
問いに答えは返ってこない。けれどケンジは気付いてしまった。
「狸寝入りなんて、どこで覚えてきたんです?」
言いながらラブマシーンの耳を軽く噛むと、降参だ、と笑いながらラブマシーンの目がゆっくりと開かれた。
「何で分かった?」
悪びれずそんな事を言ってくる相手に対して、ケンジはもう一度肩を竦めてみせた。
「愚問ですね」
「・・・・・・違いない」
ラブマシーンの手がケンジの頬に触れた。労るようなそれに、ケンジが微笑む。
「無理を、」
「こんなの無理のうちに入りませんよ」
科白の先をとって、ケンジはラブマシーンに口づけた。軽く唇の触れる音がする。自分の唇をぺろりと舐めてラブマシーンの懐に潜り込んだ。
「ケンジ?」
「ラブマシーンさん」
「何だ」
「今日はとことん寝坊しましょう」
自分の寝床を確保してからケンジはラブマシーンに言った。
「もうこれ以上は寝れないってくらいごろごろしてやるんです」
「それは、誰へのあてつけなんだ?」
「誰でもいいんです。ボクがそうしたいだけだから、アナタはつきあってくれなくてもいいですよ」
きっぱり言い切ってケンジは目を瞑る。ラブマシーンは自分の胸元に触れるケンジの前髪がくすぐったいな、と思いながらケンジの後ろ頭を優しく撫でてやりつつシーツを肩まで引き上げた。
「それこそ愚問だな」
ケンジからの返事はもうない。
ただ笑った気配に気付いて、ラブマシーンは目を閉じた。









………………
120115

…寒中見舞い申し上げます。

 









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