その言葉は、毒







「いらっしゃい、ケンジ君」
「はい、お邪魔します」

ニコニコと笑顔で入ってきた友人を玄関先で迎えたケンジは、どうぞ、と渡された包みを受け取って覗きこんだ。

「あ、大したものじゃないんですが」
「手作りなの?」

はい、と照れながらの返事が返ってきた。

「この前ナツキさんと一緒に二人でドーナツを作ったんです。それで今日はその時を思い出しながら一人で作ってみたんですが、自分で言うのもなんですけど中々うまく出来たので、折角だから持って来ました」
「有難う、早速お茶を淹れるね」

この小さな友人に合わせて用意した小さな黄色のスリッパを出す。歩くとピコピコと音がするそれをラブマシーンはいたく気に入っている。生憎ラブマシーンに合うサイズが無かったので、代わりに、とケンジの為に用意したのだ。
自分の後をピコピコという足音がついてくる。なんだか微笑ましくなってケンジは笑うのを必死で堪えていた。

「そういえば、今日はケンジ君一人なの?カズマさんは、」
「ああ、カズマさんならお別れしましたので」

さらりと何でもないように返ってきた言葉にケンジの足が止まった。聞き返さないといけないような気がする。が、それは果てしなく難しい事にも思う事態にケンジの思考は停止してしまった。
どうしよう、とその事だけが頭を駆け巡る。いや、違う意味かもしれない。だけど聞けない。聞きたくない。聞く勇気が無い。
ケンジが次に続く言葉を必死で探していると、いつの間にか隣に立っていた友人がにんまりと笑った。

「……ケンジさん、今日は何日でしょう?」
「…………え?」

ギギギ、と音がしそうなくらい鈍い動きで壁に掛けてあるカレンダーに目を向けて、そしてケンジは思い切り肩を落とした。

「……ケンジ君、心臓に悪いよ」

恨みがましい視線を友人に向けると、からりとした笑顔が返ってきた。

「ケンジさんも引っかかるとは思いませんでした」

気になる一文字を拾ったケンジは思わず聞き返した。

「……『も』?」

「ええ、ここに来る前にカズマさんが家に来まして、それで、」

「まさか、」

言ったのか、とケンジが尋ねる前に友人の声が朗らかに響いた。

「文字通り石になってましたねー。いやあ、あんなキングカズマ見た事無いですから、写真でも撮ってやろうかと思いましたよー」

笑顔だ。だがだからこそ、それが今は余計に怖い。

(……カズマさん、また何をやったんだろう……)

だがそれは聞くのも考えるのも野暮だろう、とケンジは首を振った。

「ケンジさん、これどこに置きます?」

いつの間にか自分の手から離れていた紙袋を持ったケンジがキッチンの方へ進んでいく。ピコピコと足元から響く音が、今この場において酷く場違いだった。
ケンジはラブマシーン経由で後で連絡を入れてもらおう、とこの場に居ない友人の現状からそっと視線を逸らして重い足を動かした。







……………
110406
エイプリルフールに間に合わなかったので、悔しくてこっちにいれてみました。
いえ、当初はちゃんとラブラブだった気がしないでもない。













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