「……これで、後は待つだけですよ」
「そうか」
「上手くいくといいですね」
「そうだな、有難う、ケンジ。カズマにも今度礼をしに行かないといけないな」
「ふふ、いいんですよ。お手伝い出来るの、嬉しいですから」
「本当に助かった」
「喜んで貰えるといいですね」
「……ああ」

ゆっくりと閉じられた瞳の奥には、きっと彼が笑っている顔が浮かんでいるのだろう。
その姿を想像して、ケンジはほっこりと胸が温かくなったのだ。





Love and thou shall be loved.






『おーし、後はこれだけだ』
「あれ、そうなんですか?」
『おう。どうした?』
「いえ、随分早かったな、と思って」
『俺の本気を嘗めんなよ?』
以外だ、という顔でケンジが見てくるので、侘助はワザとらしく胸を張って答える。
「いつもそれくらい本気を出してくれると有難いんですけどね……」
しっかりと小言も忘れない辺り、コイツもいい性格だと思う。
『何だー、ケンジ。言いたい事があるならハッキリとだな、』
「はいはい、何でもありません。お疲れ様でした。今日くらいはゆっくりと休んで下さい」
『今日くらいは、ってお前』
「ここ最近ずっと根を詰めていたでしょう。たまには息抜きしないと、それでなくても侘助さんは自分をあんまり顧みないんですから」
そのくせ、こうして温かい声もかけてくるのだから、全く頭が上がらない。
『……優しいねえ』
思ったより実感の籠った声が出た事に、侘助自身が苦笑いした。
「たまにはですよ。それじゃあ、ボクも帰ります」
『おお、ラブマシーンによろしくな』
「?ラブマシーンさんは、今日は?」
『今日は休みだぞ』
「そうなんですか?あれ、昨日そんなこと言ってたかな……」
『忘れてたんじゃないか?』
「そうですか、ね」
『ほら、早く帰れ』
「はい、それじゃ、また明日」
『おう』



ケンジが帰ったのを確認してから、侘助は通信を繋げた。
「……おう、ケンジは今帰ったぞ。そっちの首尾はどうだ?」
(上々だ。さっき完了したところだ。有難う、侘助。感謝する)
「いいってことよ。……喜んでもらえるといいな」
(ああ。それじゃあ)
「おお、じゃあな」
短い通信が終わって、侘助は音を立てながら肩を回した。
「……って、イテテ。ああ、俺も歳かな……」
何を言ってるんですか、という彼の声が聞こえた気がして、侘助は頭を掻いた。





「ただいま帰りました」
ケンジが家に帰って扉を開けながら帰宅の挨拶をすると、普段なら直ぐに返ってくるラブマシーンの声が聞こえて来なかった。
自分が先に帰っている時の方が多いので、こうして自分が迎えてもらえる立場になるのは実は珍しい。今回は久しぶりの逆の立場になるのでそれが少しばかり嬉しかったケンジは、返って来ない返事に逆に不安になった。
「ラブマシーンさん?寝てるんですか?」
廊下を歩きながら声をかけても何も返って来ない。不安がどんどん膨らんで自然足も速足になる。取り敢えずラブマシーンの部屋に向かおうと足先を向けたその時だった。
「ケンジ」
「ラ、ラブマシーンさん!」
自分を呼ぶラブマシーンの声が聞こえて、ケンジは声を上げた。
「どこです?どこにいるんですか?」
「こっちだ、リビングにいる」
「分かりました」
声のする方、リビングに急いで向ったケンジは、目の前に見えたリビングの扉へ飛びつく様に手をつく。そして開いた先に映った光景を見て、ケンジは息を飲んだ。
「お帰り、ケンジ」
ラブマシーンが出迎えてくれてケンジの手を取る。ケンジはラブマシーンの手に触れて、やっと安心出来た。さっきまで胸に渦巻いていた不安がするすると小さくなっていく。細く息を吐いてからラブマシーンを見た。
「ケンジ?大丈夫か?」
ケンジの様子に気付いたラブマシーンがケンジに声を掛けるが、ケンジは首を横に振って大丈夫だ、と示した。
「なんでもないんです。あの、それで、これは」
ケンジがラブマシーンに尋ねると、ラブマシーンは照れた様に笑いながらケンジの背を優しく押した。
「去年は、ケンジにちゃんとお祝い出来なかったから、今年こそはケンジを驚かせようと思って頑張ってみたんだ」
「頑張ったって、これ、全部」
二人が使うリビングのテーブルの上には、たくさんの料理がところ狭しと並べられている。よく見るとどれも自分の好物ばかりだ。そしてその料理の真ん中に一際大きく、目を引く様においてあるのは、
「バースディケーキ……」
「ちょっと歪んでしまったが、ちゃんと名前も書いたんだ」
ラブマシーンの言った通り、ケーキの真ん中に乗せてあるチョコのプレートには、『ケンジ たんじょうびおめでとう』の文字がしっかりと書いてある。
「……こんなにたくさん、大変だったでしょう?」
「いや実は、ケンジと、カズマの二人にも手伝って貰ったんだ。二人とも快く引き受けてくれてな。ケンジの為に、と。勿論私も頑張ったぞ」
自慢するように胸を張るラブマシーンの姿をケンジは見上げた。その姿がぼんやりと霞んで見えるのは、気のせいだ、きっと。
(だって、こんなに嬉しくて、)
声も出ない程の嬉しさなんて、初めてだったのだ。
「……喜んで貰えただろうか」
ラブマシーンの優しい声にケンジはただ頷いて、大きな彼の手をぎゅっと握った。
「ケンジ、誕生日おめでとう」
ケンジの視線に合わせて屈んだラブマシーンが、そう言ってケンジを抱き締めるものだから、ケンジは負けないくらい強くラブマシーンを抱き締めてから、やっと声を出した。

「ありがとう、ございます……!」

涙で濡れた声は聞きとり辛かったかもしれないが、ラブマシーンはケンジを抱き締めながら心から嬉しそうに笑ったのだ。






……
20110602
超滑り込みでした。
私が大尊敬な御方に送り付けた小話でした。
お誕生日おめでとうございます!!!














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