隣る





それは日常

それが然るべき姿である








肩がぶつかった。

「あ、」

思わず、といった風に漏れた小さい声が聞こえてそちらに視線を向けると、いつの間にか横に座っていたケンジが自分を見上げていた。

「ちょっと余所見してたら、……すみません、作業続けて下さい」

さっと立ち上がったケンジが自分から離れていこうとしたので、ラブマシーンはその手を咄嗟に掴んだ。

「ケンジ」

「どうしました?」

自分は座っていて、ケンジは立っている。その為普段よりも近付いた視線の高さにラブマシーンが新鮮だ、と考えていると、焦れたケンジの声が自分を呼んだ。

「ラブマシーンさん、離して下さい」

ボク、あと少しで終わりますから

掴まれている方のケンジの手が自分の手から引き抜かれようとしているのを、ぼんやりとラブマシーンは眺めていた。

「ラブマシーンさん、少し手の力を……」

「ケンジ」

緩めてくれ、と言いたかったケンジの声を遮ってラブマシーンが呼ぶ。
何だ、と視線で返すと、ラブマシーンがケンジの目をひたりと見詰めていた。

「さっき、ぶつかったな」

「ええ、そうですね」

「ケンジの作業場はあちらだ」

「そうですよ」

「ワタシは今日仕事を始めてから、ここを動いていない」

「……はい」

「なあ、ケンジ」

次に来るだろうラブマシーンの言葉を読んで、ケンジは小さく溜息を吐く。
今回ばかりは自分の方が分が悪い事は明白だった。

「なあ、ケンジ。休憩しないか」

「……ボクが断る事、考えてないでしょう」

「断るか?」

「いいえ、まさか」

楽しそうに細められるラブマシーンの瞳と、試す様な声にケンジははっきりと答えた。その言葉に満足そうにラブマシーンが笑うので、ケンジは顔を逸らす。
掴まれたままの腕が引かれて、頬に触れる手のひらの感触に心が解けていく。

「……ここで?」

「さあ?ケンジ次第だ」

ずるい返答に言葉を返さず、ケンジは手を伸ばした。







………………
110406

…つまり、離れているのが寂しくて近づいたにも関わらず気付いてもらえないから自分からぶつかりにいくというケンジ君だった訳です。そういうラブケンです。


 









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