真似っこ





これからお話しするのはある日の何でもない日常の中で、
ふと見付けてしまったアナタの行動についてのボクの所見であります。






(コレ!見たい!)
そう言ってラブマシーンが背伸びをしながらケンジに差し出してきたのは何かのデータが入ったファイルの様だった。
「これ?何ですか?」
(侘助にもらった!)
キラキラと目を輝かせて言うその内容に、ケンジは首を傾げながらラブマシーンに尋ねた。
「侘助さんから?…一体中身は何ですか?」
(赤ちゃん!)
「…………………は?」
ラブマシーンのふきだしに浮いた言葉が一瞬信じられなくて、たっぷり十秒程固まった後、ケンジは辛うじて掠れた声を出した。が、その後に続くラブマシーンのふきだしに今度はケンジの目は点になった。

(動物の、赤ちゃん!)


侘助から貰った、というその映像をラブマシーンは飽きる事なく噛り付いて見ていた。映像機から映し出される可愛らしい動物の子どもたちの映像は、見ていてとても心が和む。母親の後をくっついて歩くカルガモの子どもの姿にケンジもつい一緒になって観賞してしまった。
暫くしてから、そろそろおやつの時間にしよう、そう思ったケンジは真剣なラブマシーンの邪魔をしないようにそっと隣から抜け出してキッチンに向かった。
「(今日は、昨日ケンジ君からもらったクッキーにしようかな)」
音をたてない様に準備をしながらラブマシーンの様子をそっと窺う。今ラブマシーンが見ているのは、子猿の映像だった。くるくるとした目をぱちりと開いてこちらを覗きこんでいる。立体映像だからか、まるでそこにいるかの様に感じてしまうその映像にラブマシーンは嬉しそうに手を叩いていた。
「(ああしていると、本当にまだ子どもなんですね)」
その姿がとても微笑ましくてつい声をかける事を忘れてラブマシーンの動きを目で追ってしまった。
「(だけど…どうして侘助さん、こんなの持っていたんだろう…………やめよう。あんまり考えたくない)」
瞬間頭に浮かんだ疑問については深く考えない事にして、ケンジはそろそろラブマシーンに声をかけようと顔を向けた。すると、目に飛び込んできたのは、

「(………っ!!!!)」

映し出されている映像は先ほど見ていた子猿のままだ。どうやらその子猿の映像が気に入ったラブマシーンは、自分でもう一度巻き戻して再生していたらしい。だが注目すべきはそこではない。ケンジの視界を釘付けにしたのはラブマシーンの動きだった。映像の子猿が首を右に傾げれば、ラブマシーンも右に。子猿が左に傾ければラブマシーンも左に。こてり、こてりと子猿の動きに合わせてラブマシーンも同じ様に首を左右に傾けているのだ。その動きの可愛さったらない。ケンジは叫びそうになる声を必死で押さえてラブマシーンを見詰めた。
「(や…っばい、これ可愛いってもんじゃない…!)」
慌ててケンジは自身の録画機能を起動させた。この間僅か0.5秒である。そのままラブマシーンの動きを追っていると、今度は子猿が立ち上がって跳ねながらくるくると回り始めた。するとラブマシーンもその場を立ち上がって真似をするようにくるくると回りだすではないか。もうケンジに声は出なかった。悶絶したままただひたすら録画再生に努めるだけで精一杯だった。そしてそれはラブマシーンがケンジに気付いて振り返るまでずっと続けられたのである。






――――――後日。
「…という事があった訳でして、これがその時の映像を録画したファイルです」
『言い値で買おう』

そんな大人なやりとりがあったとか、なかったとか真相は定かではない。




………………
110206

…最後の『言い値で〜』は侘助さんのセリフです。
まあ、そんな子ラブマ可愛いね!という私の勢いが原稿の最中に盛り上がってどうしようもなくなって…うん、はい、原稿がんばります。

 









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