コタツとミカンとアナタとワタシ





確かに同意した様な覚えはある。
覚えはあるが、だからと言ってそれが直ぐにこういう事態に直結するだなんてどうして考えがつくだろうか。

「…ケンジ、これは」
「ラブマシーンさん、ボクちょっと今から戻って、侘助さんの所に行って来ますね」

若干笑顔が引き攣っていたのは隠せなかったと思うが、致し方ない事だろうと割り切った。こういう時の自分の切り替えの早さは褒められるべきではないかと常々思うケンジだ。






『いやな、この前話しただろ?覚えてるか?実家に戻った時に出てた炬燵の話。当たり前だけど冬だし。あそこらへん阿呆みたいに寒くなるから。必需品な訳よ。しかも掘り炬燵。掘り炬燵だよ、珍しいだろう?一度入ると出られなくなるんだよなあ、炬燵って。懐かしさも相まってあんまり俺がそこから動かないもんだから夏希に何度も怒られたりしたわ。…話がそれたな。いやまあそれでな。帰る頃にはすっかり欲しくなっちゃってな、炬燵。でも掘り炬燵なんて早々に作れるもんでもないし。まさか家の床にいきなり穴あける訳にもいかないだろ?で、このまま何にもしないのも悔しいし、もっと手っ取り早く作れないもんかって考えた結果、ならお前たちの家に作ってやろうかな、という結論に至った、とこういう訳だ』
「確かにボクは先日同意しましたよアナタの話を聞いて炬燵はとても素晴らしいと思いましたよ思いましたけどねボクが聞きたいのはそう言う事ではなくいえまあ粗方予想通りの結果だったので再確認の必要も無かった事実を今改めて聞いた事に関してボクの時間は無駄になったのかそうでもないのかそもそもどうしてアナタはいつも留めるって事をしないで直ぐ様思考と行動を直結させて実行に移すんですか阿呆ですか馬鹿と天才は紙一重って言いますけど本当ですねいい加減に程度ってものを覚えて下さい子どもですか子どもなんですかでも子どもでもこんな阿呆なことしないと思いますけどアナタどう思いますか」
侘助の言葉に対してノンブレスで言い切ったケンジの視線は冷たかった。
『…お前、最近俺に対してのオブラートってもんが崩壊してるぞ』
「アナタ相手に何がオブラートですか。要りませんよそんなの」
『………』
「はい。で、アナタの言い分は分かりましたが、あれはどうしてくれるんですか」
『あれって、炬燵?要らないか?』
「いえ、あの人は要るって言って喜ぶとは思いますよ」
『…じゃあ、何で俺は今お前に怒られてんだ』
「いつも言っているでしょう?まずは相談して下さいって。何でボクらの意見も聞かずにアナタはさっさと決めちゃって!ちゃっちゃと行動に移しちゃうんですか!」
『…お前は俺の母親か』
「アナタの母親なんで、栄さん以外に務まる訳ないでしょう」
呆れたように溜息を吐くケンジに侘助は頭を掻いた。
『お前のそういう所が俺は好きだよ』
「アナタに好かれてもあんまり嬉しくないですね」
『お前なあ…』
「まあ、もういいですよ。出来ちゃったものはしょうがないですし。あの炬燵はボクらで有効活用させて頂きます」
『おー、使え使え。あったかいぞー』
「…アナタも一緒に使えたら良かったのに」
ポツリと呟いたケンジの言葉に侘助の動きが止まる。
『俺、愛されてんなあ』
しみじみと言う侘助の言葉にケンジは何馬鹿の事言ってるんです、とぼやきながらも、その頬が染まっていたのは隠しきれない事実であった。





「ケンジ、お帰り。侘助はなんて?」
「侘助さんから、ボクらにプレゼントだそうですよ」
「では、これは使っていいのか?」
「どうぞ、使ってやって下さい」
ケンジの言葉に嬉しそうにラブマシーンが炬燵に向かう。まあ、結局珍しいもの好きのラブマシーンが喜ぶ事は明白であったからこの事態は当然だったのだが、それでもやっぱり言っておくべき事は言っておかないとならない。特に侘助はどうにも『面白ければそれでいい』的な考えがあるので、見ているこちら側としてはちゃんと本人に釘をさしておかないと周囲に弊害が及ぶ。それは避けねばならないと思うし、何より自分をここに留める手助けをしてくれた恩人がより良く彼の好きな研究を進められるようになるのならば、本人に多少の我慢は致し方ない事だと思うのだ(その我慢の臨界点が突破した際にその矛先が向けられるのはいつも自分たちだが)。そしてそれを言えるのは何故か今の所自分と、あと彼の姪の夏希だけなのだ。
「こんな事に気を揉むのって、どうなんでしょうね…」
なんとなくぼやいてみたケンジの声が聞こえたのかラブマシーンがこちらを窺ってケンジを呼んだ。
「ケンジ、あたたかいぞ。入ってみないか?」
ラブマシーンの身体でも入って余裕のある作りにしているのは流石に生みの親という所だろうか。こんもりとした布団の中にラブマシーンがちょこんと入っている姿はこう言っては何だが、とても、
「…可愛いらしいですね」
「ケンジ?」
「何でもありません」
ケンジはラブマシーンに気付かれない様に笑いながらキッチンに向かった。
「ケンジ?どうした?」
「いえ、確かこの前ケンジ君から貰ったと思った…ああ、ありました」
籠にこんもりと盛ってケンジが持ってきたそれは、
「…ミカン?」
少し小振りな橙色のミカンだった。
「この前ケンジ君から貰ったんです。なんでもカズマさん関連の何かのキャンペーンの景品だったとか何とか。とにかくたくさんあるので貰ってくれと言われて。ケンジ君がこの間苦労して持って来てくれたんですよ」
とても甘くて美味しいらしいですよ、とケンジは笑った。炬燵の上に籠を置いてケンジも炬燵の中に入ろうとした、その時、
「ケンジ、そこじゃない」
「え?」
ラブマシーンに止められたのだ。入ろうとしたのはラブマシーンの対面になる場所だった。横より正面でラブマシーンの顔が見れた方がいいと思ったのだが、何かいけなかっただろうか。言われた通りにそこに入るのを止めて、今度は真横に入ろうとした。だが、
「そこも違う」
と、ラブマシーンが首を横に振る。
「えっと、じゃあどこに」
困ったケンジが尋ねるとラブマシーンが手招いた。素直にラブマシーンに近付くと、ケンジの身体はラブマシーンの手に掴まれてあっという間に引き寄せられた。
「わわっ!?」
ポスンと納まった場所を確認してケンジは顔が赤くなった。ケンジはラブマシーンの膝の上、いつもの定位置に納まっていたのだ。
「ちょ、ちょっと、ラブマシーンさん、離して、」
「駄目だ」
「なんでここじゃないと駄目なんです?」
いつもの事だが、何故だか妙に気恥かしい。座る場所が狭くなるから離して、と言おうとしたケンジはラブマシーンの言葉を聞いて失敗したと思った。
「ワタシが、ケンジの一番近くにいたいからだ」
駄々をこねるような子どもの言い分を言う。背中にまわっている手がケンジの肩甲骨辺りを擦った。
「…ひゃっ」
「それに、」
ラブマシーンの手から逃れようとケンジが身動きする前に、その動きを止めるようにラブマシーンがケンジに触れる。

「遠いと悪戯が出来ない」

とまるで悪戯が成功した子どもの顔で笑うので、ケンジは降参とばかりに天井を仰いだのだった。






………………
110323

…コタツでラブケン!頑張って甘くしてみましたが、いかがでしょうか?

よーそろー特急便 の輔さんと、同じお題でラブケン企画!の産物でした。
寒い、となると、こたつ!しか浮かばない自分の頭の中の寂しさに切なくなったいい思い出……。
輔さんのラブケンを読んでほんわかして下さい〜


 










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