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ヨウコソ、ヨウコソ!
ココハ『OZ』ノセカイデス
アナタノナマエヲニュウリョクシテクダサイ
ゴアンナイハ、ヒツヨウデスカ?







ケンジは悩んでいた。こんなに悩むのはラブマシーンが侘助の作った対クラッカー用防御プログラムをうっかり解除した上、制御用プログラムまで書き換えてしまった時以来(あの時は侘助に気付かれない様に元に戻すまで生きた心地がしなかった)、久しぶりにとてもとても悩んでいた。
『ケンジ、終わったか?……おお、様になっているじゃないか』
いつもの侘助の声を聞いてもケンジの悩みは晴れない。
『ケンジ、どうした?』
侘助の呼びかけにケンジは重い口を開いた。
「…こういう格好する意味ってあるんですか?」
『まあ、先ずは視覚情報からな。分かりやすいだろう?その格好してりゃ一発でサポーター役だって事を言葉で伝えるより先に相手が理解出来る』
「まあ、それはそうですけど…」
侘助の言い分はもっともだ。初めてOZに来たアバター達を効率よく、より分かりやすく案内するにはまず自分たち案内する側が一番見えるところから彼らを先導した方が早い。それは分かるのだが。
『何だ?何が不満だよ?』
「いえ、不満って訳じゃないんですが、」
『何だ。歯切れ悪いな』
「…ボク、こういう格好したことないので」
そう、ケンジの今一番の悩みは自らの格好の事だ。黒の折り目の付いたパンツに、白いベストとネクタイ。手袋と帽子までかぶったキッチリとしたその姿は傍から見れば案内役としては確かに相応しいのだろう。だがどうにも慣れない。なんせこんな格好をするのは初めての事なのだ。
『ああ、健二君はこういう事に無頓着っぽいからなあ』
「マスターは無頓着って訳じゃないんですよ。そこまで頭が回らないだけで」
『それがフォローになってないって事は突っ込まないでおくよ』
「………」
『で?お前がそこまで渋る理由は?』
「……似合わないと、」
『は?』
「似合わないと、思うんですよ。ボクにはこういう格好、向かないと思うんです」
『ふうん?お前がそういう事言うとはなあ』
「何です」
『いや、意外って言うか。可愛いとこあるじゃないかって言うか?』
「何、言ってるんですか」
『俺は事実を言ってるまでよ。まあ、似会うか似合わないかはアイツの意見を聞いてみればいいだろ』
「アイツって、」
ケンジの科白の先は後で開いた扉の音に遮られた。

「ケンジ、準備出来たぞ。侘助、そちらの状況はどうだ?」

入って来たのはラブマシーンだった。ケンジは振り返って確認したラブマシーンの格好に小さく息を飲む。
『おー、もうあらかた済んだ。後はお前たちにサポート様のシンクロプログラムを渡して完了だな』
「そうか、早かったな」
『…お前なあ、誰に言ってる?』
「侘助だ」
『…いや、まあいいわ。分かった。…ほれ、ケンジ今出すから受け取れ……って、おい、ケンジ?』
「ケンジ?大丈夫か?」
「…は、」
「大丈夫か?何かぼーっとしているようだが」
心配げなラブマシーンの声がケンジの耳に届き、その内容を理解すると同時にケンジは思い切り首を横に振った。
「いいいいいいいえ!大丈夫!至って元気!大丈夫です!」
「ケンジ?」
ちっとも大丈夫そうに見えないケンジの様子にラブマシーンの顔が曇る。
「侘助、少し時間を貰ってもいいか?」
『おー、まだ時間はあるからな。いいぞ』
「すまない」
「え、あのラブマシーンさん」
ケンジがラブマシーンを見上げるのと、ラブマシーンがケンジの身体を抱き上げるのは同時だった。
「え!?ラ、ラブマシーン、さん!」
「ケンジ、少し休もう。朝からずっとケンジは侘助のサポートをしていたから疲れているだろう?」
そう言ってそのままラブマシーンが歩き出すものだから、ケンジは慌ててその足を止めようと声を上げた。
「ち、違います!ラブマシーンさん、ボク疲れてなんていないですから…っ!」
「しかし、顔が赤い」
「いえ、これはそもそもそういう理由でこうなっている訳ではなくて、あの何て言えばいいのか、つまりは、その、」
何を言っても墓穴を掘る自信はある。あるが、だからといってこのままでも良い訳ではない。それが分かっているからケンジはこの後どう切り抜けようか考えようとしていた。だが、
「ケンジ」
「………〜〜っ」
心から自分を心配してくれている彼に対して、このまま何も言わないでいるのは卑怯ではないか、とケンジは腹を括った。
「似合うって!」
「ケンジ?」
いきなり叫んだケンジの声に驚いてラブマシーンはケンジの顔を見ようと正面で向かい合うように抱き直した。
「ケンジ、どうした」
「…だから、その理由です」
「理由?」
「…アナタのその格好が、とても似合っていると、そう思ったから、…その、とても素敵だと、思ったんです。だから、…だから、」
ケンジと同じ様にラブマシーンも着替えていた。自分と似通った格好でもタイプが違う者が着るとまるで違った様に見える。白いYシャツをキッチリと着こなしてネクタイを締めたその姿は普段のラブマシーンとはまた雰囲気がガラリと変わってとても格好よく見えた。そう思った事が何だかとても恥ずかしくなったのだ、と小さい声でケンジがラブマシーンに伝えると、ラブマシーンのケンジを抱える手の力が強くなった。
「それはワタシも同じ事だ」
「え?」
恥ずかしくて俯いていたケンジの耳が拾ったラブマシーンの声がいつもよりももっと優しく感じて、ケンジはラブマシーンの顔を見ようと顔を上げる。見上げた先の鼻が触れる様な至近距離で、ラブマシーンが自分を見て笑っていた。

「ケンジ、似合っている」

目を細めて言われた言葉をケンジが正しく理解した時、一瞬にして瞬間湯沸かし器と化したケンジの顔の熱はそれから暫く冷めなかった。








ルミネッセンス

110126

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…原稿そっちのけで何をしているのかと思い出したのは書き終わってからでした…

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