朝顔と浴衣





赤、紫、藍、青、
さあ、どの色を選ぶ?



「…どうしたんですか?それ」
「侘助に頼んだ」
「いえ、そうではなくて」
ケンジの目の前にいるラブマシーンがその手に持っているものを見て、ケンジは零れそうになった溜息を飲みこんでラブマシーンを見上げた。
ラブマシーンの手にあるもの。それは、
「…どうして、浴衣なんです?」
白地に藍色の朝顔が鮮やかに咲いている。夏の風物詩の一つとして挙げられるその浴衣をラブマシーンはケンジに差し出したのだ。しかも女物。最早何からコメントしたらいいのかケンジは途方に暮れた。
「今度、OZで祭りがあるだろう?」
「ええ、今回が初めての試みだとかで、随分賑やかですよね」
「それで、侘助に頼んだのだ」
「…いえ、だからどうして、」
「ケンジに着て貰いたいと思ったからだ」
単刀直入。
とてもとても分かりやすい理由を告げたラブマシーンにケンジの頬は赤く染まった。
「………何故、とか、理由を聞いてもいいですか?」
「理由が必要なのか?」
「それは、…そうですよ。理由も無しに、ボクは着ません」
ケンジの言葉にラブマシーンが一瞬黙り、そうして考える様に手元にある浴衣を見てから、改めてケンジを見詰めた。
「侘助に聞いた話なのだが、侘助にとって一番大切な人が普段から着物を好んで着ていたのだそうだ。毎年夏になると、朝顔柄の浴衣を着て、侘助を連れて祭りに連れていってくれたのだと聞いた。その話を聞いて、ワタシもケンジに浴衣を着て貰いたい。一緒に祭りに行って欲しい、と思った。それで侘助に頼んで作ってもらったのだ」
ラブマシーンはもう一度ケンジの目の前に浴衣を差し出した。そうして黙ったままのケンジの名を呼んだ。
「ケンジ、」
俯いていたケンジの顔が上がる。染まったままの頬の色がきれいだとラブマシーンは思った。

「ワタシはお前が一番大切だ。だから、これをお前に着て欲しいと願う」

どこまでも真っ直ぐなラブマシーンが告げたその理由を前に、ケンジがこれ以上拒否する事は不可能だった。
「…分かりました」
嬉しそうなラブマシーンの顔に、ちょっとだけ悔しく思ったケンジは、けれど、と続けて言った。
「ラブマシーンさんも、ですよ。アナタも浴衣を着て下さいね」
「ワタシも、か?」
「そうですよ、ボクばっかりじゃずるいじゃないですか。不公平です。ボクだって、」
これから先を言うのは非常に羞恥心があったのだが、たまには、本当にたまには素直に自分の考えを言ってみようと、ケンジは思い切って口を開いた。

「…ボクだって、アナタを一番大切に思っているのですから」

ラブマシーンの手にある浴衣にそっと触れて、ケンジはラブマシーンを見上げた。驚いた様に開いた瞳が、次にはゆっくりと細められてひどく優しい色を滲ませる。今更ながら自分の先程の発言に、穴があったら入り込んで埋まりたい、と後悔をし始めていたケンジだったが、ラブマシーンの瞳を見ているうちに、なんだかそんな事を考える自分が小さく思えて溜息を吐いた。
「ケンジ?どうした?」
「いいえ、自分が情けないと思っただけです」
こんな風にもっと自分に素直になれたらいいのに、臆病な自分はいつも最後には戸惑ってその先が言えなくなってしまう。そんな自分とは反対に思った事を素直に表現出来るラブマシーンがどれだけ羨ましく、そして、
「アナタの事が、」

ただ、愛おしいと、告げる事が、

「どうして、困難なのでしょうかね」

眉を下げて笑った自分にラブマシーンがどう思ったのか、ケンジには分からない。ただ、次の瞬間にはケンジの身体はラブマシーンの腕の中にいて、抱き締められていた。
こんな時ばかり何も言わないラブマシーンに、ケンジがラブマシーンの腕にそっと手を伸ばしながらぽつりと呟いた。

「ラブマシーンさんの浴衣、ボクが作ってもいいですか?」

返事の代わりに強くなった腕の力に、ケンジは小さく微笑んだ。










………………
100905

…こちらも同じく夏コミ配布のペーパーから。
やっぱりラブケンに落ち着きます。

 









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