grace.






膨大な量の情報の渦を、その指をついと動かし指し示すだけで、それらは彼の指揮下に置かれてしまう。
まるで音楽を指揮するコンダクターの様に彼の仕事はリズムを奏でる様に鮮やかだ。

『どうだ?あいつの仕事ぶりは』

声を掛けられて慌てて頭を振る。あまりに真剣に見詰めてしまっていた事を、きっと侘助は気付いているのだろう。

「とても素晴らしいと思います」

何でもないように声を出すが、少し上ずった自分の声にケンジは僅かに眉を顰めた。

『なんだ?もっと素直に思った事を言っていいんだぜ?』

明らかな冷やかしの言葉に、だがケンジは取り澄ました顔で答える。

「そんなの今更ですよ、誰に言っているんです?」

目を閉じれば、彼の奏でる音楽が聞こえてくるようだ。

「見なくてもいいんです」

微かに侘助が笑う声がする。



「聞こえているから」



それは彼だけの、



「あの人の、音ですから」










 
……………
どこでも聞こえますから







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