'S WONDERFUL それってとっても素晴らしいことだって、 そう思いません? こんにちは、ケンジです。 今日はケンジさんに本をお返しするためお二人のお家にお邪魔しています。ラブマシーンさんは侘助さんに呼ばれてお部屋でお話していますので、今はケンジさんとボクとの二人だけです。 お互いにのんびりと本を読んでいたのですが、暫くしてボクのお腹がきゅうと小さく鳴りました。慌てて顔を上げて時計を見ると、お昼に近い時間になっていることに気付きました。 (…あ、そろそろマスターがログインしてくる時間でしょうか) 呼ばれたら直ぐに動けるようにと、手に持っていた本を閉じて、お暇しようとケンジさんに顔を向けましたら、 (………寝てしまっていたのですね…) 振り返った先のソファーには、クッションに埋もれるように静かに寝息をたてているケンジさんがいました。 (どうしましょう、何かかけるものがあれば…) そう思ったボクは、そっと立ち上がりケンジさんが起きないように細心の注意を払ってゆっくりゆっくり歩き出しました。 (確かこちらに以前お借りした毛布が…) 入口のすぐ隣にある棚の扉に手をかけて開けようとした丁度その時、軽く扉が開く音が聞こえました。見覚えのある足元に頭を上に持ち上げると、ラブマシーンさんが立っていました。どうやら侘助さんとのお話は終わったようです。 「…ケンジ…?」 「ラブマシーンさん、ケンジさんはお休み中です」 「ケンジ、」 部屋に入って直ぐにケンジさんを探したラブマシーンさんは、足元にいたボクに気付くのが遅れた様で、少しだけ驚いた後にボクの名前を呼んで目線を合わせるように屈んで下さいました。 「…それをかけようとしてくれたんだな」 ボクの手にある毛布を見て、ラブマシーンさんはボクにお礼の言葉をくれたのです。 「ありがとう」 「いいえ、実はボクも以前にこの毛布にはお世話になっていましたので、」 とそこまで言ったボクは、ふとラブマシーンさんの目線がボクの手元の毛布から離れていない事に気付きました。 (あ、そうですよね) きっとそうだろうと思った事をボクは実行に移す事にしました。 「あの、ラブマシーンさん、」 「なんだ?」 「これ、ケンジさんにかけてあげて下さいませんか。ボクの身長じゃちょっと届かないので」 ボクの言葉にラブマシーンさんの手がゆっくりと毛布に伸びました。 「引き受けよう」 「ありがとうございます」 そのまま音を立てずに立ち上がったラブマシーンさんは、静かに横たわるケンジさんの元へ向かいました。ソファーの前で一度立ち止まった後、ケンジさんの様子を眺めて、そのままケンジさんに優しく毛布をかけました。 その時、ラブマシーンさんの手でそっと包み込むようにかけられた毛布の中で、ケンジさんの口元が少しだけ緩むのが見えました。そうしたら、本当に小さい声だったのですけど、 「…ラブマシー…ン、さん」 ケンジさんがラブマシーンさんの名前を呼ぶ声が聞こえてきたのです。 (…うわあ、なんだか、) すごくくすぐったい場面に遭遇してしまった気分で、ボクは少し赤くなったほっぺに手を置いたままそっと隣のラブマシーンさんの様子を窺いました。 そこには、 (…結構、分かりやすいんですね) 愛しいって、想いをそのままに表したような瞳でケンジさんを見詰めるラブマシーンさんがいたものですから、その視線とお二人の間の雰囲気にさっきまで減っていた筈のボクのお腹は、なんだかいっぱいになってしまいました。 (お二人のお邪魔をしては悪いですね) そう考えたボクはそっと傍から離れようとしたのですが、ラブマシーンさんがボクに気付いて小さく声をかけてくれました。 「ケンジ、帰るのか?」 「はい、そろそろボクもマスターに呼ばれるかもしれない時間なので、」 「そうか、また来てくれ」 「ええ、是非、お邪魔させていただきます」 「ああ、気をつけて」 そのままお別れの挨拶をしたのですが、最後にこれだけは言っておかないと、と思い出した言葉があったので、ボクはラブマシーンさんにお辞儀をしながら言い添えました。 「ラブマシーンさん、」 「なんだ?」 「ごちそうさまでした」 「?…何か食べ物を出したか?」 「いいえ、そういう意味のごちそうさまではないのですけど、…そうですね、ケンジさんが起きたら、聞いてみて下さい。今までの事を全部話した後に、ですよ」 そうしたら、 「きっとケンジさんが教えてくれると思いますので」 「…分かった。ケンジに聞いてみよう」 それでは、と最後にもう一度お辞儀をしてボクは扉をそっと閉めました。 「ああ、とっても良いものが見れました」 扉を閉めた後、緩む口元を小さな手で隠してボクはそっと笑いました。 さてぐずぐずしていては、そろそろ本当にマスターがログインしてくるかもしれません。そうときたらさっそくマスターと、それにカズマさんにも今日の件をご報告しなくては、とボクは鼻歌を歌いながらOZの世界へ飛び出しました。 OZは今日も平和です。 …………… やっぱり、しっかり、彼が最強 |