not only, but lonely. さあ、 ねえ、ほら、手を繋ごう? (一羽、二羽、三羽、四羽、…五羽、) 白い世界に色とりどりの鳥が飛んでいく。ラブマシーンはそれを目で追いかけ数えていた。 OZの管理棟から見下ろす世界は、今日も変わらずそこにあった。今ラブマシーンは一人でいる。いつも一緒の『彼』は、今は侘助に呼ばれていて、自分は『彼』が侘助の元から帰ってくるのをここで待っているのだ。 (六羽、七羽、八羽、) 空を飛ぶ鳥の事を教えてくれたのは『彼』だ。 (「彼らは、メッセンジャーなんです。マスター一人に対してアバターは一人。ボクらはマスターの仕事を優先します。でも、通信、特にメールを送る為には一度にたくさん送らなければならない時もあります。そう言った時に彼らが手伝ってくれるんです」) そう言って空を仰いだ彼に自分は聞いたのだ。 マスターは誰にでもいるのか?と。 その問いに彼は苦笑していた。何故かは知らない。けれど聞いてはいけない事であったように思えた。 (「…そうですね、誰にでもいます。でも、いない場合も、あります」) そのまま黙ってしまった彼に胸が苦しくなった。今でも理由は分からないままだ。 (九羽、十羽、十一羽…) 赤、青、緑に紫、綺麗な綺麗なその色を見ているのは楽しかった。見た事もない色をした鳥もいた。大きなもの、小さなもの、尾羽の長いもの、鶏冠のついているもの、それこそたくさんの種類の鳥が目の前を飛んでいく。 最初はそれだけで心が弾んでいた。それなのに今はどれも同じ色に見えてしまう。楽しい、と、面白い、と思えなくなってしまった。 (十二羽、…十三羽、……まだ、帰らない) 心細くなった、と言えば違うと自分で首を振る。 (でも、きっと近い) 膝を抱えて小さい手を握りこみ、頭を俯かせた。周りの世界から視界を遮断するように目をぎゅっと瞑る。 (…気持ち、は、とてもむずかしい) 生まれたばかりの自分には、まだ今の心を表現する適切な言葉がうまく見つけられない。 『彼』なら、或いは分かるのだろうか。尋ねたのならば、教えてくれるだろうか。 (……知らないことは、悪いことじゃない) 侘助が自分にそう言った。 『お前の周りには情報の海がある。それこそ溢れるくらいの大きさだ。その中からお前にとって本当に必要なものを見つけるのは難しいことだ。何が正しくて、何が間違っているのか、視点が変わればどちらも正しいと思えてしまう』 (…そうだ、だから) 『考える、そしてそこから答えを導き出す。お前にはそれが出来る。その為の手段と手助けを、コイツが教えてくれる』 そうして、自分は『彼』を知った。 (どうしてだろう) 『彼』はいつも自分の傍にいてくれる。そっと隣りで笑っていてくれる。自分が手を伸ばせばそれが当たり前と言うように、この手をとって優しく握り返してくれる。ラブマシーンは自分の手を見つめた。 (今、一番知りたいこと、) 『彼』を、自分は知りたいのだ。 「お待たせしました」 背後から聞こえたその声に、思考の海から急に引き上げられたラブマシーンは慌てて振りかえった。 「遅くなってごめんなさい」 そう言って微笑む彼に、考えるより先にラブマシーンの身体は動いていた。 「…っラ、ラブマシーン、さん…?どうなさいました…?」 自分の身長では彼の膝にしがみ付くしか出来ない。その事が無性に悔しくなって、ラブマシーンはしがみ付く手にいっそう力を込めた。 (…なんでも、ないから、) 今、彼に伝えるべき言葉がラブマシーンには分からない。それはとても簡単な言葉であると思うのに、喉に詰まって出てこない。 (なんでも、ないんだ) それきり浮かばなくなったふきだしに、彼は何も言わなかった。どれくらいそうしていたか、暫くしてラブマシーンは自分の頭にそっと触れる彼の手を感じて胸が熱くなった。 侘助、心には、分からないことがたくさんあるんだ それが自分のことでも、 いや、きっと自分のことだからこそ、 その時胸に浮かんだ言葉がラブマシーンの口から零れた。 (…おかえりなさい) 言葉が彼に伝わったのだろう、触れていた手の動きが止まった。そのまま動かなくなってしまった彼の手に不安を感じてラブマシーンはそっと顔を上げた。そこには泣きそうに俯いている彼がいた。今にも零れ落ちそうな瞳に、ラブマシーンは頭が真っ白になった。 (…こういう時の、言葉は、これではなかった…?) 間違えたのだろうか、と思った自分に、彼は静かに首を振った。 そうして言ったのだ。 「ただいま、」 何かが胸の中ですとんと当て嵌まった。まるでパズルのピースの様にその言葉が開いた穴を埋めた様に思えた。 もう一度彼を見た時、彼はもう普段の彼だった。いつもの様に自分に笑いかけて手を伸ばしてくれる。その手をラブマシーンは握った。触れた先から彼が伝わる。 ラブマシーンは静かに目を閉じた。 …………… 子ラブマが好きです |