理由などないよ





ただ一言、
その言葉が全てを繋ぐ。

きっと自分と、彼も、
見えない何かで繋がっている。





「ケンジ、」
彼は自分の名前を呼ぶ時、それがとても大切なものだと言う様な声で呼んでくれる。その事がケンジはとても嬉しいと思う。けれどそれと同じくらい、その声で呼ばれると胸が苦しい、とも思う。
「何ですか?」
彼を前にすると、ケンジの心は海原の前に佇む様に凪ぐ。視界が開けて不思議と世界が鮮明に見える様な気がするのだ。
「どうして、でしょうね」
「何がだ?」
先に自分を呼びかけたのは彼の方なのに、自分の問いに反応して直ぐに優先順位を自分に回してしまう彼に苦笑した。
「ボクはアナタといると、世界がとても鮮やかに見えるんです」
その理由を知りたいと思う、そう続けようとした自分の言葉に重なるように、ラブマシーンがケンジに言った。

「理由などない、と思う」

「え?」

ケンジはラブマシーンの言葉に目を瞠った。どうして、と尋ねようとしたが、続く彼の言葉にケンジの声は喉に詰まって出てこなくなってしまった。

「今ワタシの目の前にケンジがいる。隣りにワタシがいる。ワタシにとっての世界は此処にあるからだ」
「世界を中心に色がつく」
「だから鮮やかに見えるんだ」
「ケンジ、ワタシはそう思う」

まるでそれは天啓の様に、その言葉がケンジの中で広がった。指先まで広がるじんわりとした熱にケンジはひっそりと息を吐き出してラブマシーンを見た。

そう、世界は、

「そうですね、…きっとそうだと思います」

二人の間に、










 
……………
なんて狭くて広くて万能な世界








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