隠し通せるものならば僕は一生言わずにいる






本当は最初から、きっとそれに気付いていた







(どうしたんだ?)
ぽこん、と吹き出しが浮かんで、そこに現れた言葉にケンジは一瞬だけ止まって、けれど直ぐに何でもないと目の前の小さな彼に首を振った。
「なんでも、ないんですよ」
(ほんとうか?)
小さくなっても聡い彼はこんな時の自分を放っておいてはくれない。何時でもどんな些細な事でも、自分の心の僅かな揺れに気付いてしまう。それが他ならぬ『自分』の事だから、彼は気付くのだと。
自惚れでないことも知っている。それが、その事が今はとても、

「心配してくれて、有難うございます」

笑う自分の顔にこれ以上は無理か、と思ったのか、彼は目を伏せ顔を曇らせてしまった。
(…うん、何でもないなら、いい)
失敗した、と思う。けれど彼の前でこれ以上は自分も無理があった。俯いてしまった彼の小さな手を引く。こんな自分をずるいと、卑怯だと心底思う。
真っ直ぐな彼は、そんな自分に気がつかない。素直に握り返してくれる指の力にケンジは泣きそうになった。それを必死に堪えて、彼の手を握る自分の指に力を込めないように努めた。





優しい彼は、これからもきっと変わらない。
それでは自分は?あれから何か変わったのか?
変わる事が、出来たのか?
変わらないものは、あるのか?





『お前はさ、なんでもそう小難しく考えすぎるんだよ』
「…そう、なんでしょうか」
『自覚が無いのが余計に厄介だな』
黙り込んでしまったケンジに侘助は頭をかいた。
『何が不安なんだ』
侘助の言葉にケンジは緩く首を振った。
「…不安、なんかじゃ、ないんです」
そう、不安ではない。今の自分は、彼の、
「ただ、考えてしまう、それだけです」
『何を』
対峙する侘助の視線が痛い。聞かれると分かってそう答えている自分も自分だ。ケンジは自嘲した。

「彼が選んだ者が、自分でなかったなら、と」

『…ケンジ、お前は、』
ケンジのその言葉に侘助が言葉を返そうとした時、侘助の元に通信が入った。
軽く舌打ちして侘助がそれに出ようとする前に、席を立ったケンジに向かって侘助は叫んだ。

『ケンジ!』
自分の名前に振り返ったケンジに侘助は続けた。
『アイツは何度繰り返したって、必ずお前を選ぶ』

「そんなこと、」
振り返った筈のケンジはその言葉にくるりと背を向けて扉に向かって歩き出した。
もう一度呼びかけようとした侘助の耳に、扉を出る瞬間立ち止まったケンジの言葉が届いた。


「そんなこと、知っていますよ」


その言葉を最後に扉は音を立てて閉まった。








「それは彼が彼であったから、私が私であったから、か…」
『WABISUKE?』
自分を呼ぶ通信に向き合って侘助は声を切り替えた。
「何でもない」












 
……………
それでも、だからこそ、








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