夜に紛れて





例えばいつの日か、触れたこの温度を懐かしいと思える様に








閉じ込められた様な闇の中、ただ二人寄り添って相手の存在を確かめる。

「ケンジ、寒くないか?」
「…大丈夫、寒くなんてないですよ」

アナタがとてもあたたかいから

何でもないような繰り返される日常の中で、不意に不安を感じる時がある。そんな時はこうして二人朝まで寄り添って、お互いの熱を分け合うのだ。
腕の中の存在を確かめる様に、ケンジの身体に回されたラブマシーンの腕がゆっくりと動く。視界が暗闇に閉ざされているから、確認出来るのは僅かな呼気の音と相手の温度だけだ。

「…こうしていると、まるで一つのイキモノになったような気分になる」

ぽつりとラブマシーンが落とした言葉に、ケンジが僅かに笑った気配がした。

「…いいですね、いっそ、そうしてみましょうか」

その言葉にラブマシーンが何か返す前に、ケンジが身動きしたのが分かった。
首に回された腕が僅かに震えていた。

「…ケンジ?」
「ずっと、ずっと、こうして、」


ぜんぶなにもかもまざりあってとけあったら、そうしたら、きっと、


お伽噺を聴かせるような優しい声が、闇に溶け込んでそのまま雲散した。お互いを抱きしめる力がいっそう強くなる。

そこから先、二人に会話は無かった。











「朝だ、ケンジ」
「おはようございます、ラブマシーンさん」

日はまた昇り、変わらない日常が始まる。
扉に向かう二人の顔に、昨夜の間の気配はない。
ただ、緩く繋がれた手のひらから感じる相手の体温に、あの喩話を思い出す。



『ぜんぶなにもかもまざりあって―…』



いつか、二人溶け合った後のイキモノの夢を、夢見ている。











 
……………
きっと欠片も残らない









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