シーツ一枚、他には何も






朝、目を覚ました時に、隣にアナタがいる幸せについて考えた事がありますか?










本当は、自分は何も要らないのだ、とケンジは思う。彼の隣で彼を見ている事が出来るだけで、自分にとっては何にも勝るくらいの幸せなのだと。
こうして眠っている彼を見つめる事が出来るのは自分だけの特権だ。他の誰も、彼のこんなに無防備な姿を目にする事は叶わないだろう。そう思うだけで身に余るほどの幸福感がケンジを包む。
きっとこの想いだけを抱えて自分は生きていけると本気で思う。


(この先、この手が自分から離れていってしまう時がきたとしても)


少しだけ手を動かして眠る彼に触れてみる。そっと羽が触れる様に、静かに、…彼に気付かれないように。
彼を形作る全てが今自分の目の前に存在しているのだ、そう思うだけで堪らなくなる。


…いつまでもこうしていたいけれど、そろそろ起きなくてはいけない時間が近づいてきている。彼の腕の中はとてもあたたかくて居心地がいいから、抜け出す事がとても困難だ。


(離れるときは何時だって自分から)


落としそうになった溜息を慌てて飲みこんで、ケンジは身を起こそうとした。だがその動きを留める何かがあった。

「…!」

それはラブマシーンの手だった。
彼の手がケンジを抱きしめたまま離そうとしない。

「…ラブマシーンさん、起きて、いるでしょう?」

「…寝ている」

「寝ている方は喋ることは出来ませんよ」

「寝ている」

「ラブマシーンさん、」

こんな風にたまにみせる彼の我儘はとても可愛いと思ってしまう。言ったらきっと怒られるだろうけれど。

「もう起きないと、今日は…」

その先に続く筈の言葉は、彼の腕の中に飲み込まれた。

「ケンジ、」

(そんな風に呼ばれたら、ボクはもう何も言えないんですよ)

ズルイと思うのはこんな時だ。彼はもしかして全てを分かって自分をからかっているのではないかと疑う事もある。どうしたって、自分は彼に敵う事はないのだから。

「…ズルイ、ですよ、」

(こんな風に思うのはボクだけ、なんて)

「アナタは、ズルイ、です」

降参の証拠に彼の腕の中で力を抜く自分の身体を、彼が嬉しそうに抱き締めてくる。力を込め過ぎず、かと言って決して逃がすことはしないと言ってくるような、それはあたたかな彼の腕の檻だ。

(ボクは、ここから逃げることなんて、出来ない)

彼に目線を合わせてほどけた様に笑うと、彼が途端に天を仰いだ。

「?ラブマシーンさん?」

「…反則だ、ケンジ」

よりいっそう力が込められた彼の腕の中で、ケンジは首を傾げた。

「ケンジの方が、ずっとズルイ」

そう言って目を細めて笑う彼の方が、ずっとずっとズルイと、ケンジは赤くなった顔のまま思った。











 
……………
精一杯ラブを目指して挫折した







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