うんとキスして、わたしをハイにして どうしてこんな事になったのでしょうか 「ケンジ、教えてほしい」 そうですね、ボクも教えてほしいです。 「…きす、とは、なんなのだ?」 …その単語をアナタに教えたすっとこどっこいの名前を聞きたいです。 今すぐに! 「ラブマシーンさん、とりあえず座りませんか」 ええ、知っていますよ、アナタは知りたがりだから、色々な事に興味を持つことは。だから、敢えていままでそういうことから遠ざけてきたのは他ならぬボクの仕業ですから。だって考えても見て下さいよ、純粋そのままの瞳に見つめられてその手の事を教えてほしいなんて聞かれたら、本気でボクは憤死する自信あります。無理です。どう考えたってボクにそんなこと教えてあげる事が出来る訳ないじゃないですか! 「ケンジ?」 「ごめんなさい、ちょっと考え事してました」 どうにか彼からこの話題を忘れさせるまではいかなくても、逸らすことは出来ないだろうかと真剣に算段を始めたボクは、彼の眼差しからそれは無理そうだということを悟りました。 (駄目だ、キラキラしてる…!) 泣きたくなってきましたが、ここで泣いてもしょうがありません。諦めが肝心だとは誰の言葉だったでしょうか。でも、その前にボクは知る権利があると思う訳です。つまりは、 「ラブマシーンさん、」 「なんだ?ケンジ」 「アナタにその単語を教えたのは何処の何方でしょうね?」 出来るだけにこやかに、彼にそうとは悟られずに聞きだす事はボクの十八番です。こんなことばかり巧くなっていくのは果たしてどうかという問いはこの際無視します。 「侘助だ」 「……ソウデスカ」 今度あの人の新作のプログラムにラブマシーンさんと遊びで作ってみた超悪質のウィルスばら撒いてやりましょうか。 『なんだかんだで、お前ら随分長い事一緒にいやがるが、ちょっとは進展したのかぁ?』 『シンテン?』 『おいおい…っつーかその調子だとまだなーんにも起きてなさそうだな…』 『何か起きたほうがいいのか?』 『いや?ま、それぞれだがな、起きたほうが俺は面白いんだが』 『そうなのか』 『……そうだ、おい、ラブマシーン』 『なんだ?』 『お前ちょっと耳貸せ』 『?………………それは何だ?』 『ケンジに聞いてみな?教えてくれっから』 「と、言うわけなんだが」 頭の奥で侘助さんのあのにやにや笑いをしている顔が浮かびます。本っ当に碌な事教えやしないんだから! 「いいですか、ラブマシーンさん、それは、ちょっとまだアナタには早い事で、」 「ケンジ」 あああだからその目で見ないでくださいボクが何したっていうんです…! 「知りたい」 ボクは泣きたいです… お互い向かい合って正座で座っている今の状況は周りからみたらどう映るんでしょうか。…とりあえず此処がボク達のプライベートルームで外には一切が漏れないようになっている事が幸いだったのか、この場合は寧ろその逆なんじゃないでしょうかあああもうどうしたら! 「ケンジ」 「…はい」 「それで、きすとはなんなんだ?」 …ここまできたら、ボクはもう覚悟を決めたほうがいいのでしょうね。ええ、もう気分は戦に向かう武士の気持ちです。間違ってないと思います。 「ラブマシーンさん」 「何だ」 「…非常に言い辛いといいましょうか、これはもう実際にやってみたほうが早いと思いますので、その…申し訳ないのですが、目を、」 「目?」 「目を瞑ってくれませんか…?」 俯いていて良かった。きっと今のボクの顔は真っ赤です。 「分かった」 その声に顔を上げると目を瞑ったラブマシーンさんが、目の前で正座して待っています。なんだか不意におかしくなってしまって、そんな場合ではないのにボクは笑いたくなってしまいました。 本当に今更なんですが、ボクはこの人の事が何より大切で、 …そして大好きなので、この状況は寧ろ喜ばしい事なのかもしれませんが、このまま向かい合っていても話がちっとも進みませんので、 「ラブマシーンさん、お願いがあります」 「なんだ?」 彼は目を瞑ったまま。ボクはそっと囁きました。 「…ボクの事、嫌いにならないで下さいね」 「ケン…」 ボクの言葉にラブマシーンさんが返す前に、ボクの唇は彼のそれにそっと触れることが叶いました。 「ケンジ…?」 茫然としたような顔で彼がボクの名前を呟きました。何でしょう、ボク今すごく泣きたい気分です。 「今のが、キスです」 愛情を伝える為の術です。 「分かりました?」 今までにないくらい近いアナタの瞳を見て、ああ、綺麗だな、と思っていたら、また視線が、いつの間にか彼の手がボクの背中に回っていて、ボクはもう一度目を閉じようとしたら、 「こんにちは!ケンジさん!ラブマシーンさん!3時のおやつをご一緒しませ……………………っ!?」 「ケンジさん?入口で止まっていたら、僕も入れない………………あ」 「いややや、ち、違います!違うんです!ケンジ君!カズマさん!誤解ですから!」 「お邪魔でした?」 「違います違います違うんですあのこれは情操教育の一環で!」 「ごめんなさいケンジさんボク、ボクなんてコトを!」 「ケンジ君!?」 「お二人のお邪魔をするつもりは本当にこれっぽっちも無かったんですごめんなさい折角の雰囲気を」 「落ち着いてください!ケンジ君!」 「本当にごめんなさい!」 「ああ!待って!ケンジ君!待って下さい!」 ああ、何たる事でしょうかよりにもよってこの二人に見られるなんて恥ずかしくて顔から火が出そうです…ってケンジ君!早い!待って下さい…! 「…カズマ」 「なんだ」 「今度くる時はちゃんとノックしてくれ」 「善処する」 …………… ドンマイ、ラブマ |