彼の名前を知っている





あの日見つけたのは、きっと愛とそう呼ぶもの







「こんなところで、何をしているんですか」
柔らかい声が聞こえる。振り返った自分の目に映ったのは、大きな耳と丸い瞳のアバターだ。
何故か知らないが、自分が生まれた時からずっと傍にいる存在。
名前は知らない。聞こうと思ったが、自分には声が無い。
「ああ、花を見ていたんですね」
花?花というのか。視線を隣から戻して先ほど眼前に流れていた色とりどりのそれをまた眺める。
(はな)
口の中でそう動かす。
「きれいですね」
(きれい、というのか)
目の前の花に対する言葉なのだろう。
そのまま二人で花を眺めていた。



「侘助さんが、アナタを呼んでいました」
ボクはそれを伝えにやってきたんです。
暫くしてから、彼の口から落ちた言葉に振り返った。そのまま立ち上がり、自分を見上げている彼を見る。
手を差し出そうかと迷う前に彼の声がそれを遮った。
「呼ばれたのはアナタ一人だけですから、ボクは行きません」
気をつけて、と自分を送り出す彼の瞳からその時何故か目が離せなくなった。先程まで二人で見ていた花よりも、自分は彼の瞳の方がきれいだと思った。
伝える術はないが、自分は彼にどうしてもその事を知ってほしいと願った。
「ラブマシーンさん?」
そっと彼の頬に触れる。驚いたのだろう、肩が少しだけ跳ねた。
伝えたい。なのにこの喉は音を出せない。彼の名も聞けない。それが今震えるほど悔しいと思う。

「だいじょうぶ、ですよ」

どうしてだろうか。
自分の手に触れる彼の小さな手の温度が伝わってくる気がした。
あたたかい彼そのものの様なその温度がひどく胸をざわめつかせた。
知りたい。この思いの名を。
きっと目の前で微笑む彼ならば、その答えを知っている気がした。











……………
まだ、早い









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