No one's perfect. 眠りに入る前、風鈴の音を聴いた。 優しく髪を梳いていった感触が僅かに残る。 夏の午後。夕焼けの赤。瞼の裏で微笑む君。 あの日の記憶。 その日も健二は真緒、真悟、祐平に連れられて3人の遊びに付き合っていた。一人っ子の健二にとっては、3人との掛け合いは新鮮で楽しく、退屈しないので、寧ろ積極的に遊びに参加していた。すまなそうな顔をする3人の親には、 「兄弟が出来たみたいで、嬉しいです」 と、本当に嬉しそうに笑ってみせ、逆に苦笑させてしまう程だった。そんな訳で、健二にとってみればこの日もいつもと同じように3人と遊んでいたが(何故か夏希と佳主馬はそんな健二に良い顔をしない)、そろそろおやつの時間になるということで、目当ての居間に行くため4人で廊下を歩いていたら、先に歩いていた真悟がぽつりと声を出した。 「あ、理一おじちゃん、寝てる」 「本当だ、こんなところで寝てるー」 「え?理一さん?」 廊下の真ん中で立ち止まった3人の頭の上から健二が覗き込んでみると、なるほどそこには理一がいた。それも廊下の真ん中で寝そべっている。 見た目も、話し方からも大人の男という雰囲気が漂っている(様に健二には見えるが、その事をたまたま侘助に話したら、思いっきり否定された)理一がこんな無防備に寝転んでいるなんて、と普段とは違った一面を見た健二は、不思議な気分になった。 「理一さんでも昼寝ってするんだね・・・」 「理一おじちゃん、よくいろんなとこでねてるよ」 「そんで理香おばちゃんによくふまれてるー」 なんだか聞いてはいけないことを聞いたような気がした健二はそのままそっとその場から離れようとした。 「気持ち良さそうに寝てるから、起こさないように静かに行こうね」 「うん!」 「おやつ!」 本来の目的を思い出した3人は言うが早いか、理一などそっちのけで居間目掛けてかけ出して行った。思わず大声を出しそうになった健二だったが、なんとか抑え込んだ。どことなく控え目な走り方だった事は、自分の言うことを聞いてくれたという点でははたしてよかったのか、悪かったのか。健二は理一が起きてしまったのではないかと恐る恐る目を向けてみたが、そこには先ほどと変わらず眠り続ける理一の姿がそのままあり、起こしてしまうという事態にはならなかったようだった。 ほっと胸を撫で下ろした健二は、ふとあることに気付いた。 「いくら夏で暑いからって、このまま何も掛けないままでいたら風邪ひいちゃうかもしれないよな・・・」 もう一度理一の顔を見た健二は、そのまま元来た廊下を静かに歩きだした。 「ほら、理一!アンタいつまでこんなとこで寝てるのよ!さっさと起きなさい!もうご飯よ!」 昔から変わらない姉の自分を起こす声が耳に流れてきて、強制的に理一は眠りの世界から連れ戻された。 「姉ちゃん、もうちょっと優しく起こしてくれてもいいじゃないか」 「何甘えたこと言ってるのよ、まったく」 呆れた顔を隠しもしない理香の表情に理一は苦笑した。 「はいはい、すみませんでした。・・・あれ」 その時になって理一は自分にかけられていたものに気付いた。 「タオルケット・・・姉ちゃんが掛けてくれたの?」 珍しいこともあるものだとしげしげとそれを眺める理一に、理香は言った。 「アタシじゃないわ。それ、健二君がかけてくれたのよ」 「・・・え?」 「だから、健二君が、」 「そうじゃなくて、いや、そうなんだけど、え?これを、あの子が?」 「そうよ、3時間くらい前にね、何か掛けるもの貸して頂けませんかってあの子わざわざ聞いてきたのよ。誰に使うのかってきいたら、アンタだって言うじゃない。そんなのほっときなさいって言ったんだけど、あの子、」 『風邪、ひいたら大変ですから』 「優しい子よ、健二君は。アンタちゃんとお礼言っておきなさいよ」 言うだけいって理香は忙しなく離れて行った。まだ手伝うものがあるのだろう。その事は理一にとっては有難いことだった。赤く染まったみっともない自分の顔を誰にも知られずに済んだのだから。 「・・・なんか、随分恥ずかしい事をされちゃったな・・・」 そういえばと、ふと眠っていた時のことを思い返す。誰かが確かに傍にいた気配はした。その時自分に優しく触れて行った感触があった。大きくはない手のひらが、そっと自分の髪を梳いていったのだ。優しい、温度だった。 「・・・まいった・・・」 この後の夕食の時に、健二に向ってどんな顔をすればいいのか理一はしばらく真剣に悩むことになる。 内面の葛藤とは裏腹に、その表情は誰が見ても幸せに崩れていたが、その顔を確認することができたのは、朝顔の蕾と、その前を通りかかったハヤテだけだった。 …………… なんとなく書いてみたこれが多分一番初めのSW小話でした。 理一さんが、というかあの方のアバターに心を打ち抜かれまして…。 あの拍手ポムポムのシーン、あれだけで私滾ります。 |