まどわぬ、かまわぬ、つまらぬ





「なら、これは全部アンタの所為だ」

それってすごい言いがかりじゃあないでしょうか





ふと視線を感じて、健二は立ち止った。なんだかジリジリと音がしそうな程焼けるような熱い視線。身に覚えのないその熱に一体誰がと周りを見渡すと、自分の頭一個分下からその原因が自分を見上げていた。

「遅いよ」

心底から驚いた。先ほど陣内家の面々に夏希と共に挨拶をしていた時に彼の姿はなかったから、てっきりいつもの納戸にいるものだと思っていたものだから。

「・・・ひさしぶりだね、佳主馬くん」

先の視線の意味は後に回すとして、挨拶を交わす。相変わらずの彼の様子に頬が緩んだ。OZの世界ではいつもチャットや、メールなどでやりとりを交わしていたが、こうして直に顔を合わせて話をするのは何カ月ぶりだろうか。

「えっと、元気だった?」
「なにそれ。面白くない」

自分のボキャブラリーの無さは自覚しているが、こういう時にもっといい言い回しが出来ないものだろうかと真剣に悩む時がある。佳主馬と話している時は常に健二に付きまとう問題の一つである。

「ごっ、ごめん・・・」
「別に、健二さんらしいよね」

なんだかよく分からないがどうやらいつの間にか佳主馬の機嫌は直っていたようで(そもそも機嫌が悪かったのかどうかも怪しい)自分の観察力の無さにも問題があるのか健二は頭を悩ませた。

「そういえば、何か僕に用があったの?」

そう、そもそも自分が佳主馬に気付いた理由が先ほどの熱視線なのだから、それを本人から聞かねば答えは得られない。改めて佳主馬に向き直った健二はそこで盛大な溜息に迎えられる事になる。

「・・・本っ当に健二さんって、健二さんだよね。まあそこが健二さんたる所以なんだろうけど」
「へ?」
「ああ、分からないのはもう諦めてるからいいんだけど、そうだね、用って言えば用なんだけど、」

と、そこまで言ってチラリと健二を見た佳主馬は、指先で健二を呼んだ。その仕草が妙に似合っていると思うのは、彼の何が自分にそう見せるのだろうか。彼のアバターのその名の通り、本当にキングのような素振りを見せる佳主馬に、健二はただ素直に従った。

「なに?」
「むかつくけど屈んで」
「うん」

鼻を少し鳴らして佳主馬が言う。その通り彼の前に屈んだ健二の目の前が佳主馬の手で蓋をされた。突然の闇に驚いて肩が跳ねた健二に佳主馬は何と言ったか。

「そのまま大人しくしてたほうが身のためだよ」

齢一四歳の中学生が言う科白だろうか。言うとおりにしてしまう自分もどうしてだろうと考える前に身体が言うことをきいてしまう。自分の方が年上なんだけれどなあ、と肩を落とす健二だったが、そんな思考もなにもかもが頭から一瞬にして吹き飛んでいく体験をすることになる。
依然視界を覆う手はそのままに、佳主馬の身体が動いた気配がした。何か妙に近い位置で呼気が当たるな、とぼんやり考えていた健二はそのすぐ後に自分の唇に何かが当たって、それがそのまま更に己の唇を吸うという段階になってようやっと自分の身に何が起きているのか理解した。
口付けを、されている。
その瞬間一気に体中の血液が沸騰したかと思う程、体温が上がった。気付いて離そうとするも、屈んだままの自分の体制の不味さと何より押さえつけている佳主馬の力が逃げるという手段を健二に与えてくれない。

「ふ、・・・っ」

永遠に続くかと思われたそれも、佳主馬が引いたことであっさりと終わった。
途端、つめていた息が口から溢れた。ぜいぜいと肩で息をする健二に呆れたように佳主馬が言った。

「鼻で息をするんだよ。なに止めちゃってるの」

本当に年下の、しかも同性の子に言われる科白ではない。先ほどといい言われたままでは己の沽券に係わるが、反論しようにも今の健二には無理な話だった。自分の身に起きた事態が情報として脳に伝達されていない。顔を真っ赤に染めたまま固まった健二に佳主馬は無邪気な笑顔を見せた。

「そんなんじゃ先が思いやられるよ、健二さん」

果たして健二がその言葉に何か返せたかどうかは、知る由もない。














……………
キングな佳主馬です。
ううん、力不足が否めない・・・。
キングなあの子はきっとどんな科白もさらりと言ってくれそうです。








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