『暗号電信、テーブルの下』





触れた温度に泣きたくなった





今日も賑やかに家族で食卓を囲む。夏希はこの瞬間が一番好きだ。

『食べることは生きること。人間お腹が減ったら戦なんか出来やしないんだ』

愛する曾祖母の言葉は何時でも夏希の胸にある。周りの皆の嬉しそうな顔が夏希を幸せな気分にしてくれる。でも、不意にどうしようもない寂寥に襲われることもある。今がそうだった。

(あ、どうしよう・・・)

あの日、栄が亡くなったあの日から、夏希の涙腺は壊れてしまったかのように気を抜くと大粒の涙を零す。なんでもない瞬間に、ふと思ってしまうのだ。
今、ここに栄がいてくれたら、と。
もっとたくさん話したい事があった。聞きたいこともそれ以上にあったのだ。別れはいつも突然で、送る側には準備をさせてくれない。どうしようもない感情の高ぶりにもう駄目だ、と夏希が俯いたその時、左の小指に静かに触れたものがあった。少しだけ遠慮がちに、でも決して離さないと聞こえてくるような控え目な力強さで。

(健二君・・・)

それは健二の指だった。前を向いて万助と楽しそうに話しをしながら、周りの皆に気付かれないようにそっと夏希の小指に触れている。
心臓が五月蠅い。顔に熱が集まるのが分かった。きっと耳まで赤くなっているに違いないのに、夏希はその指を離すことが出来なかった。変に汗もかいてきて、自分がこんなに恥ずかしいのに、どうして健二は平気なのかと夏希は少し悔しくなった。ちらと隣の健二に眼をやって、そこで夏希は気付いた。健二の耳がうっすらと赤くなっていることに。よく見ると自分の小指に触れている健二の手は少し震えているようだった。
心配させないように気付かれないように、健二の精一杯の優しさに、夏希は別の意味で涙が零れそうになった。

(おばあちゃん、私が健二君を連れてきたこと、誇ってくれる?)

そっと夏希から健二の手に指を絡ませる。途端健二の肩が僅かに跳ねたが、その手は離れることはなかった。
まだ夜の宴は終わらない。皆と一緒に笑いながら、夏希は何処かで栄の笑い声が聞こえたような気がした。














……………
健夏(健)も好きです。
この二人は見ているこっちががじれったくなるくらい、可愛い恋愛してくれそうです。
私にそんな二人が書けるスキルが欲しい・・・








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