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その2



   ***

 ことり。
 ようやく片付けの終わった部屋の中、再び緑茶の香りが漂います。
 しとしと、しとしと。
 いまだに雨は止みません。
「い、いたた……。マイ〜、もうちょっと手加減してよ〜」
「やかましいっ! そなたがあんなヘ、ヘンな事さえしなければ良いことではないか」
「う〜……」
 猫はやみんにしてみれば、猫まいたんの気分をちょっとでも変えようとしたいという想いからやったことでしたから、少々ふくれっつらにもなろうというものですが、でも、本当にそれだけでしたか? 猫はやみん。
 ――ちぇ、やっぱり調子に乗りすぎちゃったかなあ……。せっかくチャンスだと思ったんだけどなあ。
 ……どうやらあんまり懲りていないみたいです。
 でも、猫まいたんが怒ったままではいくらなんでも困るので、猫はやみんはへこんと頭を下げました。
「ごめん、ちょっと調子に乗りすぎちゃったみたい。ね、この通りだから許して?」
 すまなそうに頭を下げる猫はやみんを、猫まいたんはいささか厳しい目で見つめていましたが、やがてその眉が少しずつ元に戻っていきます。
「……まあよかろう。これからはその、あまりヘンなことはするでないぞ?」
「うん! 約束するよ!」
 その言葉に猫まいたんは苦笑を浮かべると、もういいというように手をひらひらさせました。
 ……もっとも、その約束がいつまで続くかは、約束をしたほうもさせたほうもとんと自信はないのですが。
 しとしと、しとしと。
 二匹が大騒ぎをしている間も雨は変わることなく振り続けています。
 もともと暗いお空が、日が傾いてきたせいでしょうか、一層どんよりと重く垂れ込めています。
「ふう……」
「ふむ……」
 いつの間にやら二匹とも窓際に腰かけて、ミルクの入ったマグカップを手にぼんやりとお空を見上げておりました。
 あーあ、ぽっかりと口なんてあけちゃって。
「止まないね〜」
「そうだな……」
「ふう……。あ、そうだ」
「?」
 ぱたぱたと走り去る猫はやみんを、猫まいたんは怪訝な目で追いかけます。
 まあ、さっきみたいなことの後ですから、これは仕方がありませんよね。
 そんなことは気にもせず、猫はやみんは本棚をごそごそ引っ掻き回すと、一冊の本を取り出しました。
「あったあった……。ねえマイー。これ作ってみようか?」
「なんだ、その本は? 見たことがないが……」
「ん、人間の速水が貸してくれたんだ。良かったら読んでみて、って」
 表紙には「びっくり! あなたにもできるちょっとした話のネタ99」と書いてありますが……なんだって猫はやみんはこんな本を借りたんでしょう?
 というより、速水は普段こんな本を読んでいるのでしょうか?
「どれどれ……てるてる坊主だと?」
 そこには晴れを呼ぶおまじないとして、てるてる坊主の作り方が書いてあるのでした。
「うん、前ちょっと読んで覚えてたんだけど……良かったら作ってみない?」
「そうだな……」
 猫まいたんはちょっと考え込みましたが、やがて小さく頷き返します。
「よかろう。まじないなど芝村が頼るべきものでもないが……まあ、その、他にやることもないしな」
「うん!」
 かくして、おそらくにゃんだ〜ランドではじめてのてるてる坊主が作られることになるのでありました。
「どうもこれ、そもそもの始まりは人間の中国って国らしいね。そこではほうきを持った女の子の人形をまつって晴れを祈ったんだって」
 先ほどの薀蓄本を片手に、猫はやみんがてるてる坊主の材料を探してきます。
 補足をするならば、てるてる坊主の起源には諸説あるようですが、一説によれば中国・明代の「帚晴姫(そうせいしょう)」が元になっているといわれています。
 この姫君がほうきをもって雨雲を追い払い晴れを呼ぶ、というのですね。
「なるほど。しかし、それがなぜ坊主なのだ?」
「え? えーと……ごめん、その辺はよくわかんないみたい」
「そうか……女の子の人形というのも良いかも知れぬのにな」
「え? マイ、何か言った?」
「ななな、なんでもないっ!」
 日本に(ほら、本は速水のですから)入って来た時に坊主に変じた理由ははっきりとはしませんが、修験者(しゅげんじゃ)や聖(ひじり)などの雨乞い・晴れ乞いを行なう者たちと重なっていったのではないかと言われています。

 ティッシュを丸めて芯にして、その外をまたティッシュでくるんで裾が広がるように整えてから、くるくるっと紐で縛ればてるてる坊主の出来上がり……のはずなのですが。
「むう……」
 猫まいたんは難しい顔で自分の作業結果を眺めています。
 えー、一言で言えば「頭が下」。
 頭が少しでも重くなってしまうと、てるてる坊主はすぐに下を向いてしまいます。
「うまく行かぬ、な……」
 猫はやみんは、とみれば、こちらも似たようなものでした。
「むー」
「ま、まあ、とりあえず出来上がったんだし、つるしてみよう、ね?」
 ちゃんとした形になっていない猫まいたんは渋々ではありましたが、それでもどうにか自分の作ったてるてる坊主を軒下につるします。
 と、その時です。
 いままではどんよりはしていたものの静かだった空が、いきなり雨雲が蠢き、ゴロゴロと雷鳴まで聞こえ始めたではありませんか。
「にゃにゃっ!?」
「い、一体どうしたの!?」
 二匹が何事がおきたのかも分からぬうちに、突然、

 ざあっ

 という音とともに、大粒の雨がそれこそバケツをひっくり返しでもしたかのようにたたきつけ始めたではありませんか!
「アツシ! これは全然効かぬではないか!」
「お、おかしいなあ、そんなはずは……?」
 猫はやみんはおろおろと本をめくりますが、やがてその手があるページでぴたりと止まります。
 一方の猫まいたんといえば、すっかり仏頂面になっています。そりゃ、かえって雨がひどくなってしまっては面白かろうはずがありません。
 猫はやみんは猫まいたんのほうをちらりと見ると、それから申しわけなさそうにおずおずと声をかけました。
「あの、ね、マイ」
「何だ!?」
「どうも僕たちが作ったてるてる坊主ってね、頭を下にすると『ふれふれ坊主』になるみたいなんだ……」
「……なんだ、それは?」
「……雨を呼ぶおまじない」
 しばしの沈黙があって――
 ごちん、と窓枠に何かがぶつかる音が聞こえましたとさ。
「なかなか止まぬではないか。先ほどはすぐに降って来たというのに……」
 ようやくまともに仕上がったてるてる坊主を見上げながら、猫まいたんは少し眉を寄せました。額にはちーさなばんそうこうが貼られています。
 本当は願いがかなったら描き込むらしいのですが、二匹が作ったてるてる坊主にはかわいらしい顔が描かれていて、二匹に微笑みかけています。
 でも、雨のほうはといえばまだまだ弱まる気配を見せません。
「まあ、お空の元栓を締めるみたいなものだし、簡単には効かないんじゃないのかな……」
「いや、もしかしたら……」
 そう言うと猫まいたんは、先ほどのてるてる坊主を作った材料の残りで何かをゴニョゴニョと作っていたかと思うと、いささか誇らしげにそれを猫はやみんに見せました。
「それって……、もしかしてほうき?」
 まあ、よった紙を芯にして不器用にひらひらと先をつけたものではありますが、どうにかほうきに見えないこともありません。
「うむ、そなたの話によれば、元はほうきを持っていたというではないか。これがあればもっとよく効くに違いない」
 どうやら猫まいたん、先ほどの女の子の話が随分と印象深かったようです。
「そうだね。効くといいね」
 猫はやみんも、真面目にてるてる坊主に取り組む猫まいたんをみて、小さく微笑みながら、自分のてるてる坊主にもほうきを持たせてやるのでありました。

   ***

 その後二匹は晩御飯を食べてお風呂にも入りましたが、その間も雨は止みません。
「効かぬ、な……」
 窓を小さく開けて、猫まいたんは空を眺めます。
「明日になればきっと効いてるよ。さ、もう寝よう?」
「うむ……」
 それでもいささか名残惜しげに外を眺めていた猫まいたんではありましたが、やがてそっと窓を綴じると、カーテンをそっと閉めました。

 雨音が子守唄の代わりになったのか、二匹が眠りにつくのに時間はかかりませんでした。
 それでも猫まいたんは表のことが気になるのか、何度か寝返りを打っておりましたが、それも単調な雨音を聞くうちに、とろとろとまぶたが下がっていくのがわかりました。
 だから、この後あった事が果たして夢か、はたまたうつつの出来事であったのか、それは猫まいたんにもよくは分からないのですが……。
 どのくらい経ったのでしょうか。
「マイさん、マイさん……」
 猫まいたんはかすかに耳を動かしますが、もぞもぞとするだけで再び静かになります。
「マイさん……」
 先ほどより明らかに大きくなった声に、猫まいたんはかすかに目を開き――
「誰だ?」
 いささか鋭い声で闇を睨みます。しんとした室内は、物音ひとつありません。
 いや――
 突如、闇の中にふわりと白いものが現れ、見る見るうちにみたことのある形に変わっていくではありませんか。その様子を猫まいたんは目を丸くしてみています。
「お前は……もしかして?」
「そうです。私はあなたに作られたてるてる坊主です。あなたの想いに力を得て、こうしてやってくることができました」
 話しかけてくるそれは、確かに猫まいたんが作ったてるてる坊主でした。ご丁寧に先ほど持たせたほうきもちゃんと手にしています。
 まあ、それにしてはずいぶんと大きいですがね。何せ猫まいたんたちとほとんどおんなじ大きさですから、知らない人が夜中にいきなり見たら、トイレにいけなくなることは確実かもしれません。
 猫まいたんはいささか信じがたい面持ちでしたが、ふと気がつくと、いつの間にか猫はやみんもベッドから身を起こしているではありませんか。
「あ、アツシ。そなたこれが見えるのか? 私の気のせいではないのだな?」
「うん、ほら、僕のてるてる坊主もそこにいるし」
 再び目を戻せば、いつの間にやらてるてる坊主は二つになっておりました。
「私たちは、想いを込めてくださったあなた方にまことに申し訳ないことではありますが、ひとつお願いがあってやってまいりました」
「願い事だと? それは何だ?」
「はい、本来なら天気の願い事をかなえるのが私たちの役目なのですが、ぜひともお力をお貸しいただきたく参上いたしました」
「……なぜ?」
 猫はやみんがベッドの上に座りなおし、問いかけました。猫まいたんもそれにあわせて姿勢を正します。
「はい。晴れを呼ぶためには雨雲を払わなければならないのですが、今この世界にいる雨雲の使い手はかなり強く、私たちだけの力では太刀打ちできません。どうも一度雨を呼ぶまじないをされているせいもあるらしいのですが……」
 それを聞いた二匹は思わず頭をうなだれました。なにせ、てるてる坊主たちのいう「雨を呼ぶまじない」をしっかりばっちりやっているわけでして……。
 ちょっと胸の辺りにちくちくと痛みを覚えながら、今度は猫まいたんが口を開きます。

「……話は分かったが、我らにどうせよというのだ? 力を貸して欲しいとのことだったが、どうすればよいのだ」
「一緒に来てください」
 答えは何の迷いもない、きっぱりとしたものでした。てるてる坊主たちはじっと猫まいたんたちを見つめています。
「……マイ、どうする?」
「行こう。元はといえば我らにも責任がある。ならば協力するのが筋であろう?」
 猫まいたんの返事に猫はやみんも頷いて、てるてる坊主に向き直ります。
「わかった。僕たちも行くよ」
「ありがとうございます。では、さっそく……」
 てるてる坊主たちがなにか呟くと、二匹の体はたちまち宙に浮かび上がりました。
『にゃにゃっ!?』
 驚く間もなく、どこをどうしたのか二匹は気がつくと家をはるか下に見下ろす高みに浮かんでいるではありませんか。でも二匹に雨は当たりません。
「こ、これは……?」
「おふたりはシャボン玉で包ませてもらいましたから大丈夫ですよ。雲の上に行くまではこのまま行きましょう」
 二匹はふわふわとシャボン玉に連れられて、お空の高みへと上っていくのでありました。

   ***

 雲の上は意外にも明るい世界でありました。まんまるなお月様も出ておりますし、星たちの光が雲の上を青白く照らしています。あっという間に猫はやみんたちは雲の上に出たのですが、そこでいきなりシャボン玉が割れました。
『にゃにゃーっ!?』
 ぽよぽよん。
 二匹は相次いで雲の上に落ちるとそのまま数回勢いよく跳ね飛んで行きます。
「すみません。そろそろあいつの近くに来たせいか、力がうまく働かないようです……大丈夫でしたか?」
「私は大丈夫だ。アツシ……?」
「僕も大丈夫」
「よかった……。さあ、目的の場所はもうすぐです。行きましょう」
 ぽよぽよと足元は何となく危なっかしいですが、どうにか二匹は立ち上がるとてるてる坊主たちの指し示す方向へと歩き始めました。
 しばらく歩いていると、雲の様子が明らかに変わって行きます。それまでは平らかな道だったのがだんだんと丘になり、坂もきつくなっていきます。周りの様子も、わたがしのような雲からまるでハケで引いたようになり、雲の色も一層どす黒く変わって行きます。
「……あまり、気分のいいところではないな」
「気をつけてください。もう間もなくです」
 てるてる坊主の言葉を皮切りに、突如風が強くなり、あたりに稲光が走り、そのうちの一本が猫はやみんの作ったてるてる坊主に当たりました!
「大丈夫!?」
「このくらい……大丈夫です」
 ですが、雷の当たったところは明らかに黒く変色しています。
「来ました!」
 その言葉に振り向けば、そう、それは何と言ったらいいのでしょうか。
 雲をでたらめにこねくりまわして、巨人の形に纏め上げればこういった形になるのでしょうか。ずしん、ずしんと雲を揺らしながら、それは確かに二匹の方へと向かってきます。
「雨が降るのを邪魔するのは、貴様らか?」
 まるで、天が震えるような低い声でした。てるてる坊主たちはほうきを構え直します。
「私たちはてるてる坊主。この方たちの願いにより、雲を払い晴れを呼ぶために来た!」
 猫まいたんの作ったてるてる坊主が勇ましく名乗りを上げると、巨人は割れ鐘のような大声で笑い飛ばします。
「ちょこざいな、我とて雨を降らすよう呼ばれたのだ。邪魔をするな!」
「待って! 雨が降るよう間違って呼んだのは僕たちなんだ! 僕たちのところにはもう十分雨は降った。だから、もう引き上げてくれない?」
 巨人は猫はやみんをちらりと見ると、莫迦にしたように鼻を鳴らします。
「そんなことは関係ない。我は呼ばれたから来たまでだ。それが間違いであろうとなんであろうと、我の知ったことではない」
「では、どうあっても引かぬというのだな」
 凛とした声で、猫まいたんが問うと、巨人も睨みするように答えます。
「そうだ、それこそわが使命。邪魔をするなら許さぬ」
「やむをえぬ。ならば戦うしかあるまい。てるてる坊主よ、我らも動けるようになれぬか?」
「では、これをどうぞ」
 と、たちまち二匹の背中には白い大きな羽が生えてきたではありませんか。羽は二匹の意のままに彼らを空へと運びます。
「十分だな」
「でも、戦うってどうやって?」
「アツシ、忘れたか? 我らは猫だぞ」
 その声に、猫はやみんははっとした顔で、爪を確かめます。
「分かったな? では、行くぞ!」
 かくして雲の巨人との壮絶な戦いは、火蓋が切って落とされたのでありました。

 戦いは壮絶なものでした。
 あたり一面に雷が踊り狂い、ひょうが降り注ぎ、風が襲いかかりますが、彼らは手にしたほうきで巨人の雲をかきとり、爪で雲を切り裂いていきます。
「何故だ! 何故我をそんなに攻めるのだ! 我がそれほどに憎いか!」
 雲の巨人は悔しそうに吼えますが、猫まいたんはむしろ悲しそうに答えます。
「そうではない! むしろ間違えて呼び出してしまったからこそ、元来たところへと一刻も早く帰って欲しいのだ!」
 翼をひらめかせ、急降下をした猫まいたんは爪でまた雲をひとかきしました。あちこちをかきとられた巨人はすでにぼろぼろですが、攻撃の手を緩めることはありません。
「なれば、こうだ!」
 突如、幾筋もの稲光がひらめいたかと思うと、一直線に猫まいたんたちのほうへと伸びてくるではありませんか!
「にゃにゃっ!」
「マイッ!!」
 あともう少しで当たる、という時に、白いものがさっと間に入り――稲光が命中します。
「てるてる坊主!」
「大丈夫……ですか?」
「莫迦者、なんということを!」
 てるてる坊主はあちこち焼け焦げており、もう動くこともかなわないようですが、猫まいたんが無事なのを確かめると、にっこりと微笑みました。
「くっ……。アツシ、手を貸すが良い。これでケリをつけるぞ!」
「わかった!」
「こ、これを……」
 てるてる坊主が差し出したのは、あのほうきでした。
「分かった」
 猫まいたんはほうきを受け取ると、力強く空へと羽ばたきます。
「雲の巨人よ! そなたを呼び出した私たちが、今ここでケリを付けよう!」
 猫はやみんもてるてる坊主からほうきを受け取ると、力強く構えます。
「ぼくたちが最後の力、受けてみろ!」
「やれるものなら、やってみるが良い!」
 巨人が最後の咆哮をあげます。
「行くぞ!」
 二匹の猫さんたちは、一気に急降下。雲の巨人が見る見る大きくなっていきました。
 と、突如稲光が何本も向かってきましたが、猫はやみんたちはひらひらと、これをきれいにかわしました。
 どんどんと巨人は大きくなり、やがて目の前に広がる壁のようになり――
「くらえぃっ!!」
 大喝とともに、猫まいたんはほうきを大きくなぎ払いました。猫はやみんが反対側で同じくほうきをふりまわします。
 突き刺さったほうきは雲をどんどんとかきとり、散らし、消し去っていきます。
 巨人の咆哮が響きます。が、深々とかきとられた雲は元に戻ることはありませんでした。
 やがて、巨人は力尽きたかのように大きく揺れ、そのままどうと倒れこみました。
「やったか……にゃにゃっ!?」
 猫まいたんたちが喜んだのもつかの間、雲の巨人がいたところから突如大きな竜巻が発生し、それはあっという間に雲を飲み込んだかと思うと、夜明けの空をどんどんと地上に見せていってくれています。
 それはいいのですが、その竜巻は猫まいたんたちのほうに近づいてきます。
「い、いかん!」
 慌ててよけようとはするのですが、なぜか羽は言うことを聞いてくれません。
 やがて、まずはてるてる坊主たちが吸い込まれていき、そして――
「にゃにゃにゃーっ!?」
 あっという間に猫まいたんたちもくるくると吹き飛ばされ、そこで何も分からなくなってしまいました。

   ***

「にゃにゃーっ!! ……え?」
 叫び声とともに、猫まいたんはがばりと飛び起きて――そこではっと我に返りました。
 ここは猫はやみんのおうち、その寝室です。ふかふかのベッドはゆうべ床についたときのまま、何事もなかったかのように二匹を包んでいます。
 どうやら既に夜が明けているらしく、窓からはカーテン越しに光が差し込んで、表では小鳥たちが楽しそうにさえずっています。
 猫まいたんは、一体何があったのかよく分からずにぼんやりとしていましたが、そのうちにとなりで猫はやみんが一瞬体を固くすると、恐る恐るといった感じで目を開きました。
「え? こ、ここは……マイ?」
「アツシ、目が覚めたか」
「あ、マイ。えっと……その……」
 猫はやみんは少しの間きょろきょろと辺りを見回していましたが、やがてほっとした様子で大きく息をつきました。
「ああ、なぁんだ。なんだかさ、ちょっとヘンな夢を見てね……」
「そうか、それは奇遇だな。私も思わず叫んでしまったようだ」
「てるてる坊主と」
「雲の巨人、だな」
 それから二匹は顔を見合わせ、小さく苦笑しました。
「こんなことって、あるのかなあ?」
「あったのかもしれんし……もしかしたらなかったのかもしれん。だがな」
 そういって猫まいたんは手にしたものを見せました。
 それは、彼女がてるてる坊主に持たせてあげたほうきでした。
「僕も……」
 そういって差し出した猫はやみんの手の中にも、同じものがあったそうです。

 思った通り、表は昨日までの雨が嘘のようにいいお天気でした。昨日までの雨が草木に残ってきらきらと輝き、朝日はさんさんと地上の全てを照らします。
 猫はやみんたちが作ったてるてる坊主はそこに変わらずぶら下がっておりました。ただし、体のあちこちに焼け焦げたような黒ずみを残しながらではありますが。

「さ、これでいいかな?」
「うむ、我ながらなかなかいいできだな」
 二匹の手の中には、あちこちつぎはぎだらけではありますが、丁寧に修理されたてるて

る坊主がありました。手にはもちろんほうきをしっかり持っています。
 猫まいたんたちは、彼らの首に、自分たちの首輪を調節してつけてあげました。金色の鈴がちりりん、と澄んだ音を立てます。
 本によれば、てるてる坊主にはこんな歌があるそうです。

  てるてる坊主 てる坊主 明日天気にしておくれ
  いつかの 夢の 空のよに
  晴れたら 金の 鈴あげよ……♪

 そのとき、猫はやみんが弾んだ声を上げました。
「あ、マイ見て、おっきな虹!」
 猫はやみんの言う通り、お空には虹がまるで架け橋のようにかかっておりました。
 二匹はしばらく声もなく、その美しい橋を眺めておりました。
 と、何かの気配に猫まいたんが振り向くと、てるてる坊主がなんとなくほほ笑んでいるように見えました。猫まいたんはそっと猫はやみんをつつくと、後ろを振り向かせます。
 猫はやみんも後ろを振り向き、やがて大きな笑みを浮かべました。きっと猫まいたんの言いたいことが分かったのでしょう。
てるてる坊主たちは、今でも猫はやみんたちのおうちに大切にしまわれているそうです。
 これにて、雨の日の一話、おしまいにございます。
 猫はやみんと猫まいたんたちの活躍はいかがでしたか?
 え? また来ることはできるのか、って?
 それはもちろん。月日はめぐり、季節は移り変わっていこうとも、彼らの笑顔と笑い声が絶えることはないでしょう。
 ここはにゃんだ〜ランド、誰にでも幸せが訪れる世界なのですから。

 *きらら、きら、きら、きら。*

 ああ、またもや時間が来てしまったようですね。
 お名残惜しくはありますが、これでお別れしなければなりません。
 え? また来たいって?
 大丈夫ですよ、前にもお話しましたよね? あなたが信じる心を失わなければにゃんだ〜ランドへの扉はいつでもあなたを待っているって。
 でもね、それはまた先のお話。
 またあなたがにゃんだ〜ランドへの扉を叩いてくださることを、お待ちしておりますよ。
 それでは、また会う日までごきげんよう……。
(おわり)


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