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そこにある危機


 4月24日(土)。
 尚敬高校。
 その裏手にあるプレハブ校舎横の小隊長室で、善行は書類整理に追われていた。
 善行の机に置かれた「未決」の箱には、書類がうずたかく積まれて処理されるのを待っていた。
「えーと、小隊備品の在庫状況報告書に前回の戦闘詳報。ああ、これは準竜師に提出する分ですね。あと新規機材の受領リストに4月分の収支決裁と……」
 ……なんだか委員長が見るにはあまりに些細な書類が混じっているようにも思えるが。
「……小隊の書類作成要領を見直さないといけないかもしれませんね。まあ、そんなことを言ってられるのもこのところ出撃しないで済んでいるからなんですが……」
 このところ、彼らの活躍もあってか人類は圧倒的優勢を確保している。おかげでここ数日は出撃命令もなく、それぞれ整備に訓練にと精を出すことができるようになっていた。今日も3号機が久しぶりの実弾射撃訓練に出ているはずだ。
 苦笑しながらも善行はてきぱきと書類を片付けていったが、ふとその手が止まる。手にした書類には「九州中部軍需生産詳報」とあった。
「熊本第2軍需工廠壊滅、か。あの時はウチも大変でしたね……」
通常、士魂号などは直接芝村のルートから配備されるが、弾倉やその他の備品は九州各所の軍需工廠から届けられる。熊本第2軍需工廠は5121小隊の備品補給先だったのだが、10日ほど前の幻獣の攻撃により不意を衝かれた格好で破壊されていた。
 それ以来他のルートからの流用品で確保しているが、需品ルートが混乱しているせいか届けられた備品の工作精度が以前より低下しているという報告も届いている。
 おかげでもう一度点検・組立を行わなければならないものもあったりして、整備の労力は並大抵のものではない。
「準竜師に配備ルートの変更を陳情してみますか……」
 善行がそんなことを考えていると、突然ハンガーの方角から爆発音が響いた。小隊長室が大きく揺れ、窓ガラスにひびが入る。
「!! 何だ!?」
 急ぎ飛び出た善行は、ハンガーの天幕が大きくめくれ、黒煙が上がっているのを見た。何人かが手に消火器を持ちつつ駆け寄っているのが見える。
 思わず駆け寄る。ハンガーに入ろうとすると中から鋭い制止の声がかかる。
「委員長、近寄られると危険です! ここでお待ち下さい!」
 入り口には若宮が立っていた。委員長と呼びかけたところを見ると、敵の攻撃ではないと判断しているのか。
「若宮戦士、状況は?」
「はい、ハンガー内で爆発がありました。どうやら弾薬の一部が爆発したようです。いまのところ誘爆・延焼の危険はありません。現在負傷者が数名出ております」
「負傷者!? 重症なのか!?」
「はい、いいえ、委員長。幸いにも軽傷であります。軽いやけどや破片による切り傷、衝撃による打撲が主であります」
「そうですか……。ともかく状況を確認します。ついてきなさい」
「委員長!」
「誘爆の危険はないんでしょう? 早く!」
「はっ!」

   ***

 ハンガー内は惨憺たるありさまだった。
 整備機器が散乱し、パネルの一部はひどく破損している。
 ねじくれた破片が床に散らばり、爆発の凄さを物語っている。よくこれで死者が出なかったものだ。
「くそう、めちゃくちゃじゃないか……」「衛生官! 石津、こっちだ!」「そこ!念のため消火器かけとけ!」誰のものとも分からない叫び声が響く。
「整備主任!」
 善行は整備主任の原を見つけると呼びかけた。彼女自身も腕に怪我をしているようだ。
「ああ、委員長」
「一体何があったんです?」善行が問いかける。
「爆発よ。多目的ミサイル倉の。推進剤の点火回路の試験をやっていたらいきなり、ね……。絶縁不良よ。回路の電流が信管にも流れてしまったみたい……」
 そういいながら原は奥を指差す。そこには確かに多目的ミサイル倉が見るも無残な形でねじくれて横たわっている。
「幸い爆発したのが一部だけだったのと、ミサイル倉自身が盾になってくれたおかげでこのくらいで済んだけど、全部誘爆していたら全員死んでたわね……」
 全くだ。
 善行の背中に冷たいものが走る。
 畜生、俺達は味方に殺されるために戦争をやってるんじゃないんだぞ!
 一瞬湧き起こった怒りを無理やり押し殺し、善行は原にたずねる。
「他の弾頭の処理は?」
「大丈夫。全て信管を殺してあるわ。今同じルートで届いたミサイル倉のリストを持ってこさせてる」
「班長、あなたもケガしてるんだ。早く手当てを!」若宮が気が気でない様子で言った。
「このくらい大丈夫よ。それよりも早く処理を済まさないと……」
「班長! リストです!」森がリスト片手に飛び込んできた。
「これによると、爆発したシリアルナンバーMMC−158ほか前後4パック、計9パックが同様のルートで納品されています」
「ええ、154と159は納品された当日に球磨地区防衛線で使用されているわ」
「後は前回の人吉地区防衛線で155と161が使用されていますから……、現在残っているのは156、157、158、160、162の5パックです」
「じゃあ、158は今爆発したから、残り4パックの全弾頭の信管を全て外して! 電源系は一切いじらないように!」
「はい!」と言いながらリストの次のページを見た森の顔が引きつる。こころなしか顔も青ざめているようだ。
「? どうしたの?」
「し、使用履歴によるときょ、今日、3号機が実弾射撃訓練で搭載しているのが156と157の2パックなんです!」
「!」「!」
原と善行の顔も引きつる。全ての弾頭がそうだとは言わないが、もし1発でも爆発したら……、今度もミサイル倉が盾になってくれるとは限らないのだ。
「速水千翼長と芝村千翼長に緊急連絡! 直ちに訓練を中止させなさい!」
「はっ!」若宮が瀬戸口を見つけるべく駆け出す。
「大変だ、下手すりゃ士魂号ごと吹っ飛ぶぞ!」

   ***

 通信機からは猛烈な雑音しか聞こえてこない。
「くそう、このチャンネルもダメか……。委員長! だめです、全チャンネル使用不可能です!」急いで 指揮車に駆けつけた瀬戸口が通信機を操作しながら報告する。
 多目的ミサイル倉の爆発は、ハンガー前に露天繋止されていた指揮車にも被害を与えていた。もちろん指揮車自体はどうということもないのだが、外部の通信アンテナ群が損傷を受けていたのだ。
「修復はできるか?」善行がたずねる。
「すぐには無理ね、さっきの爆発で予備部品にかなりの被害が出ているわ」原がどうしようもないと言う風に答える。
「それに、通じたとしても向こうはケースCで訓練を行っているはずだし……」
 ケースC。指揮系統が壊滅した状況下での戦闘行動。通常そんなケースに陥ることは滅多にないのでほとんど行われないが、訓練日程によるとケースCにおける遅滞防御の戦闘訓練を行うこととなっていた。
 そしてその場合には全通信系をカットすることになっている。訓練終了までこちらから連絡する手段はない。
「何て間の悪い……」
「訓練の開始予定時刻は?」
「あと10分」
 指揮車内に落ちる沈黙。
 例え指揮車を全力で飛ばしても、道路を走る限り絶対に間に合わない。
 5121小隊のメンバーは指揮車のまわりで事の成り行きを見守っていたが、やにわに滝川がハンガーに向かって走り出す。
「! どうしたんですか、滝川さん?」壬生屋が尋ねる。
「2号機を起動する! 士魂号でいく!」走りながら滝川が叫び返す。
「で、でも士魂号の最高速度では……」なおもいいつのる壬生屋に、滝川は
「分かってる! でも直線距離でいければなんとかなるかもしれねぇだろ!? ともかく行く! 親友があぶねぇんだぞ!?」
「……分かりました。1号機も出撃します! 起動願います!!」
 言うが早いか壬生屋もハンガーに向かって駆け出した。
 一瞬あっけに取られていた善行も、
「士魂号緊急起動! 出撃準備!」叫ぶように命令する。
 たちまち駆け出す整備員たち。
「40秒で起動するわ! ハンガー内から直接出撃して!」原が二人に指示を出す。
「緊急出撃! チェックリスト3から24までパス!」
「システムブートアップ!」
「栄養ペーストチェック! フルアクション45分です!」
「補給車を後続させるから帰りは考えなくていいわ! ともかく飛ばしなさい!」
『了解!』二人が返事する。
 すでに二人ともウォードレスも着ないまま搭乗を終わり、内部チェックを次々とすっ飛ばして出撃準備を整えつつある。
「それにしても、なんでお前まで出るんだよ?」滝川が疑問を口にする。
「1機より2機の方が確実でしょう? それに私にとっても彼らは戦友です!」壬生屋が言いきる。芝村に対する感情はこの際棚上げにするつもりらしい。
「違いねぇや」苦笑しつつ滝川は神経接続を完了した。原に連絡する。
「班長! 1号機・2号機出撃準備完了!」
「了解! 士魂号緊急起動完了! ハンガーロック解除!」
 士魂号を固定しているロックが外される。
 と同時に、2機の士魂号が風を切るかのごとく後先考えない全力疾走を開始した。
 士魂号が駆け出すと同時に指揮車が走り出す。補給車も後を追うべく出撃準備に入る。
 こうして5121小隊の時ならぬ全力出撃となったわけだが、士魂号が街中をじかに駆け回ったために近隣からはかなりの苦情が出たというのは余談である。

   ***

 一方、そんな騒ぎが起こっているとはつゆしらず、訓練場では3号機がケースC想定下の訓練を行っていた。
「舞、ダミーバルーンの展開が終わったみたい。準備OKだよ」
 最終起動シークエンスを行いながら、速水が報告する。
「それにしても、ケースCの訓練なんて初めてだよ。想定もちょっと極端な気がするけどな……」
「厚志、戦場ではどんなことも起こりうるものだ、こんな状況も体験しておいて悪いと言うことはあるまい?」後部座席から、舞がいつもの冷静な調子でたしなめる。
「それに、こんな時でもなければ実弾を使ってのチェックなぞできん。貴重な機会と考えるべきだろう」
 通常、出撃が重なってくれば、整備をしたとしても実際に動かすのは次の出撃の時ということがどうしても多くなる。シミュレーターでは実際の機体の調子は分からない。最終的には自分の手で動かしてみるのが一番だし、武器なら実際に試射してみるのが一番の早道なのである。
「それもそうだね。まあ、ここんとこ出撃もなかったし、勘が鈍っても困るしね」速水が相変わらずの調子で答える。
舞は「その通りだ」と一言返すと、火器管制システムのチェックを続ける。
「あ、ところでさ、舞」
「何だ? 用件なら手短に言え」
「明日さ、デートしない?」
「なっ!」
 ごきん。後部座席から何か変な音がした。どうやらいきなり立ちあがろうとしてヘッドセットに頭をぶつけたらしい。舞はそのまま勢いよく座席に落ち込んだ。
「〜〜〜〜〜〜〜〜っ!!」
「ま、舞。大丈夫?」
「う、うるさい!馬鹿者、そそそなたはな、なぬを言っているのだ!デデデ、デェトだと!?」舞が叫んだ。その顔はすでに真っ赤になって、心臓はバクバクと全力疾走中。
「え? でも通信系は全部カットしてあるし、誰も聞いてないよ?」
「そそ、そんなことを問題にしているのではない!」
先ほどの冷静さなどどこかに吹き飛んでしまっている。意味もなく手をわたわたと振る舞。
「ここんところ整備、整備で言い出す暇がなかったから、ちょうどいいかなと思ったんだけど……。それで、どうかな?」にっこりとしながら速水が問いかける。
 この笑顔に舞は弱い。心臓が下手なステップを踊る。多分耳まで真っ赤になっているだろう。
「う……」
「舞?」
「…………わ、わかった。」視線をそらしながら答える。
「ほんと? あはっ、よかった」
 速水は笑み崩れた。どうでもいいが結構強引なヤツではある。
「さて、じゃあ早いところ訓練を済ませて帰ろうか。ね?」
「う、うむ」
 まだ上気さめやらぬといった調子で舞が答える。
「あ、でも……」
「な、何だ?」
「火器管制系チェック、もう1回やった方がいいみたい……」
 よく見ると、チェックが「NG」のまま止まっていた。
 舞は慌ててチェックに入ったが、キーを押し間違えたりしてどうもいつもの調子が出ない。
「舞、大丈夫?」
 ぽややんとした速水の問いに、後部座席から無言で蹴りが飛んできた。

 ……結局、最終チェックにはそれから5分ほどかかった。

   ***

 2機の士魂号が街中を疾駆していく。
 その1歩ごとにアスファルトには深々と削られ、周囲の建物を大きく揺らす。住民はすわ戦闘かと驚いて飛び出してくるが、そんなことには構っていられなかった。
 士魂号は市街地を抜けて戦闘区域に入ると、道路を外れて直線コースで訓練場へと急いだ。
「くそっ、もっとスピードは出ねぇのかよ!」
 すでに限界値まで人工筋肉を酷使しつつ、滝川が叫ぶ。
「滝川さん、盾! 盾がついたままですよ!」
 壬生屋が自分の盾を外しつつ指摘する。
「え?あ、そうか!」
 滝川は急いでコマンドを入力すると、肩に装着されていた展開式増加装甲が土くれを跳ね飛ばしつつ鈍い音を立てて転がった。動きが2割ほど速くなる。
「おっしゃあ! これでまだいけるぜ!」
 足取りの軽くなった2機の士魂号は足も砕けよと駆け続ける。

 しばらくすると、前方に丘陵が見えてきた。これを越えれば訓練場である。だが、この丘陵は結構木々が茂っている。
「どうしますか?」
 全くスピードを落とさずに壬生屋が尋ねてくる。
「決まってるだろ、一直線にぶっちぎる!」
 まったくもって滝川らしい返答だが、素直にうなずいてるわけにも行かない。
「でも万が一を考えて、二手に分かれたほうが良くはありませんか? 私は左手から回り込みます。」
 確かに左手は樹木もまばらで、少しは通りやすそうだ。その分回り道になるが。
「……そうだな、じゃ、頼む!」
 言うが早いか2号機は跳躍体勢に入った。どうやらジャンプで切り抜けるつもりらしい。
「了解!」
 壬生屋もダッシュコマンドを入力しつつ左手に方向転換する。

   ***

 ようやく準備が完了した3号機は、早速訓練に入っていた。
 今回は遅滞防御ということなので、いつものジャイアントアサルトではなく92mmライフルを装備している。遠距離から大物や長射程型を狙撃し、残った雑魚はミサイルで一掃する作戦だ。
 幻獣の射界に入らないよう、小刻みにジャンプを繰り返す。以前舞が提案してきた戦術を実施することになったわけだ。
「厚志、1時方向にキメラだ。回せ!」
「了解。射撃後右ジャンプするよ」
 速水が機体をキメラの方に向けると舞が微調整する。
 ロックオン。
 辺りに響き渡る92mmライフルの咆哮。直ちに跳躍。
 直撃弾を食らったキメラが一瞬にして粉砕される。
「ふう、これで11体目か。大物はだいぶ潰せたみたいだね」
「そうだな。かわりにこちらも残弾が心もとない。厚志、もう1〜2体潰したらミサイルで掃射するぞ」
 92mmライフルは威力はでかいが装弾数が少ない。すでに予備弾倉は使いきっていた。
「うん、分かってる。舞、ミサイル発射ポイントの算出をお願い」
「わかった。任せるがいい」
 舞は素早く最も幻獣を射程内に含むポイントを算出し、速水に転送する。
 速水も最適ポイントへ向けての移動命令を入力する。その操作はさすがに初陣の頃とは違い、いっそ優雅と言いたいくらい流れるようなものになっている。
 その様子を見て舞は一瞬だけ感慨深げにしていたが、すぐにミサイル発射シークエンスに入る。
 微調整が行われ、舞の手によって次々とロックオンマークが点灯する。
 士魂号は発射ポイントに到達すると前屈みになった。幻獣が次々と照準を合わせてくるが、ここは耐えるしかない。いくらダミーと言っても気持ちのいいものではない。
「いいぞ、厚志!」
「発射!」
 次の瞬間、後部ミサイルポッドから、幻獣たちに死を告げるミサイルが発射――されなかった。
「なっ!」「!!」
 次々に幻獣からの射撃が着弾する。もちろん実際にはレーザーやミサイルではなくペイント弾だ。それでも3号機には次々と赤い花が咲いていく。
 速水はプログラムをキャンセルすると、急ぎ跳躍した。廃墟の影に隠れて体勢を立て直す。
「舞、どうしたの!」
「少し待て。……おかしい、どうしても発射命令を受けつけん」
 舞が緊急チェックのコマンドを入力する。程なく反応があった。
「わかったぞ。ミサイル倉の伝達回路でリークが発生している。点火回路が作動せんのだ。厚志、ミサイル倉を交換しろ」
「分かった!」
 直ちに弾倉交換コマンドが入力され、新たなミサイル倉がセットされる。いままでのは後で回収するしかないだろう。
「交換、完了したよ」
「うむ、しかしまずいな。今のでだいぶダメージを受けている。一度体勢を立て直した方が良かろう。一旦後退した後、ポイントの再計算を行う」
「それしかないね。後退するよ!」
 士魂号は再び跳躍を繰り返し、やや後方で再突入のタイミングを図る。しかし各所のダメージ(を受けたことになっている)のため、やや機動が鈍くなっている。(命中個所から自動的に各部のダメージが算出され、負荷がかけられる)
 舞が慎重に突入ポイントを計算する。
 やがて、3号機は再びミサイル発射シークエンスに入った。

   ***

 ジャンプを繰り返す2号機。
 やはり樹木に邪魔されてなかなかスピードが出せないが、遮二無二掻き分けるように進む。
「くそっ! もう少しだ、頑張れ士魂号!」
 少しでも進みやすい着地ポイントを探しつつ叫ぶ滝川。
 やがて2号機は丘陵の稜線を越えた。眼下に訓練場が一望できる。そこに……。
「いたっ! まだ無事だ!」
 滝川はムダと思いつつ通信回線を開いた。
「こちら滝川。速水、芝村でもいい、応答しろ! こちら滝川!」
 だが返事はない。
 そのうちに3号機は前屈みの姿勢になった。ミサイル発射体勢に入ったのだ。
「!!」
 どうすればいい? 焦りながら滝川は必死に考えた。
 無線は通じない、あそこにたどり着くにはもう少しかかる……。
「ならば……!」
 滝川は士魂号をその場に急停止させると、右手のジャイアントアサルトを構え、全力射撃コマンドを打ちこんだ。
 有効射程をはるかに超えているから、まず命中することはないが弾は届くはずだ。
「たのむ、気づいてくれ!!」
 次の瞬間、ジャイアントアサルトの多銃身が唸り、多数の20mm弾がばら撒かれた。

   ***

 全力疾走を続ける1号機。
 多少距離はあるものの、やはり進みやすい分滝川より先行していた。
 やがて1号機は訓練場のすぐ横手に出た。すぐ目の前に訓練場が一望できる。そこで壬生屋が見たのは今にもミサイルを発射せんとしている3号機だった。
「だめぇっ!!」
 壬生屋は一声叫ぶや手に持っていた超硬度大太刀を3号機めがけて投げつけた!
 ……1トンもあるようなものを投げつけたりして、大丈夫だろうか?

   ***

 再びミサイル発射シークエンスに入った3号機。
 今まさに発射せんとしたとき、異常に気づいたのは舞だった。
「レーダーに異常反応! 何かがこちらへ飛んでくる! いかん、厚志、回避しろ!!」
「了解! ミサイルコマンド解除、回避!」
 速水が急いで士魂号を跳躍させるやいなや、謎の物体はズンッ! と音を立てて士魂号のいた場所に突き刺さった。
『大太刀!?』速水と舞、二人の声がキレイにハモる。
 ……壬生屋さん、投げるの正確過ぎます。
「な、なんでこんなものが?」
「厚志、後だっ!!」
「へ?」
 速水が間抜けな声を上げた時、3号機は滝川が外して撃ったはずのジャイアントアサルトの20mm弾の弾幕にキレイに飛び込んでいた。ボディのあちこちに着弾する。
 滝川・壬生屋、グッドコンビネーション。
「くそっ、敵か?」
「舞、待って! あれは滝川……!」
 速水がそう叫んだ時には、舞は92mmライフルのトリガーを引こうとしていた……。

   ***

「まったく……、止めるなら止めるでもう少しましな方法もあったであろうが」
 舞が仏頂面のまま文句を言っている。
「悪ィ……」「すみません……」
 滝川も壬生屋もすっかりしょげ返っている。
 それはそうだろう。止めるためとはいえ損害を負わせてしまったのだから。
「舞、ともかく大した損害はなかったんだからいいじゃないか」
「よくない! 当たり所が悪ければどうなったか分からないぞ! それにあの大太刀だってよけるのが遅れればどうなっていたか……」
「こっちもライフル撃っちゃったんだから、おあいこだと思うけど?」
 さりげなく指摘する速水。うっといって押し黙る舞。
 結局あのライフル弾は、速水がとっさに士魂号の上体を捻らせたおかげで命中はしないで済んだのだが……。
「ともかく助かったよ。知らずにミサイルを発射していたら今ごろどうなっていたか……。ありがとう」
「い、いや、そう言われると……。すまねぇ」
 滝川が決まり悪そうに答える。
「もういいって、ね? 舞?」
 にっこりと笑いながら舞に問い掛ける速水。
「う、うむ。今後は気をつけよ。あとは……その……すまなかった」
 視線をそらしながら答える舞。
 芝村に謝られるとは想像もしてなかった二人は、目をみはった。
「あ、いや、こっちこそ……」「……すみませんでした」
 速水はそんな状景をにこにこしながら眺めていた。
「さあ、君達の士魂号もチェックしないと。もう限界なんじゃないの? ほら、補給車も来たみたいだし」
言われて全員が目を凝らすと、指揮車を先頭にいままさに5121小隊のメンバーが到着しようとするところだった。
「おーい!」速水が手を振る。みんなもそれにつられて手を振った。
 指揮車からも手を振り返してくる。

 どうやら、そこにあった危機は回避できたようだった。
(おわり)



(おまけ)
 ちなみに、この大騒ぎで壊した道路の補修に、5121小隊が総出で駆り出されて道路工事をやらされたとかそうでないとか。


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