前のページ | *
[目次へ戻る]

猫まいたんの猫関係講座


 ここではない、どこかにある世界、にゃんだ〜ランド。
 この風薫り緑豊かな常春の世界では、たくさんの動物たちがいっしょに仲良く暮らしているのです。
 ほら、今日も彼らの楽しそうな声が……。
 これは、そんな彼らのお話なのです。



 コラボ劇場SS 第4回「猫まいたんの猫関係講座」



 今日も今日とて、にゃんだ〜ランドはおだやかないい天気。
 こんな時には陽だまりでお昼寝なんていうのもいいものです。きっとわれらが猫まいたんものんびりと……?
 おや? ちょっと違うようですね。
 猫まいたんは家にこもってなにやら本を読んでいるようです。猫はやみんはどこかにお出かけしているのか、姿が見えません。
 猫まいたん、なんだかものすごく真剣な表情をしています。
「む〜、むむむ……」
 眉をきゅうっとしかめたりして、後々しわになりはしないかと心配したくなるほど真剣に読んでいる本の題名は――。
「ねこかんけいのABC」
 ……どうやら猫まいたんは、いわゆる「お付き合いのしかた」というものをお勉強しているようですね?
 確かに、猫まいたんはいわゆる芝村ですので、ひと……じゃなかった猫づきあいが決して上手だとはいえません。なにしろ、今でこそ大の親友であるうさ壬生さんとも、最初はしゃべり方が原因で大喧嘩を何回もしていたくらいですから。
 だとすれば、猫まいたんがおつきあいについて考えるのは当然なのですが……ひょっとしたら、猫はやみんにいつも振り回されっぱなしなのが面白くないのかもしれませんね?
 それはまあさておき。
 でも、猫まいたんの手は先ほどからあまり、というよりほとんど進んでいません。どうしたんでしょうね?
「む、むむ……こ、これは……」
 なんだかそのうちに、猫まいたんの額には大粒の汗が浮かび始めました。
 ちょっと本を覗き込んでみますと、そこには、
「はじめに、みんなと話をする時は、笑顔で話をするようにしましょう」と書かれています。
「ええい、本め。なんということを要求するのだ……」
 どうやら猫まいたんは、笑顔とはどうやったらいいのかがよく分からないようです。
 ……そんなの、いつもやってることなんですけどね?
 まあ、こういうものはえてして本人(?)は気がつかないものなのですが、そこから一歩も進めないでいるうちに、時間だけはどんどこ過ぎていきます。
「……まあよい、つ、次に行くか」
 いや、あまりよくはないと思うんですが。
 ともあれ猫まいたんが次なる一歩を踏み出そうとしたそのときです。
「ただいまぁ〜。マイ〜、寂しくなかった〜?」
「にゃっ!?」
 確実に50センチは飛び上がりながら、全身の毛を逆立てた猫まいたんは、慌てて本を隠しにかかります。
 その間にも足音はとたとたと段々大きくなり、やがて猫はやみんがひょっこりと顔を出しました。
「マイ〜?」
 ますます近づいてくる猫はやみんの声に、猫まいたんは相当あせったのでしょう。

 がたたたんっ!

「マ、マイ、なにしてんのさ!?」
「い、いたたた……。な、なんだアツシ。早かったではないか」
 もうもうと埃が立ち上る中、猫まいたんは下から見上げるように鷹揚な声で答えますが、ひっくり返っていては威厳のないことこの上ありません。
 どうやら、棚の上に本を隠そうとして足を滑らせたようです。
「大丈夫? けがはない?」
 あちこちの埃を払いながら、猫はやみんは心配そうに猫まいたんを見つめます。
「うむ、問題ない。なんだ、そんな顔をするな」
「だって〜……マイになにかあったら大変じゃないか」
 猫はやみん、既に涙目状態です。
「だめだよ、気をつけなきゃ」
「う、うむ、すまぬ」
「ところでさ……何読んでたの?」

 ぎっくーん。

 しっぽが先っぽまでパンパンに膨れ上がり、額にはさっきと別の汗が浮かんできた猫まいたんは、できの悪い人形みたいにぎいぎいときしむ音が聞こえそうな感じで首を回します。
 振り向いた先には、猫はやみんのいぶかしげな目。
 ――まずい。
「ん、いや、その、あのな、ね、ねこ学……そうだ、ねこ学の本だ」
「ふーん……?」
 猫はやみんはしきりに首をひねっています。
 ――ば、ばれなかったか?
 猫まいたんは小さく安堵の息をつきかけましたが……猫はやみんがそんな甘いわけはないじゃないですか。
 小さなため息でも猫はやみんは見逃しません。彼の目が鋭くきらりん、と光りました。
「あやしいな〜。マイ、何か隠してるんじゃないの〜?」
「べ、べべべ別に隠してなぞいないぞ?」
「そう? あやし〜なあ」
 いまや猫まいたんの背中は、だあだあと音を立てそうな勢いで汗が流れ落ちておりました。
「かっ、隠してない、隠してないぞ!」
 猫まいたんはぷるぷると首を振るも、猫はやみんの追求は止まりません。
「じゃあ、さっきの『ほっ』てのはなにさ?」
「そそ、それはさっき驚かされてしまったので、それに対する『ほっ』だ!」
「ふうぅん」
 猫はやみん、疑いの眼絶好調です。
「マイ〜? 分かってると思うけど、何か隠してたら……あとでおしおきだよ?」
 さり気になんかモノスゴイ事言ってますよ、この猫さん。
 この言葉に、猫まいたんの顔にさっと立て線が差し込みます。
「おっ、おしおきだと!? そ、それは……それはいやだ!」
 あー、猫まいたん? それじゃ自分からまずいもの読んでたってばらしているのではないでしょうか。
 それにしても、おしおき……?
 ――まーったくマイってば、こういうときに隠し事って出来ないんだからなぁ。
 世界を相手に戦える猫さんであっても、こういうところは実に素直なのです。猫はやみんは思わず苦笑すると、まるで小さな子をあやすような声でうながしました。
「じゃ、本当のこと言おうねー?」
「むー……、こ、これだ」
 と、取り出したのは、先ほどの「ねこかんけいのABC」でした。
「これは……?」
「この本を読んでおったのだ!」
 猫まいたんは顔を真っ赤にしながら、押し付けるよう日本を差し出しました。猫はやみんは表紙をじっと見つめます。
「ABC?」
「……そ、そんな目で見るな!」
 猫はやみんはそれからしばらく、本と猫まいたんを交代で眺めていましたが、やがて何かの理解に達したのか、手をぽふ、と叩きました。
「?」
「な〜んだ」
 猫はやみんはにへらと笑うと、猫まいたんの肩をぽんぽんと叩きます。
 ……なんだか妙に嬉しそうです。
「マイってば、そんな本読まなくても、僕が手取り足取り教えてあげるのに〜」
「……し、しかし、他者との付き合い方に疎いので、勉強せねばと思ってな……」
 ……なんだかびみょーに会話がすれ違っているように思えるのは気のせいですか?
「他の猫との関わり方も教えてあげるよ。ちゃんと」
 ――もちろん、他の奴らがマイを取らないようにしながら、だけどね。
 背後に漂う黒いものはさり気に隠しつつ、猫はやみんは笑顔でそういいました。
「本当か!?」
「うん!! ”手取り足取り”みっちり教えてあげるよ!」
 猫まいたんは、何故猫はやみんが必要以上ににっこにこしているのかよく分かりませんでしたが、ひょっとしたら悩みが解決できるかもしれないというのがとても嬉しくてなりませんでした。
 そのおかげでもっと大事なことを見逃しているような気もするのですが。
「で、知りたいことって何?」
 猫はやみんの問いに、猫まいたんは一瞬ためらいましたが、やがて思い切ったように口を開きます。
「ん、んーとだな……他の者たちとの話し方とかだな……」
「あー、それはね、芝村的に堂々と威張って話すか、目をそらして話すのがいいかもね」
 皆まで言わせず、猫はやみんは断定的な口調で言い切りました。
 ――真正面を見たら、マイの可愛い顔が見られちゃうからね!
 ……ねえ、猫はやみん? 視線をそらした方がある意味破壊力抜群だと思うんですけど、どうでしょうね?
「そ、そうなのか?」
 猫まいたんは戸惑ったような声で猫はやみんを見返します。何しろ今までそれで失敗してきたのだから当然でしょう。
 でも、猫はやみんは自信たっぷりに頷き返します。
「うん、もちろん! マイは堂々と自信を持てばいいんだよ! 今まではちょっとタイミングが悪かっただけだから、一呼吸置けば大丈夫だよ!」
「そ、そうか……? そうなのだな?」
「うん!」
「よし! やってみよう!」
「うん、バッチリだよ! いきなり目を見て話したら相手も恥ずかしいよ、きっと」
「う、うむ!」
 極意を教わったと思った猫まいたんは、力強く頷きました。
「これで、他の子達と仲良くなれるかもね」
 ……いや正直、それはちょっと難しいと思います。でも、猫まいたんはすっかりご機嫌さんです。
「だがアツシ、もし仲良くなれなかったら……。む! いや、そんなことを考える前に行動あるのみだな! ……にゃにゃー!」
 思い立ったがなんとやら。
 そう言うが早いか、猫まいたんはキッパリ立ち上がると土煙とともにかけ去っていきました。
「いってらっしゃ〜い」
 ドアを蹴破らんばかりの勢いで駆け出す猫まいたんをハンカチで見送りつつ、猫はやみんはおやつの準備に取り掛かりますが、顔にはうっすらと笑みが浮かんでいるのでした。

 ……ぶらっく猫はやみん?

   ***

 それから数時間後……。

 ぺたこ、ぺたこ。
 頼りなげな足音とともに、かちゃりと音がしてドアがそっと開けられました。
 台所に立っていた猫はやみんは急いでお出迎えしますが……。
「おかえりー、どうだっ……た? ……ダメだったの?」
 そこには、猫まいたんが全身で「がっくり」を表現しながらしょんぼりと立っておりました。それを見ては、猫はやみんのせっかくの笑顔も見る見るうちにしぼんでいきます。
「マイ……?」
「ダメ……だった」
 これがあの猫まいたんの声かと思うような小さな声が、ぽろりとこぼれました。これだけでも表で何があったかは容易に想像がつこうというものです。
「う……」

 ぐさ。

 これにはさすがの猫はやみんもちょっとこたえたようです。
 猫まいたん可愛さにウソ800つきまくり状態だった彼も、このしょんぼりした姿を見ては心に針が刺さります。
「そ、そう……」
 心をちくちくと針でつつかれながらも、猫はやみんはなんとか明るい声でこたえようとしましたが、そういうわけにもいきません。
「なかなか、うまくいかぬ……ものだな。そなたの言った通りにやってみたのだが、なぜか皆怒り出してな……」
 そりゃそうでしょう。
 でも、猫まいたんは秘訣を教わったと思い込んでいただけに自身満々でした。それだけに、結果がまるで裏目に出たことが響いているようです。
「こういうことは、やはり私には向いていないようだ……」
 猫まいたんは笑おうとしたようですが、その表情はむしろ痛々しくさえありました。

 ぐささっ。

 ……猫はやみんの心の針が、剣山に変わったようです。
 猫まいたんの耳もしっぽもへにょりと垂れ下がり、足取りはといえば歩き始めた赤ん坊のほうがまだしっかりしているかもしれません。
 やがて、つんのめるように座り込むと、ぽつり、ぽつりと言葉をつむいでいきます。
「もうよい。ミオは仲良くしてくれる、ののめーもいる。一応瀬戸口もいる。それでいいのだ……」
 でも、猫まいたんの目もとには、光るものがかすかに浮かんでおりました。

 ぐっさり。

 あ、今度は槍。
 猫はやみん、胸がさらにズキズキですが、ぐっち狼さんの名前が出てきたのにはちょっと耳がぴくりとしました。
「そ……そうだよ! ちゃんと親友もいるんだし! 舞の良さが分からない奴らより、親友がいればそれでいいと思うよ! 僕もいるし!」
 分からなくしてるのはあなたでしょうに。
 ……罪悪感は感じても、方針転換をしようなんて気はさらさらないようです。
「そう……思うか?」
 猫まいたんがゆっくりと顔を上げます。かすかに潤んだ目に、猫はやみんはいろんな意味でどきどきしています。
 ……心のほうにはゴンゴン杭が刺さっているようですが。
「う、うん! そうだよ! きっとそう!! 僕たちと仲良くしてようよ!」
 猫はやみんは力強く宣言します。事ここに至っても、どうやらぼんのーには勝てなかったようです。
 ……罪作りなやつ。
「うむ。そうだな。こ、こここ、これからも……頼む」
「うん!」
 ようやくのことで笑顔を見せた猫まいたんに、ほっと胸をなでおろした時……。

 くうううぅぅぅ……。

 なかなかきれいな音が室内に響きました。猫まいたんは慌ててまた俯きます。
「あはっ、お腹減ったの? マイがいない間にお菓子作ったんだ、食べる?」
「う……む。食べる!」
 猫まいたんは、さっきとは違う理由で真っ赤になりながら頷きます。
 こうして、おつき合いについては何となくうやむやにされてしまったのでありますが……。
 
 いいんでしょうかね?

   ***

「はい、ガトーショコラとジンジャークッキーとサンドイッチ」
 ソファーに腰掛けた猫まいたんの前には、猫はやみんお手製のおやつと軽食が次々と並べられていきます。
「う、うああ……」
 まだいささか沈み気味だった猫まいたんもこれにはかないません。思わず小さな声が漏れ、慌てて口をふさぐと、わざとらしいせきを何回もしました。
 猫はやみんはそれには気がつかないふりをすると、手早くケーキを切り分け、そのうちのひとつを猫まいたんの前にそっと差し出しました。
 もちろん、かたわらにはこれまた猫はやみんの淹れた紅茶がお出迎えです。
 猫まいたんは、ケーキをそっと口に含みました。
「……うむ」
 しっとりとしたケーキの感触とほろ苦さ、そして控えめな甘さが口の中いっぱいに広がります。猫まいたんは名残を惜しみつつケーキを飲み込むと、小さく頷きました。
「うまいな」
「えへへ、そう? ありがとう!」
 猫はやみんは笑顔を浮かべつつ、心の中でほっと息をつきました。
 ――よかった、機嫌が直ったみたい。
 気をそらした、とも言えそうですが、猫まいたんはおやつのおいしさにニコニコしていますので、まあ、いいのでしょう。

 もぎゅもぎゅもぎゅもぎゅ。

 しばし、静かな時間が流れます。
 猫まいたんが再び口を開いたのは、目の前のケーキが大体なくなった頃のことでした。
「それにしても、アツシは相変わらず料理が上手だな。私には……できぬ」
 猫まいたんの顔が再び暗くなりかけたので、猫はやみんはいささか焦りました。
「んー、でも僕はマイの料理が好きだなー。次はマイが作ってね」
 ……声が不自然に明るいような気もしますが、でも猫はやみんは心の底からそう思っていました。
 その声に、猫まいたんはちょっと目を見開きます。
「わ、私のか? しかし私の料理は、その、うまくは……」
「そんなことないよ。日に日に上達してるもん。それにこの間のケーキ! あれもとってもおいしかったよ?」
 猫はやみんの言うのは、お誕生日のケーキのことのようです。
「あ、あれはっ! ……あれは、ミオがいたから出来たのであって、私だけでは……」
「でも、マイも一生懸命やったんでしょ? ならそれは、マイが作ったんだよ」
「そ、それはそうだが……」
「んー。じゃ、今度は僕と一緒につくろうよ。そうしたらマイに僕の好きな料理をいろいろ覚えてもらえるし」
「そうだな。ところで……アツシは何が好きなのだ?」
 ちなみに猫まいたんは何回か料理を作ってあげています。
 でも、ほとんどは「猫まいたんができる料理」であって、好みはまだ把握していなかったようですね。
「僕? 僕は何でも食べるけど、好きなのは和食系かな?」
 猫まいたんは再び何かを考え込んでいましたが、やがて顔を上げると、
「和食……ではやはりミオに聞いてくるべきだな!」と、きっぱり芝村的に宣言しました。
「あ……そう、そうなっちゃう?」
 猫はやみん、ちょっと失言のようです。
 肉球にじっとりと汗がにじみ始めます。
「でででも、味付けとかはそれぞれだし! 僕と壬生屋さんの味付けもきっと違うよ、うん!」
「そ、そうなのか? 私はまた、てっきり同じものだとばかり思っておったがな。作り方なぞどこでも変わらないのであろう?」
「うん、それはそうなんだけど、特に和食は調味料の配合とか味の好みとか……それぞれの家の味がかなり出るよ。そりゃ、壬生屋さんの作る料理もおいしいけど……」
「む、むう、まあな……」
 猫まいたんはほんのかすかに眉をしかめます。どうやらうさ壬生さんの料理が褒められたので面白くないようです。
 猫まいたん、プチ嫉妬状態。
 猫はやみんは自分が再び自分が失言をしたことに気がつき、さらに声を張り上げます。
「で、でもでも、僕の味を覚えたマイの料理のほうがきっとおいしくなるよ。だって、僕の好きな味にマイの愛情たっぷり入るんだもん!」
「なっ……!」
 ――こ、こここやつは、全く……!
 猫まいたんはさらりとこんなことを言われてしまいドキドキしましたが、プチ嫉妬状態はまだ続いているわけでして。
 それに、つらつら考えてみるに男に習うのもなんというか、女としてはどうなのか、という思いもありましたので、素直に頷くことはできません。
 黙ったままの猫まいたんを覗き込むように、
「ね?」と猫はやみんが言うと、猫まいたんはようやく顔を上げ、
「では、教えてもらおうか」
 と、何とか表情だけは重々しく言うことが出来ました。
「うん! まかせて!」
 どうやら完全に起源の向きを変えることには成功したので、猫はやみんもほっと一安心です。
「……どうしたの? そんな目で見て」
「アツシ、アツシはどうやって料理を学んだのだ?」
「んー……。人間の厚志に教えてもらったり、本を見たりかな?」
 猫はやみんは、どうやら人間の速水とも知り合いのようです。どこで知り合ったかって?
 そこはそれ、それがにゃんだ〜ランドの不思議なところで。
「そうか……本を見ても私には出来なかったのに……」
 猫まいたんは、再び眉をかすかにしかめました。
 ……プチ嫉妬状態再燃中。
 でも、今度は猫はやみんも慌てません。
「んー、本の通りにしても無理だったりもするよ? そのときは自分でアレンジするの。何が何でも本の通りにしようとするとかえってできなくなるよ」
「自分でアレンジだと!? そ、そんなことをしてもいいのか?」
「もちろん! 『料理は創意工夫』って言葉もあるしね」
 ――そ、そうだったのか!!
 猫まいたんは驚きを顔に出すまいと懸命でしたが、頭の中では思考がぶんぶんと音を立てんばかりに回転していました。確かに自分の料理の失敗には、何が何でも本にあわせようとして、かえって失敗したケースがあるからです。
 ……ほんの一部ですが。
「本に載ってるものって全部揃えられなかったりするしね。そういう時はあるもので置き換えていくんだ」
「そ、そうか……そういう方法もあるのだな」
 ――確かに、マツタケなどはそう簡単には手に入らぬからな。
 猫まいたんは、一体何を作ろうとしたのでしょうか?
「そうそう、さっきも言ったけど、料理は創意工夫だよ。それに、うまく行かないときには適当に作っちゃうし」
「適当だと? し、しかし、適当に作ると爆発するのではないか?」
 過去の苦い経験が頭をよぎります。
「爆発? しないよ〜。それは多分マイが料理器具と材料の相性が分かっていないからだよ。そしてなければ置き換える。これだね」
「むー……」
 猫まいたんにしてみれば、自分の間違いを指摘されるのは確かに面白くありません。でも、分かっていないのも確かなので、黙って聞いていました。
「まずは一緒にやってみようよ、そうすれば分かってくるって!」
「うむ。アツシよ、そなたに感謝を。そして……これから頼むぞ!」
「うん! 頑張ろうね!」
 2匹ともにこにこしながら、再びケーキをつまむのでありました。

 でもね、猫まいたん? こういう言葉もあるって覚えておいた方がいいですよ?
 曰く「過ぎたるはなお及ばざるが如し」
 料理も……付き合い方もね。
(おわり)


名前:

コメント:

編集・削除用パス:

管理人だけに表示する


表示された数字:



前のページ | *
[目次へ戻る]



人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -