部屋を出た政宗様は何をするというわけでもなく座って空を見上げる。
私は隣に座ってそれを眺めていた。
『政宗様、少しおやすみになってはどうですか?』
「何故じゃ」
『眠れていないのでしょう?』
「……………」
黙ったということはそう言うことだ。
「心配するほどではないわ」
『政宗様…』
「うるさいわ」
目を反らして話を終わらそうとする政宗様の名前を呼んでジッと見ると怒られてしまった。
一人で抱えて、溜め込んで、いつもみたいに振る舞っている。
もっと言ってくれればいいのに。愚痴でも、弱音でも、何だって。
『……』
「……」
『……』
しばらく沈黙が続いたあとぽすっと肩に重みを感じた。
「少し肩を貸せ。休まずにお前にしつこく言われるのが嫌じゃから休むのだからな」
『…はいはい』
「なんじゃその返事は」
『なんでもありません』
何かと理由をつけているのが可笑しくて笑いをこらえて返事をすると不機嫌な声が飛んでくる。
またしばらく沈黙になる。
「………莢」
『はい?』
「お前は、夜は眠れるか」
『…はい、大分』
「そうか。わしはな…」
政宗様は静かに話始めた。表情はよくわからないけど声はいつもの威勢がない。
「眠ればあの日の夢ばかりを見るのじゃ」
『輝宗様のですか?』
「ああ。それと母上のあの言葉とわしを睨み付けたあの目のな…」
『先ほどもうなされていました』
「父上の夢を見たのじゃ」
そこまで言うと大きなため息をついた。
「わしは、天下をとらねばならぬ。そうでなければ父は無駄死によ」
『………政宗様』
「すまぬ、つまらぬ話をした」
すっと肩から重みが無くなる。
『もう良いのですか?』
「ああ、大分楽になった」
『政宗様、私でも茅でもいいです。今のような話をして下さいな』
「………嫌じゃ」
『何故?』
「お前らにこのような話をしたら騒ぎ出すからな。特にあの馬鹿が。それに…カッコ悪いじゃろ」
立ち上がって顔を背けた政宗様は少し赤い。
そんな照れるようなことではないと思うのだけど。
『一人抱え込んでいるのが格好がよいと言う訳ではありませんよ』
「う、うるさい」
これ以上言うと大きな声で怒られてしまうからやめておこう。
『政宗様は昔から素敵なお方ですわ』
「ばっ、馬鹿め!!急に変なことを言うでないわ」
真っ赤になって怒る政宗様が可愛くて笑ってしまった。
『政宗様、眠れぬ夜はお呼びください。お話相手になります』
「…しかし茅や周りの者が誤解するであろう」
『大丈夫ですよ、昔もお話していたではありませんか』
「では……たまに頼むか」
ゴニョゴニョと言いながら、私達についてきたであろう私の飼い猫の高丸を撫でる。
『はい、かしこまりました』
まだ照れているのか高丸と遊んでいた。
『おーい、そこの二人』
「そろそろ、戦の支度を」
『茅に直江さん』
そんな一人と一匹を眺めていると茅と直江さんがやってきた。
「わかった、莢に馬鹿茅行くぞ」
『はっ』
『馬鹿言うな!!』
また、にらみ合いになるのかと思っていたら政宗様は笑って茅を小突いて歩いていった。
なんだか珍しいです。