ここは奥州のあるところ。
賑やかな城下に隻眼の男が一人、二人の女を引き連れて歩いていた。
「全く何故わしが…」
『良いではないですか、城下の視察にもなりますし何より気分転換になります』
『そうそう!息抜きしないとさすがの馬鹿宗もおかしくなっちゃうからいいじゃない』
「なんじゃと!!茅、もう一度言ってみよ」
『なーんどでも言ったげるよ。馬鹿宗馬鹿宗馬鹿宗馬鹿宗馬鹿宗馬鹿宗』
「えぇい!黙れ黙れ」
『言えって言ったの政宗じゃないか!』
『もう二人とも皆さんの迷惑ですから!!』
顔を近づけ睨みあうのは先日、家督をついだ伊達政宗とその側近である双子の妹・茅。
その二人を止めるのは双子の姉・莢である。
若いからと家督をつぐのを拒むも先代で彼の父である伊達輝宗の意向は変わらず、家督をつぐことになった。
『茅、お団子食べるのでしょう?政宗様と喧嘩している場合じゃないでしょ』
『団子!』
『政宗様も茅と喧嘩などしていたら日が暮れてしまいます』
「くっ…………しょうがない今日のところは許してやろう」
そう言う政宗の言葉は茅には全く聞こえていない。
それに少し苛立つ彼を莢が宥める。
『政宗、お祝いに団子一個だけおごってあげる』
「なんじゃ急に」
『家督相続祝い』
「いらんわ、そんなもの」
『私も近々お祝いの品を献上しますから』
「…………堅苦しいのは嫌いじゃ」
ぷいっと頬を膨らましてすねた。
『あ、すねたー』
「すねてないわ」
『うりうり』
「止めぬか馬鹿め!」
『二人ともやめてください』
目当ての茶屋が見えてきた頃また二人のにらみあいが始まろうとしていたが、それは店で働く娘の悲鳴で終わる。
「きゃあ!」
「さっきから聞いてりゃ調子にのりやがって」
客の一人に絡まれているようである。
「全く面倒な…お前らはここで待っておれ…あ!」
政宗が双子に待つように告げたとき時すでに遅し
茅は絡んでいた男を締め上げ追い返し、莢は娘を店の奥につれていった。
「ハエより速いのではないか」
ため息をつき、政宗が茅達がいるところに向かう。
『おう政宗遅かったな』
「うるさいわ、それで何事じゃ」
『どうやら、遊びにいこうとしつこく迫ってきたので拒んだらあのようになったらしいです』
「そうか」
話を聞いていると先ほど絡まれていた娘がありがとうございます、と頭を下げる。
『それより大丈夫?怪我はないかしら?こんなにかわいい顔に傷がついたら大変だ』
「え、え?」
『これからも男に絡まれたら私を呼んで?助けにくるからね』
「茅様…」
「気持ち悪いわ」
『あは、ははは…』
自称この世のお姉さま(女子)をこよなく愛する茅はいつものように助けた女子を口説いている。
見慣れる程見ているのだが全く理解出来ない政宗と妹の行動にひきつる姉。
お店の店主がお礼にと団子の山を三人にだしてきたのの内、大半を茅が一人で平らげる。
この食べっぷりは大食い男顔負けである。
それに更に引きながら少しずつ口に運ぶ他の二人。
『政宗様、そろそろ戻らないと片倉様に怒られてしまいますの』
「そうじゃな、おい茅帰るぞ!」
『ふぁあい』
口に団子を詰め込んだ茅が手を挙げ店のものに団子の代金を払いこちらに駆けてくる。
「行くぞ、お前達」
『はい』
『お仕事やだー』
これは独眼竜こと伊達政宗に付き従う双子の従者“鬼姫”たちのお話。
出会い、別れ、恋、悲しみ、笑いのお話。
古ぼけた本に記された誰も知らないお話。