コックを捩ると、頭上から落ちる雨粒。滴る水は赤く濁る。
足の間を伝うのは私の体の一部だったものだ。今は用無しとなって、こうして排水溝へ流れていく。







「へえ?」
「ですから今日はダメです。だいたいこれから一週間」
「女の子って面倒だねえ」
及川さんはわかりやすくがっかりした。
ベッドの上の私。傍らに立ちん坊の及川さん。私が拒んだから。女の子の日にセックスはできない。
「俺は別に血まみれでやってもいいと思うけど」
「……勘弁してください」
お腹が痛む。
子宮の鈍い痛み。酷いときには、フックで掻き回されるように痛む。信じてもらえないかもしれないけど、大袈裟じゃない。
及川さんには一生理解できないだろう。
「……せっかく久しぶりのお泊りなのに」
「…………」
返事をするのも億劫で、私は黙ったまま。及川さんも喋らなくなった。沈黙が流れる。
時計の針、私の息、心臓、子宮が痛む、音。
「……トビオちゃんさあ」
ふいに影が差した。及川さんの両腕がベッドに乗る。私を覗きこんでいる。
「そんなに痛いの?」
「……はい、」
さす、さす、とお腹を撫でられて息が零れた。薄いシャツと下着越しに、及川さんの固くて大きい手を感じている。安心する、
「女の子って不思議だなあ」
と思っていたら、ツルリと果物の皮を剥くようにスウェットとパンツを足の半ばまで下ろされた。どこか感慨深げな呟きを落とす及川さん。
「ひゃ」
「わ、すごい、ドロドロ」
横臥して尻を露出した間抜けな格好でただ驚く私を、及川さんはいつも通り好き勝手に扱い始めた。
私の性器から血が垂れて、太ももをツと伝い落ちる。ドクリドクリと痛みが脈打つごとに、新しく流れ出る。この勢いなら、すぐにシーツにも赤い染みが付くに違いない。
「ねっとりしてて……生臭いかも。これが経血? ……汚いなあ」
「やだっ」
私の体を上から押さえ付けて、及川さんは血みどろの坩堝のようなそこに指を二本宛がった。ぬるっ、ぬるっと縦に擦られる。快感を覚えてしまう優しい手つきで。
「あ、ぃ、やだっ、離してください、っひ」
「あはは、トビオちゃん、いつもより滑るね」
及川さんの指を性器に含んで感じて、それでいて嫌だと言う私は滑稽だった。
お腹の痛みと快感が相俟って私の思考を侵食する。普通じゃない、音や臭いまでも。
「あ、だっ、くぅ」
「……可愛いねトビオちゃん」
「は、あ?」
及川さんは悪趣味だ。それで不思議なことを言う。私の局部は今非常に気持ち悪い状態に違いない。可愛いなんて嘘ばかり。私を可愛がるつもりがあるなら、こんな無体はやめてくれ。
「なに、言ってんの」
「愛だよトビオちゃん」
また訳の分からないことを。思うに、及川さんはだいぶおかしな人なのだ。
唇を歪めると、今日一番深いところまで指を進められた。
「ッ、ア!」
高い声が汗と一緒に散った。思わず眼下のシーツを噛み締めて、そこに唾液がジワリと滲む。
腰が震える。打ち上げられた魚のよう。死に際みたいに不規則な息。
「お、かわさん、だめ、やだって、あ……」
意地悪な及川さんは、私の言うことを聞かなかった。
ギュッと目を閉じて爪先を丸めて、私は及川さんに殺された。
「は、はァ、はう……っ」
指がなくなるとドプッと血が溢れる。
あっちもこっちも血まみれだ。
「トビオちゃんたら、ぐちゃぐちゃ」
「誰のせいで……」
余韻が去らない。萎えた足じゃ風呂場にも行けない。
引きずり出された粘液と血の塊が、腐ったような色と臭いで私の羞恥を呼び起こす。これが愛だとは少しも思えない。それでも及川さんがとても愛おしそうな目をして指についたそれを一口舐めるから、私は黙る。
このおかしな男の恋人の私も、既に相当おかしくなっている。





2013.01.30
トビオちゃん♀



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