02 | ナノ


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【11】マジック
「僕が、雪男じゃ、なかったら……」「やめて」結晶を、ココアの中にとぷんと落とした。「もしも話って、大嫌い」冷たいそれはあっという間に熱に負け、みるみるうちに小さくなって消えた。「ほら、融けた。嘘つき。もしもなんてないよ。手品じゃあるまいし」「手品、じゃなくて、魔法」


【12】待ちわびた声
「魔法なんてないよ」「それは、君が、知らない、だけ……」雪男は、部屋の隅に山積みにされたカラフルな箱をひとつ手に取り、そっと私の太ももの上に置いた。「大丈夫、たくさん、あるから。君さえ知ってしまえば……、それで、完成だから」僕は君の声を待っていたのだと、雪男は言った。


【13】愛
「ねえ、約束とか、魔法とか、完成とか、何のこと?」僅かな恐怖を覚えて、太ももの上の黄色い箱をテーブルの上へ移動させる。「あなたは一体何が言いたいの?」まっすぐに、雪男を見上げた。「僕は、雪男。……交わらない、はずだった、君に会いに来た。君の、……君の笑顔が、見たくて」


【14】紛失
「……わからないよ」私は言った。「私、私は、死ぬつもりでここに来たの。全部終わらせようって。だから、いらない。約束も、魔法も、ココアも。何もいらない」俯いて自分の指先を見つめる。冷たくなくなってしまったそれが、とても不満だった。「……なくしたものは、見つければ、いい」


【15】神話
「なくしたものって、何?」「君が幸せになるための、すべてのもの」その言葉が、声が、突然心の真ん中にはっきりと飛び込んできたような気がして、唇が震えた。「そんなもの……、最初から、持ってない」みっともなく、声まで震えたのが自分でもわかった。「……君は、オースタラなのに」


【16】時間の無駄
「オースタラ?」「女神さま、の、名前」その答えを聞いて愕然とする。「神さま? 何それ。私は……」膝の上でぐっと拳を握りしめて、柔らかなソファから勢いよく立ち上がった。「もういい。話していたって無駄だよ」去ろうとする私の背に、雪男が問うた。「どうしてそんなに死にたいの」


【17】セオリー
「……生きている、意味がないから」振り返らずに、言葉を落とす。「生きていたって、何もできない。何の役にも立たない。邪魔なの。いないほうがまし、なの」冷たい言葉に反するように、熱い何かが込み上げて零れそうになる。「無駄なものは、省くべきでしょ? 当然の、理論だよ」


【18】半径1メートル
雪男は何も言わない。続きを待たれている気がして、私は再び口を開いた。「……例えば、世界の大きさが、半径1メートルの円くらいだったとするでしょ。その中心には素敵な人がいて、回りには、その人の好きなものがたくさんあるの」小さく息を吸って、吐く。「私が居られる場所はないの」


【19】承認欲求
「君の世界の中心は、君じゃないの?」おずおずと発せられたその言葉に、頭がカッとなった。「そんなの綺麗ごとでしょ! 中心に居たくても居られない人だっているの。認められたくても、認められない人だっているの!」雪男は少し怯んだが、引かなかった。「君は、死にたくない、はず」


【20】理想のさよなら
「死にたいっていってるでしょう!」我を忘れて叫ぶ。大声が、脳の中にも響いて頭がくらくらした。「生きたい、のに、理由がない。そう言ってるように、聞こえる……」雪男が呟いた。もう一度大声を出しそうになって、ぐっと堪える。「もう、やめて。何も言わないで。静かに死なせて……」



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