01 | ナノ


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【01】誘拐
このまま。目を閉じて、冷たく、温かく、全てを終わらせようと思っていたのに。真白い雪風に攫われて辿りついたのは、小さなログハウスだった。悴んだ指先、真っ赤な鼻、速まる鼓動。ああ、神さま。ここまできて、それでもなお、あなたは私に生きろと言うのでしょうか。……それとも。


【02】ステージ
いつか誰かに言われた言葉を思い出す。「あなたは、舞台の上に立っていない。人を輝かせる照明の役でもなければ、観客ですらないわ」。いつも、いつだって、何事も満足にできなかった私に、生きている価値なんて。存在する理由なんて。扉に指を伸ばし、引っ込めては、また伸ばした。


【03】プレゼント
触れるか触れないかの距離にあった扉が唐突に開いて、指をひっこめた。同時に数歩、後ずさる。生暖かい空気と共に中から現れたのは、全身に白い毛が生えている、大きなもじゃもじゃ人間だった。その両腕いっぱいに抱えられたたくさんのカラフルな箱が、いくつか落下して足元に転がった。


【04】秘密の約束
「全部、君にあげる」その声があまりにも小さかったものだから、私は反応することができなかった。もじゃもじゃが僅かに、両腕をこちらに差し出す。ばらばらと、可愛らしい箱がまた落ちる。「これ、何?」ようやくのことで問うた。「これ、は……、秘密の、おまじない。あ、や、約束……」


【05】結晶
「どういう意味?」箱のひとつを拾い上げる。ピンクの箱に、白いリボンがかかっていた。もじゃもじゃは質問に答えず、躊躇いがちにこちらに歩み寄る。距離を保つように後退すると、もじゃもじゃは少し黙って「中、に、どうぞ……」と言った。「これ、何が入ってるの?」「……雪の、結晶」


【06】偽物の傷
ぬるい空気が、開け放された扉の内からじっとりと流れ出してくる。「雪を」ゆっくりと口を開く。「雪の結晶を、こんなに温かいところに入れたら融けちゃうよ。凍えている方が正しいものだって、あると思う」だから、私は中に入れない。そう言った。「……君は、傷付いたふりが、上手だ」


【07】そのまま
冷たい風に背中を押されて、扉の内に歩み入る。その暖かさに、全身がじんじんと痛んだ。促されるまま、茶色のソファに腰かける。「ココア、入れる」白のリボンを解き、箱を開けて中を覗くと、大きな雪の結晶が、融けずにそのままそこにあった。「……君が望む、なら、融けないよ。ずっと」


【08】未完成
「……どういうこと?」そっと結晶に触れてみる。それは透明で、冷たく、もじゃもじゃの言う通り融ける気配がなかった。「結晶も、君も、僕も、同じこと……」顔を上げると、湯気の立つココアが目の前のテーブルに置かれた。「それは、ただ、完成していないだけ。……君が、知らないだけ」


【09】朝焼けみたいな純情
おずおずとマグカップに手を伸ばしかけて、やめる。「あなたの言ってることがわからない。あなたは、何?」「僕、は、雪男」「雪男?」真白い雪と強風を思い出す。「私をここに連れてきたのはあなた? どうして?」朝焼け色のマグカップが私を見つめ返していた。「僕は、君、のことが……」


【10】rainy day
雪男の言葉はそこで途切れた。ひどく憎々しい気分になって、雪の結晶を摘み上げる。「ねえ、この結晶をこのココアの中に入れたらどうなる?」「……明日が、雨降る一日になる、だけ……」「……言ってることがめちゃくちゃだよ。馬鹿にしてるの?」雪男の表情は読み取れないままだった。



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