06 | ナノ


06



 どうやら黒部さんは、あの公園で、クラスメートである彼氏を待っていたらしかった。
 しかしそこに、一通のメールが来た。

 他の子と行くから、行けない。別れよう。
 それだけの内容だった、らしい。

「なんかね、公園で待ち合わせようって言われた時点で、おかしいなあって思ってたの」

 黒部さんは苦笑する。

「だって、学校から直接行ったほうが近いのに」
「……うん」
「厄介払い、されただけだったんだなあ」

 俺は何も言えなくて、俯く。

「それでね」
「うん?」

 すぐに顔を上げて、彼女を見つめる。

「さっき、見つけた。……一緒にいたの、クラスメートの、女子だった。結構、仲のいい子」
「そ……、っか」

 やはり、黒部さんは、探していたのだ。
 髪型に、体格に、声に、反応して。

「他の子、っていうのが誰なのか、どうしても気になって」
「うん……」
「連れ回して、ごめんね。こんなことになっちゃって」
「いや、全然! 全然、それは、いいよ」

 そう? と、黒部さんはまた笑った。
 前髪で目が隠れて、その表情は上手く見えなかった。

「あの……貧血にもなっちゃって。でも、助かった。ありがとう」
「いや……黒部さんが無事で、よかった。うん、大丈夫」

 俺は口の中で、何度も大丈夫と繰り返す。
 うん、大丈夫。
 そうだよな。
 大丈夫。

「でも、吉田くん、気付いてたんだね」
「あ……なんとなく、だけど」
「そっかあ……」

 ふう、と、全身の力が抜けたように黒部さんは息を吐いた。
 俺はごくりと唾を飲み込む。

 俺だって、本当に興味のない女子が相手だったなら、気付かなかっただろう。
 けれど。
 いや、でも。

「あの、黒部さん!」

 俺の大きな声は、静かな境内に響き渡った。



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