03
やはり俺は挙動不審だった。
辺りをきょろきょろと見回す。
「…………」
知り合いに見つからないか、不安だった。
「ねえ、吉田くん」
「えっ!?」
「あはは、驚きすぎー」
黒部さんは上機嫌なようだった。
言われるがままついてきてしまったが、一体、何故。
「吉田くん、あそこ、林檎飴売ってるよー」
「あ、うん……林檎飴だね」
言いつつ、また視線を彷徨わせる。
学校からほど近い神社で開かれている夏祭りなので、制服姿の人も多い。
家族連れ。手を繋いで歩くカップル。
カップル。
「あのさ、黒部さん……」
小さく呼びかけてみたが、黒部さんは既に林檎飴の列に並んでしまっていた。
本当に、一体どうして、こんなことに。
溜め息を吐いて黒部さんを見やる。
黒部さんはにこにこしていて、自分のための林檎飴を待ち望んでいるように見えた。
しかし、時折、周りに視線を配っている。
知り合いに見つかってしまうのは、彼女にとっても不都合なのだろう。
当然だ。
俺たちは、カップルではない。
「あ、ねえ、黒部さん」
俺は屋台に近付きながら声をかけた。
「うん? 林檎飴、もうちょっとだよ」
「うん、あの。俺、払おうか?」
少し視線を外して言うと、黒部さんはええっと声を上げた。
「なんで? どうして?」
「……なんとなく」
「えー、悪いよお」
うん、でも。言いながら、俺は財布を取り出す。
「出すよ」
「ほんとにいいの?」
「うん」
なんか、そうしなきゃいけない気がして。
声には出さないで、そう思った。
「ありがとう。じゃあ、おじさん、林檎飴ふたつ!」
「えっ、俺の分はいいよ」
「いいからいいから」
そう言って、黒部さんは林檎飴を一本、こちらに差し出した。
「はい、どうぞ」
「ありがとう」
「後で、『体で払ってもらおうか』とか言わないでね?」
俺は思わず吹き出したが、黒部さんは楽しそうにけらけら笑っていた。
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