「銀の夢喰い、いつ見ても綺麗だね」

 青い鱗粉が宙に融けて消えていったのを見届けて、藍はほっと息をついた。少年の頬を伝う最後の涙を指でぬぐうと、銀も満更でもない表情で頷いた。

「これでもう夢に泣かされる事も無いだろ」
「そうだね。じゃあ、永かった夢を喰っちゃった代わりに」

 藍が微笑んで指先にふっと息を吹きかけると、一羽の蝶が現れた。アヲだ。藍はその蝶を少年の頬に滑らせた。

「アヲ、この子にパパとママが居た頃の幸せな夢を紡いで。
 …ねえ君、君はパパとママから深く深く愛されてたんだよ?そして、今だって、きっとふたりは君を見守ってる」

 藍の言葉に、蝶はふわりと翅をはためかせた。すると、それに合わせたかのように辺りが青く煌めいた。

「さあ、安心しておやすみ」

 藍の手のひらからふわりと甘い蜜の薫りが漂い、青い光は、少年の瞼に吸い込まれるように緩やかに融けていった。

「…よい夢を」

 銀が、柔らかな声で呟いた。

「さて銀、帰ろうか。雨に濡れたせいで寒くなってきちゃった。風邪引くかも」
「は? 俺、全然寒くないけど」
「銀は鈍感だからさ」
「言うねお前。風邪引いたって看病してやらないからな」

 仕事を終え、軽口を叩いて笑いあうふたりの頭上では、いつのまにか雨が上がり、垂れ込めていた雲の消えた夜天で月が静かに輝いている。


 世界には、悪しき哀しき夢を喰い、優しい夢を紡ぐ者が居る。夜な夜な夢を渡る青い蝶は、愛を込めて彼らをユメクイ、或いはユメツムギ、と、呼ぶという。

-END-


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