ぽつり、涙が落ちた。
「なに泣いてんの」
「べつに」
真夜中の公園は森閑として、冷たい空気に満ちている。あたしは鼻先をマフラーにうずめた。
「別に、ねえ…」
あたしの心を見透かすように呟いて、ショータはブランコに腰かけた。ブランコが揺れる。軋む音を立てるそれは、ゆっくりと、真夜中の空気を切る。
「封印したつもりだったんだもん。あたしの気持ちはあの子に知られちゃいけないって、わかってたもん」
言いながら、あたしは堪えきれずにしゃくりあげた。涙腺は決壊。寒いせいで鼻水も止まらない。あたしはブランコの鎖をぐっと握りしめ、勢いよく立ち漕ぎをはじめた。
「…ほんとバカだよなお前って」
「なによ、その、盛大、な、ため息」
しゃくりあげるのと鼻を啜るのとで言葉が切れ切れになる。ショータはニヤリと笑うと愉快そうに言った。
「さて、じゃあ俺もそろそろ封印解除しよっかな」
「フーイン…カイジョ」
意味もなくおうむ返しに呟きつつ、あたしはスピードをゆるめて地に足を着けた。そんなあたしの頭を、ショータがぐしゃりと撫でる。
「あのな。俺はお前が『親友の彼氏』ってヤツに横恋慕してウジウジ悩んだり泣いたりする前からずっとお前が好きだったんだよバーカ」
ヨコレンボ。あたしは耳慣れない単語に一瞬だけきょとんとしてから、それどころじゃないことに気がついた。
「アンタがあたしを、…何だって?」
「バカ、何度も言わせんな」
ふいっと視線を逸らしたショータの横顔を見ると、公園の薄っぺらい電灯でもはっきりわかるほど、その頬は真っ赤に染まっていたのだった。
(あの、その、あたし、心の準備がっ)
(失恋したてのヤツとっ捕まえて今すぐどうこうなりたいなんて思ってねーよバーーカ!)
-END-
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┗涙腺/真夜中/封印